分岐点(携帯版)その2

話がひと段落したところで、ふいに彼女が上目遣いで聞いてきました。

「で、これからどうするの?」

何気ない質問と言うよりも、「ある答え」を誘導している口調でした。


結局、鴎島の近くの安宿で朝を迎えました。

「ゴメンね。明日はガッコーだから見送れなくて・・」
深夜に安宿から帰って行く時の彼女は、出会った時の自信に満ちた表情は消え失せ、やるせなさを隠しきれない人工的な笑顔を浮かべるのが精一杯といった様子でした。


なぁんてのはウソなのです。
ホントのワタクシは、彼女の
「で、これからどうするの?」
という誘いに対し、
「えきえき、駅にはどう行けばいいのかなぁ?」
などと、裏返った声でブザマな質問をしてしまったのです。
そして、それに答える彼女の道案内が終わるや否や、駅に向かってマッツグに、妙に早足で立ち去ってしまったのでした。


「で、これからどうするの?」
暗闇を走る函館行きヂーゼルカーの中で、先ほどの答えを考えました。
「未知なる北海道の旅は始まったばかりなのだ。入り口あたりの江差なんかで道草食ってるヒマは無い」
なんだかそれは、わざと負けた後出しジャンケンのようなイイワケです。
ホントにそれが答えならば、うろたえる必要は無かったハズですから。

「まもなくぅ、木古内ぃ、きこないぃぃ・・・・」
さっき松前から戻ってきた時に、江差行きに乗り換えた分岐駅です。
その時は何も問題なく江差行きに乗れたのですが、その後に江差の街中で何かを乗り換え間違ってしまった気分でした。

「で、これからどうするの?」
あの時の彼女のセリフが、アタマの中で繰り返されます。
先ほどのモーソーは、明らかに出来過ぎでしょう。
それどころか、「誘い」と受け取った事自体が勝手な思い込みで、単なる社交辞令の質問だったのかも知れません。
いずれにしても、もう見えなくなった木古内駅の灯の様に、遥か後方に消えてしまった出来事なのです。


キツキツに4人ずつ詰まった札幌行き夜行鈍行の座席も、森駅を過ぎる頃には殆どの人が眠りについているようでした。
なんだか寝そびれたワタクシは、二重窓にヘバりついた氷などを眺めておりました。

「で、これからどうするの?」

振り向くと、函館駅を出てから二言三言を交わした斜向かいの席のオヤジが、いつのまにか目を覚ましていたのです。
ワタクシは、そのオヤジの問いかけに対する答えよりも、
「オヤジが足元に転がしたワンカップの残骸が邪魔臭いなぁ」
なんて事を、ボンヤリと考えておりました。


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