歩くのは、平気なんだ、俺達。
本当に、平気。
いずれうまいメシが喰えるって確信さえあれば、それが例え根拠のない妄想だったとしても、俺達は歩き続けることができる。
何時間だって歩ける。
「妄想のタメにノンストップで」・・・これが、「妄想特急」の真の意味でもあるんだからな。(今、考えた)

だけど・・・先の見えない闘いは、ダメだ。
段々と閉じてゆくメシ屋の数々。いくつもの、本当にいくつもの、「開いてれば、ココで食べたかった店」に出会う度に、削り取られていく自信。
歩けば歩くほど、時間をかければかけるほど遠ざかる勝利。誰がこんな状況でモチベーションを維持できる?
俺達が歩きつづけられたのは、一人じゃあなかったからだ。最後まで歩き続けられたのは、自分以外の5人の仲間と共にあったからなのだ!!

別に励まし合ってたわけじゃあないけどね。むしろ、貶し合っていた。
ブルースが「ぶっちゃけ、座ってマッタリメシと酒がいければ、俺は焼肉でもいいような気になって来たぜ」と言えば、「けっ!焼肉喰いたきゃ、台湾まで来ねーよ!川崎来い!川崎!」
逆に俺が「もう屋台街しかねーよー。屋台いこーよ、魯肉飯うまいよ、担仔麺うまいよ、きっと」と言えば、「そーいうのは昼喰ってんだろ!1日中同じもん喰う気か、このマンネリ男が!」
と、ちょっとでも自分の気に入らない意見はお互い全面否定なのだ。
このとき、2〜3人が同じ方向での妥協を認め合ってしまっていたら・・・俺達は一度だってサイコーの飯には辿りついていないだろう。
磨き合うということは、摩擦し合い、傷つけ合うということなのだ。
そして、傷つけ合いながら、俺達が辿りついた処、それが、

これだ!!

「鶏家荘」か。うまそうじゃねーか。
見つけた・・・ついに見つけたんだな、俺達・・・
待て、泣くな。安心して泣くな!喰って泣け!



客の引き始めた店の奥に通され、円卓を囲む俺達。永く険しい探求の旅はココが終着店。聖杯はすぐそこだ。
いや、聖杯というよりは・・・「紹興酒!もちろんレモン付きで!!」
・・・・・いや、「レモン!紹興酒付きで!」だったか?



ふと目をやると、こんな素晴らしいメニュー表が。
あんまり素晴らしいので載せておきます。いいでしょ、特に右上のこの火の鶏が!

そして、レモンと紹興酒が到着。宴の始まりだ。
この、南国の馨り溢れる緑のレモン。前回の台北旅行で俺だけが単独行動を余儀なくされたときに(山西狂刀ひとり旅参照)みんなが発見した味であり・・・・いつまでも自慢されているのがウザかったんじゃ!いよいよ俺も呑むぞ!レモン紹興酒!!


と、その前に記念すべき緑レモンの写真を撮っておく

「まだ手ェー出すな、ブルース」「もう我慢できねーんだよッッ!!」

レモン取ったら、紹興酒にぶち込め!絞ってもいいぞ。つーか、むしろ積極的に絞りたまえ。

そして、紹興酒といえば醤油しじみでしょう。
俺、コレ以上に紹興酒に合うコンビ、知りません。


ところで、これは忘れちゃならない。この店は「家荘」
自慢の鶏を喰わせる店さ。
紹興酒と緑レモンと醤油シジミは確かにうまいが、この街じゃあ、言わば標準装備。俺達が追い求め続ける「一食一食のオドロキ」のためには、やはりこの店のオリジナルホールドを喰らっておく必要があるだろう。
いや、必要なんか無くったっても、喰う。だって、旨そうなんだモン。


そして、我が流派の伝統に基づき、適当になんか美味しそうなものを頼む。気になったものは頼む。謎なものも頼む。


まずは蒸し鶏。オーソドックス、そしてもっとも鶏そのものの旨さを味わえる料理である。と肉弾頭は信じている。
そして、旨い!なんの奇も衒いも無く、ただ純粋に旨い。つまり、ジューシーでプリプリで、皮と身の間がとろ〜りなのだ。
鶏ズキの夢を形にしたような、つまりはそんな料理。
これは鶏好きにしか作れないッぜェ〜〜〜!こんな鶏好きの料理人が作る鶏料理の贅。
期待の余り、なんだか涙まで出て来やがった、ぜェ〜〜〜〜〜〜!



2品目は、趣向を変えて炒めモノ。タレに溶け込んだ唐辛子のピリ、が口の中に足跡を残すようなほんのりカラ。
おや、しかし、「ホクホクのあっさりだ。鶏肉にこんな淡白な部分があったなんて・・・・ささみなのか、ここ?」
いや、多分コレ、蟹の身。
なるほど。合点。白身魚のように淡白な蟹の剥身が、一緒に炒まった鶏肉の旨みを引き立ててるぞ。こりゃあいい。

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