ふぁなふれ献呈Short Story「前略、道の上より」

 初夏の心地よい風が、頬をなでていく。
 少し日が陰った昼下がり、石畳を歩く人影が二つ。
 ふぁな邸メイド長の朝日奈愛姫と、そのご主人である。
「申し訳ありません、重いでしょう?」
「いや、それほどでも…あるかな、あはは」
 愛姫が食材や雑貨の買い出しに行くというので、ふぁなご主人も
『ま、たまにはいいだろう。気分転換にもなるし』
と付き合ったのだが…何しろ、ご主人始め屋敷の面々の1週間分の食材をまとめ買いしたものだから、かなりな重さである。それでも、隣を歩く愛姫の顔をちらちらと眺めながらのそぞろ歩きは、悪い気分ではない。
 少し風が強く吹く。並木のざわめきが少し大きくなり、木の葉が幾枚か風に舞った。
「あれ、今は初夏だろう。…落ち葉なんて季節じゃないよな」
「あ、ここの並木は常緑樹ですからね。ちょうど今の季節はけっこう落ちてきますよ」
 いぶかしむふぁなの顔を見上げながら、少し苦笑気味に笑った愛姫が説明する。
「常緑樹って、一年中葉っぱがついているように見えますけど、本当はだいたい1年ぐらいでついている葉っぱは入れ替わっていくんだそうです。特に、春から夏の変わり目くらいが多いようですね」
「へぇ、常緑樹って言うくらいだから、永久に同じ葉がついているのかと思ってたけどな…」
「そうですね、私も昔はそう思ってました。…実は、昔読んだ漫画で初めて知ったんですよ」
 愛姫は少しうつむき加減になると、寂しげな表情で言葉を継いだ。
「秋の落ち葉も少しものさびしい気分になりますけど、常緑樹の落ち葉はもっと寂しげに見えますよね。あたりがこんなふうに初夏の緑 鮮やかな季節に、ひっそりと散っていくんですから…」
「そうだなぁ。…常緑樹の葉っぱでも、いつかはそうやって、散ってなくなっていくんだよな」
 そう、みないずれは変わっていく…彼女と、自分もまた…。
 ふとふぁなが表情を陰らせる。ふとそれを見た愛姫は、うつむいていた顔を上げると、穏やかな笑顔を見せて、主人の耳元にささやくように言葉を紡ぐ。
「ええ、でも…散っていくのと入れ替わって、新しい葉が芽吹いて…そして、また新しい緑の葉を繁らせているんです。そう、繁る葉が替わっても、いつも緑の姿は変わらずに…」
「…そうだな、葉が替わっていっても…か」
 ふぁなは、何かほっとしたような気分でつぶやく。
「ええ…いつまでも、変わらずに…」
 見下ろす愛姫の笑顔が、石畳の上に美しく映える。
 二人の影が、少しさっきより寄り添うように重なり合い、並木道を辿っていく。

挿絵:ふぁなさま(掲載許可いただきました、ありがとうございますっ)


管理人後書き

 公開のものとしては始めての自製SS、いかがでしたでしょうか?
 「FANA’s FRIENDS HOUSE」さまの所の掲示板で管理人のふぁなさまとのやり取りのうちに書くことになってしまい(笑)、萌え発動次第ということにしていたら…4月末の連休最終日にふと発動してしまいまして(爆)。 
 そのまま一気に書き上げ、その夜のうちに(我に返る前に…)献呈してしまった一品です。
 もともとの構想は晩秋を舞台として考えてましたが、実際の季節に合わせて初夏の常緑樹の落ち葉にひっかけた作品となりました。

 普段書いているものがものなだけに、かーなーり至らぬ出来ですが、ご笑覧のほど。
 作中に出てくる某漫画がお分かりの方、ぜひお知らせください(笑)。
 あと、題名は一世風靡セピアの歌からです。「せぴあたいぷ愛姫嬢」とCGの元絵を呼んでましたので(をい)。

 …ちなみに「トップページ画像漫才」も同時に書いていたり。この落差は一体(汗笑)。

 献呈先はこちら↓。

 SSに登場の心優しいメイドさん、朝日奈愛姫嬢に会えますよ〜。



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