さてと・・・・・・
武蔵野台地は広い。
関東平野北部、埼玉県南西部から東京都北部にかけての大雑把に区切られる穀倉地帯。それが武蔵野だ。そして、その地域内で饗されるうどんは全て、広い意味での武蔵野うどんなのである。
ヨーロッパの小国ならばすっぽりと収まってしまうほどの広さなのである。
例えばあなたに、4人のモナコ公国人の友人があったとしよう。それをもって、モナコ全てを知っているなどと嘯けば・・・あなたはとんでもない恥をかくことだろう。
たった四店!!
これからも、機会があればうどんは喰っていこうと思う。
以下は、さわだを中心に廻った後日にくった武蔵野うどんで、是非とも追記したいと感動した店の記録である。

篠新東京都清瀬市
夜なので、店構えの写真は無し。



なにはともあれ、肉盛りがあったので、肉盛り注文。ブルースも肉盛り注文。
武蔵野といえば、何は無くとも肉汁つけうどん(肉盛り)という常識がすでにできあがっているようだ。
それは変えがたい真実なので間違いないのだが。
おまけに、しょうが、ネギ、ほうれん草、うずら卵と、薬味も豊富。ありがたい。肉汁プレーンから初めて、いろいろ足して行って味の変化を楽しむことにする。



麺。ほんのかすかに茶色味を帯びて・・・判っているとも、お前はアレだ。例のアレだ。
一本口に含んでみる。コシというより粘りがあり、粉本来の感触と旨味。
そうだ、武蔵野うどんだ!
さわだなどと同種の、まさに武蔵野うどんの本懐。粉の旨味を味わわせるうどん。
肉汁の旨味が、吸収のよい麺にダイレクトに乗り移る。
うまい!大盛り、特盛りを頼まなかった自分たちを呪う。しかし、それが正解であったことは30分後に判明するのだが。
行って見たいという人のために、あえて看板のピンボケ写真を紹介しておこう。


一将東京都清瀬市
篠新をでて、俺たちは暫く彷徨う。とにかく、篠新が旨かったので、あとはどんなに外しても今日は当たりの日。勝った気分で家路につける。何食も喰えるうどんの、これが食べまくり的利点。
しかし、得てしてこういう気分に余裕のあるときこそ、またもや当たりを引くことがあるのだ。
所謂「勝ち癖がつく」ということだ。
そんな大人の風格を漂わせたブルースのうどんレーダーにヒットした店、それがこの「一将」だ。


店内にはおやじ一人。店員は他に無し。厨房は、カウンターの内側に、おやじを取り囲むように器具が並ぶ。独闘に特化された機能美と言うべきか。
そして、何は無くとも肉盛りうどん。


わお、シンプル。肉汁の肉は、調理後角切りしたっぽい塊肉。故にさわだや篠新ほどの肉っぽさはなさそう。
しかし、それが決して欠点とはいえないことが後に判る。


これが、麺。
実は、コレを見た瞬間に、俺にはコイツの正体がほぼはっきり判っていた。
後にブルースも語った。「ああ、もう、一目見てすぐ判ったよ」
弾力、コシ、うどん一本で一つのセルを形作る、コイツは・・・
讃岐うどんじゃねーかッッ!
完全に讃岐うどんじゃねーかッッ!!
しかも、これは予想を上回ることに、一流の讃岐うどんであるのだ。俺らが讃岐で喰ったなかでは一番旨いと思っていた「岡泉」に勝るとも劣らない、讃岐で喰っても「特に旨い」と思うだろう、一流の讃岐うどん。
看板に「讃岐うどん」とあったか?外に飛び出して確かめたい欲求もあったが、少なくとも今は食卓を離れられない。
噛み締める歯の根が喜びに打ち震えるコシ。喉越しにつるりと残る食感。
無言で、俺たちは食べた。
肉汁で讃岐うどんを食べるという倒錯した喜びに、しばらく言葉を失った。
それにしても、東京でホンモノの讃岐うどんを喰えるとは。今まで、「讃岐うどん」を冠した、演出以外どこも讃岐で無いうどんしか東京には無いと思っていたのに。
高村智恵子に一言言ってやろう。
「東京に空は無いかも知れん。しかし、讃岐うどんはある!!」
帰りがけに看板を見上げた。
「東京うどん」と書いてあった・・・

一将東京都清瀬市
後日また、一将。
最初に篠新、一将を喰った日に、うまそうだがすでに閉まっていた店にめぼしをつけ、日を改めて来て見たらまた閉まっていた、という事情のためもう一度一将に来ることになったのだ。



俺が、ぶっかけに天ぷら。ブルースが山菜おろしぶっかけ。
ぶっかけで喰ったら、2つ判った。
やっぱり、讃岐うどんにはぶっかけが一番。
そして、一将のうどんは本当にもう、余すところ無く完全に讃岐うどん。
ホンモノであるが故に、ネームバリューに頼る必要なしということか。

えん座練馬区石神井


珍しく、昼にうどん。練馬区も武蔵野台地の範囲内。ここも広い意味で武蔵野うどん。


何は無くとも肉汁うどん。
しかし、何かが違うぞ?この麺・・・・



太めでしっかりした麺。箸で掴むとよく判るシッカリコシがあるので、箸がめり込まないで、絡まった中から引っ張り出しても一本、するするるる〜と抜け出して来る。
麺を微妙に絡めて持っているのは、その面白さを実感させるためか?
麺の青いのは、練馬名物練馬大根を練りこんだからだと予め説明を受けている。
それよりも、気になるのは食感。さて、
硬い。しかし、讃岐うどんのように歯を押し戻す弾力は強くない。かといって、武蔵野うどんのように歯を包み込む粘りも無い。
表面から深奥まで、均質でこなれた硬さが押し返してくる感触。粉っぽくは無いが舌にどっしりとした存在感で残る旨味。
いままでのうどん評を讃岐っぽさと武蔵野っぽさで表していた俺には、なんとも説明の仕様が無い、独特のうどん。宇宙に唯一つの味。
だが、そんなことより大事な真実が一つある。
ここのうどん、うまい。
いや、今思えば、カテゴリー分けの出来た今までのうどんも、一流の旨さを持つうどんはやはりどこかしら独特の旨さを持つ、宇宙に一つの味であった。
これからも、いくつものびっくりに出会うであろう、俺たち。驚くたび毎回紹介していてはキリが無いので、「武蔵野うどん」の項はこの店で一段落だが、それでも紹介したい店にはこれからも出会うだろう。
随時、形を変えて紹介していきたい。




ついでに、えん座でおれとブルースがつい追加注文してしまったかけとぶっかけについても紹介しておきたい。
同じうどん。
しかし、暖かいつゆに入れると、濃縮されて引き締まった麺のなかの粉がが少しほぐれて旨味が増す。そして、シッカリと効いた出汁がとても幸せにしてくれる。
逆に、ぶっかけると更に麺が締まる。味付けは濃いが、染み込まない麺なのでちょうどいい。この喉越しは、やはりぶっかけならではだ。
麺ごとの向き不向きもあるが、出し方を変えるといろんな魅力が味わえるのも、うどんの魅力なのだなと、当たり前のことを再確認させられた。

久兵衛屋埼玉各地
前回の紹介で「九兵衛うどん」と表記してしまった俺。あとで訂正しておきます。
それから、写真撮り忘れてたし、後日撮っておいた肉盛りヅケ丼御膳の写真を紹介しておきます。



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