ガニメデ忍法帖


初っ端で太陽系政府の陰謀とか超銀河団連邦の密命を受けた連邦捜査官の登場などとスペオペっぽさを匂わせておきながら、実にこれはハードSFなのである。 日本SFの最高傑作に与えられる『非烏合賞』の89年度受賞に満場一致で選ばれたのも頷けるSFネタとストーリーテリングであった。
まさかなぁ・・・・・・冒頭でガニメデを宇宙全生命体の発祥の地だと匂わせておきながら、最期のどんでん返しで「生命収束の中心地」としてしまうとはね。
超銀河刑事達の使う超兵器がエントロピーを逆転させるという設定がさいごの最期に生かされるとは・・・・・・
ただこの作品、ハードSFマニアにはウケが悪い。どうやら中終盤のバイオレンスアクションの描写に難があるらしい。コアなSFファンは結構多いんだ、アクション嫌い。未だに思い出すのが、山田正紀の「神々の埋葬」(これまた大傑作)の巻末に載った星新一の解説。
「息をつかせぬスリリングな展開だが、惜しむらくはラストシーンがコミック的なアクションシーンの連続になってしまったことである」とかなんとか。(本当)
結局この人、SFもアクションも書けない、肩書きSF作家なだけなのに、なに勘違いしてんだろ・・・
閑話休題

とにかく、俺はその、アクションシーンが気に入ったのだよ。
特に、ラストのユーラシア忍者対超銀河刑事パスカルの一騎討ちがいい!
ガニメデごと超銀河警察の連中を葬り去ろうとした火星忍者ら7忍衆を見限った地球忍群が7忍衆、超銀河警察両者を敵に廻すと決心するあたりから手に汗握る展開で、遊星爆撃を「忍法亜空雪洞」で反対側の空間に摺らせる南極忍者、「アパッチの雄叫び」で己の身もろとも7忍衆をベータ崩壊させるアメリカ忍者、「カルタゴ魔兵法」を用いて逆に超銀河連邦本部を叩くアフリカ忍者、「忍法不動石」でガニメデ住人の盾と消えるオーストラリア忍者らの遺志を継いだユーラシア忍者が、超銀河機動連隊に取り囲まれたまま宇宙最強の刑事パスカルと闘うシーンは、とにかく必見だ!!

 ついに「モンゴル疾風陣」も破られたか・・・・・恐るべしパスカル!!
「ふふ、ユーラシア忍者よ、お前になにがある?その鋼の肉体が仇となったなぁ」
 レーザーブレードを八双に構えたパスカルの嘲笑が見えるようであった。
 シルバーメタルのブーストアーマーの下に、その男の勝利の確信が垣間見えた。
 ばかめ!勝利を確信した瞬間だ!それがそいつの敗北が決定した瞬間だ。
 立った。地球人の叡智を結集したユーラシア忍者の肉体が全精力を尽くして立ちあがった。56億の陽電子回路が唸りを上げ、有機鉱物の筋肉に最後の不飽和光子をありったけ注ぎ込んだ。
 ヒマラヤ絶招壁、バイキング回鋒、斉天魔猿境・・・ありとあらゆるユーラシア忍法が破られた今・・・もはや、残る技はひとつ!
「パスカル。勝ち誇る前に、一つ、ユーラシア忍法の裏技も受けておくかィ?」
「ははは、面白いぞ忍者!今までで一番面白いジョークだ」
「面白くなるのは・・・これからだ」
 2人の間を切り裂いて中性子レーザーブレードが唸りを上げた。
 そして、既に宇宙最強の剣はユーラシア忍者の掌中にあった。
「なに〜〜〜〜??」
 斬ったはず。その隙がパスカルの命を奪った。
「これがユーラシア忍法の奥義。柳生新影流『無刀捕り』」
 パスカルの首が飛んで殺到する機動連隊に、ユーラシア忍者は歩み寄った。散歩に出かけるかのような足取りで・・・
 その体側で左右交互にレーザーブレードが風車輪に回転する毎に、血と鋼鉄が吹き飛び酸鼻を極めた。たった一人による虐殺。
「柳生新影流『逆風の太刀』」
 生きるものの声が途絶えたゴルゴダの丘の上に、感情を失したユーラシア忍者の呟きだけが流れた。

やっぱり、SFはアクションだね。忍法サイコー!



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