おしゅかー、3歳児になる! |
(8)
(誰かが私の名前を呼んでいる……) 意識がだんだんと浮かび上がっていく途中で、ジュリアスはそう思った。 なんだかとても懐かしい、久しぶりのこの感覚。 「ジュリアス様、ジュリアス様」 力強く、男らしい声が自分の名前を呼んでいる。この声はよく知っている。待ち望んだ、張りのある声。 それは……。 「オスカー………」 ゆっくりとジュリアスは目を開ける。オスカーが体を支えながら、心配そうに覗き込んでいた。 「……帰ってきたのだな。私の愛しいオスカー」 ゆっくりと確かめるようにジュリアスはそう言った。 「はい、俺です。戻ってきました」 ハッキリとそう言うと、ジュリアスの体を近くの幹へ寄りかからせた。そして水筒を取り出すと、そっと口元へ差し出した。 冷たい水を飲みながら、なぜオスカーは元にもだったのかと考えていたが、ジュリアスには理由がまったくわからない。じろじろと観察する碧い瞳に、オスカーは苦笑しながら白状する。 「妖精の仕業ですよ」 オスカーは照れながら、顎をかいた。 「そう…なのか……」 目をパチクリしながら、ジュリアスはそう言った。 その反応がおかしくて、オスカーは思わず吹き出しそうになった。 「実はと言うと、あの時俺は妖精なんてテンで信じちゃいなかった。貴方の言うことは聞いてたけど、あり得るわけがないと思っていたんです」 その時の状況はご存知なはずだと、オスカーはつけ加える。 「だから、妖精にお仕置きされたんですよ。俺が妖精を信じていた年齢まで戻して、信じる気持ちを取り戻すために」 「では、おまえは今は信じているのか?」 ジュリアスはオスカーを静かに見つめる。 「もちろんです。こんなに不思議な体験をしておいて、信じないはずはないでしょうが」 オスカーは真顔で答える。 「そうか、それはよかった。やはり妖精の仕業だったのか……」 花が零れ落ちるような、甘い笑みを浮かべてジュリアスは言った。 「よかったって、それは俺が妖精を信じるようになったからですか? それとも元に戻ったからですか?」 「さあな、確かめてみるがいい」 笑いながらジュリアスはそう答える。そして強い力で引き寄せられて、痺れるような口づけを受ける。 「ああ…オスカー…」 ジュリアスの口から吐息が漏れる。そして再び熱い口づけが重なってくる。 「ジュリアス様……」 存分にお互いの唇を味わったあと、すっかり暗くなった聖地に馬を走らせる。 「……そう言えば」 しっかりと自分の体の前にジュリアスを抱きしめながら、オスカーは口を開いた。 「いつの間にやら、随分と積極的になられたような、記憶がおぼろげにあるのですが……」 「バッ、バカな。そなたの思い過ごしだ」 真っ赤になってジュリアスは否定した。 「いいえ、幻なんかじゃありません。すっかりと思い出しましたよ」 オスカーはニヤリと笑った。 「……おまえは、妖精以上に意地悪だ」 ジュリアスは怒ってそう言った。 「そうですよ、俺は意地悪ですよ。あなたが大人に戻った俺にも実践してくれるまでは、許してあげませんから……」 そう言って、後ろからジュリアスの耳に噛みつく。 「あっ……よさぬか…」 驚いたジュリアスは、手綱を落としそうになる。 「やめません」 オスカーの手がジュリアスの体中をなでまわす。だんだんとジュリアスの息が荒くなってくる。 「………………オスカー」 「はい?」 「実践すればよいのか」 「ええ、今夜、これから、そして明日も、そしてず〜っとですよ。よろしいですか?」 とっておきの甘い声で耳元に囁く。 とうとう意を決してジュリアスは無言のまま頷いた。 相手はオスカーなのだ。 愛するオスカーのためなら………。 「では、急ぐとしよう」 ジュリアスは手綱を強く引っ張ると、家路を急いだ。 長い夜は始まったばかりだ。 もしかして、これは妖精の悪戯ではなく、贈り物なのかもしれない。 優しい月明かりが、ふたりの頭上から降り注いでいた。 おしまい。 |
お疲れさまでした(笑)。自分でもバカ丸出しですね。
本当はちょっとした出来心で手を出した3歳児のネタ。
GWに新刊を出そうと決心したのは、4月の中旬にさし
かかろうかという頃(死)。どうせコピーだし〜適当に
書いちゃえ〜〜と1発ネタのつもりでした(笑)。しかし
2発目も出しちゃったし(汗)。でもね〜〜心配だった
「聖地円舞曲」のCDを聴いたら、このネタ、全然違和感
がないのでは〜〜〜??と、なぜか一安心しました。
この話の続きはたぶんないです。番外編はある。(笑)