2003年、一人で台北をうろつく機会を得た。
別日程で台湾に行ったブルースと途中合流し2食ほどは食卓を囲んだが、大まかには一人でうろつく。
チャンスだ。せっかくの海外旅行で定食屋ばかりでは他の面子に悪いので実行不可能だった定食屋巡りで、今度は食べまくるチャンス!
2002年にも一度だけ魯肉飯を喰うチャンスはあったが、やはり角煮丼だった。

台北タイガーシリーズ(2002)肉圓参照


そして、2003年。朝から夕方まで、定食屋で常食を喰いまくる。
この新食べバカで、森田信吾先生の著作から引用させていただきまくっている“常食”。台北の定食屋なら結構どこでも置いている、魯肉飯、胆仔麺、牛肉麺などは、まさにこの名称が相応しい、台湾っ子の定番中の定番だろうと思われる。
ここまで俺が書いた“おばちゃんの店”への憧憬が、ひょっとしたらみなさんには魯肉飯への不満に聞こえているかもしれないが、とんでもない。
角煮丼としての魯肉飯も、俺にとって台北のイメージそのものを表わす味の一つであることは間違いない。


例えば、コレ。皮付きだよ。ぷりぷりした皮付き肉が、まろやかに角煮にされている。
醤油と混じった肉汁が飯に滲み出てじわあ〜っと、さらにまた、噛み締めると口の中に滲み出す肉汁を、飯と共に呑み込むと、肉の旨味が本当によく味わえる。



次の店が、コレ。続けざまに喰って、実は同じ器だったことに写真を見て気が付いた。
食器に金をかけない大衆食堂では、大量生産の一山いくらのプラスティック容器を使っているのだろう。
この気取らなさも、常食たる所以だ。
で、この角煮はさっきの店よりも固く、もっさりしている。
が、何故かその分飯が旨い。煮汁のほうにたっぷり肉汁を出しすぎて肉がパサついているのだろうが、その分、その煮汁を受けた飯の旨味はパワーアップだ。
俺にはむしろこちらのほうがありがたい。魯肉“飯”だからな。なんと言っても飯がメインだ。

他に、写真の無い店もいっぱいある。だいたいが、この大衆食堂ってーか、定食屋は、わざわざ食い物の写真を撮るってムードじゃないのだ。
日本語ぺらぺらのおばちゃんがつきっきりで話しかけてくれて、カメラなどとても持ち出せなかった店の魯肉飯は、もっと肉汁が出ててよかったのだが。
しかし、そのお陰でおばちゃんにはスープ(湯)をご馳走になった。


さて、しかしここで、大王発見。


台湾の人は、すぐなんにでも大王をつける。あちこち大王だらけだ。
群雄割拠だ。まるで戦国だ。
まあ、そんなことはどうでもいい。大王と言うからには魯肉飯に懸けているのだろう。自信があるのだろう。
わざわざ魯肉飯食べ倒すぞ、と来た俺が敢えて入らないわけが無いだろう?



・・・・・・・・そぼろ飯だ。
これだ、そぼろ飯だよ!!
旨い!おばちゃんの店で喰ったあれだ!
幻なんかじゃあなかった。俺が覚えていた通りの味だ。
肉汁の染みた飯じゃない。
飯が肉汁だ。肉汁が飯だ。食べバカの命を燃やすんだ!
何たること!この濃すぎる旨味。・・・・・・つまりはこういうことだったんだ。
角煮を煮込んで煮込んで、煮崩れてボロボロになり、あたかもそぼろであったかのような状態まで肉汁を煮出しきった煮汁をかけている飯なんだ。
もちろん、肉そのものは角煮状態のほうがおいしい。どちらをとるかは好み次第。この1日に喰った魯肉飯にもいろいろな煮込み状態があった。
これだけ普及しあちこちにある当たり前のメニューだからこそ、これだけの個性が発揮できるのだろう。
少なくとも、俺には、おばちゃんの魯肉飯、ひいては俺の心の魯肉飯をまた喰えたことがなによりも嬉しかったのだ。

ちなみに、この日あちこちをふらふら彷徨ったせいでこの魯肉飯大王の位置を俺は正確に覚えていない。またもや幻の店になるところだったが、大王の店舗から出て右を向いて撮った写真が、今回のレビューを書くための整理で出てきた。

この写真の情報を地図に照らし合わせると、その位置がわかった。
あくまで個人的な記録の意味でここにその写真を載せておこう。


ところで、魯肉飯の物語には、まだエピローグが残っているのです。

2005年台北


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