だが、最悪の事態は回避され、未来の守護聖たちは彼らの時代へと帰って行った。次元回廊は堅く閉ざされ、再び開くことはなかった。
その夜、光の館に闇の守護聖が訪れた。
主の光の守護聖は訪問者の姿を認めると、不愉快そうに眉をぴくりと上げた。
「何事も起こらず、終わったのだ。……なぜ嬉しそうにしないのか」
穏やかに語りかける闇の守護聖の声を、苛立たしげに手をあげて黙らせようとする。しかし闇の守護聖はその仕草を無視した。
「……あの未来の光の守護聖は、お前自身だった。このわたしが見紛う筈がない。光を散りばめたような黄金色の髪、天空の碧い瞳、わたしの対となる光の守護聖ジュリアス、未来の、来世のお前だ」
「黙れ!」
ジュリアスは憤怒の表情で言った。
「お前は、お前自身を抹消しようとしていたのか…」
最後まで言い切る前に、ジュリアスは闇の守護聖の頬を殴りつけた。
宙に漆黒の髪が静かに舞い、ジュリアスの視界から闇の守護聖の表情を覆い隠した。
「……そなたはわざわざ私を愚弄するために出向いて来たのか。ああ、私はしただろう。彼が私自身であろうとなかろうと、それは私が成すべき義務ならば」
冷静さを取り戻したジュリアスはきっぱりと言い切る。だが、その心の奥にある恐怖に闇の守護聖は気づいていた。ゆっくりと頬にかかる髪を掻き上げると、超然と立っているジュリアスに語りかけた。
「そこまでして、この宇宙を守りたいと、お前は言うのか…」
ジュリアスはかすかに肩を震わせ、軽く身じろぎした。
「……そうだ…」 ────
ジュリアスは静かに頷いた。
─────
「クラヴィス、そなたはに私の強さ、そして弱さ、全てを見抜かれてしまう。
頼むから、私に手を差し伸べるな。私の決断は誤っていない。
私に安らぎを与えるな。この苦しみもまた私の誇りなのだ。そなたの言葉は、私を鈍らせる」
言い終えたジュリアスは傲然と貌をあげ、クラヴィスに帰れとうながした。
闇の守護聖クラヴィスは来た時と同じく、無言で去って行った。
そこにはかすかな闇の香りが漂っていた。ジュリアスはその香りの中に安らぎの力を感じ、ふっと味あうような表情をした。しかしすぐに気を引き締め、窓を開け新鮮な外気を部屋に入れた。
|