店はそこにあった。雲南人和園餐廰昔のまんまにそこにあった。

「来たな・・・」
「ああ、ついに帰って来た」
感無量であった。
肉弾頭とブルースの双眸から、滝の如く溢れ出る涙・・・・・・はさすがに無かったが、ヨダレは今にも溢れ出しそうだったのだ。
話は2年前に遡る。

1999年2月。肉とブルは台北にあった。
念願の台湾旅行。仲間を集めて、大人数で本場中華料理の大皿を突つこうという計画は数多の事情、トラブルを経て、ただ2人の旅となったのだ。
もっとも、この後バンコクにて、「すの字」と合流する予定ではあったが。そのエピソードはいずれ紹介しよう!
さて、2人きりの哀れな食いしん坊を、しかし台北の街と人は暖かく包み込んでくれた、そのクライマックスが、何を隠そうこの雲南人和園餐廰であったのだ。
いよいよ明日は台北を離れバンコクに向う2人。いや、2匹。
記念すべき最後の晩餐は何処に行くべきか?
店選びにさしたる緊迫感はない。だって、何処に行ってもウマイことは判っているから。ちっちゃい定食屋でも、牛肉麺と排骨飯しかないような屋台でも、目をつぶって店に入っても、必ずウマイのだ。この街は。
ホテルのテレビで「ちびまるこちゃん」を見ながらガイドブックをめくるブルース。
「おい、知ってるか?中華料理って、5大料理って言われてるんだぜ」
「5大料理?・・・・・・広東、四川、北京、上海・・・あれ?あとひとつはなんだろう」
指折り数える肉弾頭。
「デ〜ン、デデ〜ン〜」
「なに、ソレ?」
突如、ブルースが口ずさむメロディは、アーノルド・シュワルツェネッガーの出世作、映画「コナン・ザ・グレート」のテーマであった。
「5つめは湖南料理だッッッ〜〜!!・・・というわけで、湖南料理、食べない?」
「いいね〜そういう珍しそうなの」
と、言うわけで、ガイドブックと首っ引きで探し始めたが、
「ないじゃん、湖南料理」
「う〜ん、でも、雲南料理なら、このホテルのすぐ近くだぜ」
「雲南料理・・・ますますマイナーな・・・」
「雲南省ったら湖南省のすぐ南でないの。似たようなモンだって」
「ま、そこで間に合わせるか・・・」
その夜、俺達は人生の至福を感じることになったのだ・・・・・・

続く

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