聖地から遠く隔てた辺境の星で、不穏な動きがあると報告があったのは、つい先日のことだ。
その時聖地は介入しなかった。
その星には確かに不審な点が多い。
だがそれはその星の問題であり、星自身が解決すべきものである。
しばらくの間、聖地は静観することにした。
万が一、その星の持つ運命が、他の星、他の星系、宇宙全体に悪しき影響を及ぼす兆候があれば、速やかに抹消すればいいのだ。
そんなある日のこと、守護聖全員が身体に何らかの違和感を感じた。
その違和感の大きさは各々違ったが、症状はよく似かよっていた。
身体の中からサクリアが流れ出し、細胞の中に遺物が混じるような不快感。
このような異物感はかつて味わったことが無かった。
守護聖が普通の人と違うのは、生まれながら心臓の中に“核”というものを持っていることだ。
サクリアはそこから生まれる。心臓が新たで新鮮な血液をつくりだすように、“核”はサクリアをつくりだす。
それは、いきなり素手で“核”を鷲掴みにされ、サクリアを吸い尽くされてしまうような喪失感。
特に炎、水、風の守護聖の消耗が激しかった。
女王はこの現象は由々しきことと考え、早急に原因をつきとめるよう、王立研究所に命じた。
程なくしてもたらされた報告では、例の辺境の惑星にサクリアが集中しているとあった。
そしてまた時を置かずして、今度は夢、鋼、緑の守護聖まで不調を訴えるようになる。
彼らのサクリアが、あの星中に満ちている。
女王は宇宙全てを映し出すことが可能な映し鏡で、惑星を覗き込んだ。
そこには、いるはずのない守護聖の姿があった。
しかも、この時代でなく、別の時代の守護聖が。
女王は混乱を防ぐため、このことをとりあえず伏せ、密かに光と闇の両筆頭守護聖を呼び出し、相談をもちかけた。
「確かにこの事は簡単に無視出来ることではありませんが、彼らがこの時代にいるということは、我々の関知しない運命、もしくは何らかの意味があるとも言えましょう。そのため、彼らとの世界との次元回廊を固定するよう、我々は力を尽くさなければなりません。そこで、そなたたちにも力を貸してもらいたい。原初の光と闇であるそなたたちのサクリアと、私の女王のサクリアを合わせれば、道は強固になるでしょう。よろしく頼みます」
「陛下の仰せはもっともです。私も出来る限りの尽力をいたしましょう」
光の守護聖はそう約束した。
闇の守護聖は瞳を閉じ、沈黙した。
「…………」
女王と光の守護聖は怪訝そうに彼を見た。
「嫌な、予感がする……」
おもむろに闇の守護聖が口を開いた。
「彼らが吉となるか、凶となるか」
「そなたはまた、この期に及んで何を言っているのだ!」
光の守護聖が声を張り上げた。闇の守護聖はおもむろに瞳を開き、独り言を言うように呟いた。
「ならば、…凶となれば、凶となれば、お前たちはどうする気だ?」
女王は考え深げになる。
「そうですね、最悪の事態になった時の対策も考えるべきですね」
青ざめた硬い声でそう言った。
「そうだ、その時は未来の守護聖ごと、あの惑星を破壊せねばならぬかも知れぬ」
光の守護聖は決然と言った。
「お前には、そのようなことが出来るのか?」
囁くように闇の守護聖はもう一度聞く。
「無論だ、我らの宇宙が滅んだら、彼らも未来も来ぬだろう」
彼は即答した。
闇の守護聖はすっと目を細めた。
「……お前は強いな、わたしにはできそうにない」
「そなたが甘すぎるのだ」
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