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氷結(1980年頃)


雪は振る・・・・

絶え間なく降り続ける雪の夜。
直江津発・上野行きの急行『妙高』は、ずっと妙高高原駅に停まったままだった。
室内灯も、そして暖房も消された車内は、暗闇と寒さに包まれていた。

「東京方面へのお客様は反対ホームの列車で直江津まで戻って夜行急行『能登』を、大阪方面へのお客様は同じく直江津から夜行急行『きたぐに』をご利用ください」

繰り返しアナウンスされた『反対ホームの列車』も、同じように暗闇と寒さに包まれたまま発車する気配は無い。
身動きしない2つの列車に挟まれた3番目の線路には貨物列車が停まっていて、直江津側に連結されている電気機関車の屋根では、2人の作業員が淡々とパンタグラフを外す作業を続けている。
妙にツブの大きい雪はホームの街灯の光を反射し、まるでサーチライトのように暗闇の中に伸びていた。
ワタクシは、そんな光景を人気の無くなった『妙高』の車内から眺めながら、呆然と考えていた。
「今日中に小諸に着けなかったらヤバいなぁ。このままだったら、今晩はどうなるんだろうか・・・・」



長野県の小諸市には母親の実家があり、ワタクシはモノゴコロがつかない頃から、母親に連れられて何度もソコを訪れていた。
東京の街中で生まれ育ったワタクシは、信州の山や川を駆け回るのが楽しみだったのだ。
両親共に東京出身の同級生も多く、そんな連中に
「今度の夏休み、『イナカ』に行くんだぜ」
などとエバり、そして羨ましがられるのもちょっぴり自慢だった。

小学校3〜4年頃の夏、1歳上の兄に率いられ、兄弟3人だけで鈍行列車を乗り継いで小諸に行く事になった。
当時のワタクシにとっては、それはまるでユーラシア大陸横断のような大冒険だった。
楽しさ、不安、そして到着した時の達成感・・・・・・
何度も通った車窓の風景も、まったく別の物に見えた。
それから兄弟だけで小諸に行くのが定着すると、いつのまにか兄を排除し、弟と2人だけで別ルートを辿るようになった。
慣れるにしたがって、ただ「子供だけで行く」という事に新鮮味が薄れてきたのだろう。
中央線で小淵沢に出て、小海線に乗るルート、
同じく中央線で茅野まで出て、バスで白樺湖経由で行くルート、
吾妻線経由で、浅間山のフチをバスで越えて軽井沢に抜けるルート・・・・・・
小諸の伯父から
「今回はどこを通って探検してきた?」
なんて聞かれるのもなんだか嬉しく、とにかく毎回違うルートを通らなければ気が済まなくなっていった。
しかし、「山や川を駆け回る」年齢を卒業する頃には小諸に行く頻度も少なくなり・・・・・
そしてYHなどに泊まりながら一人旅をするようになると、そんな「小諸への探検」は完全に色あせ、子供の頃の思い出の一つとなって終わった。


もうオトナとも言える年齢となった学生時代の冬。
小諸の親戚で営まれる法事に出席する事になったワタクシは、久しぶりに寄り道をして小諸に行ってみようと考えた。
もうさすがに「探検」なんて言い方はしないけれど、何となく、冬の日本海を一眺めしたくなったのだ。
そして・・・・・
法事の前々日の夜行急行で会津若松に出て、
そのまま磐越線で新潟に抜け、
どこかテキトーな海岸で日本海を眺め、
それから直江津経由で信越線を逆に辿って、
法事の前日の夜に小諸に着く。
そんなルートを思いついた。

まもなく日付が変わる深夜の上野駅。
会津若松行きの急行『ばんだい』の座席に座って発車時刻を待っていたワタクシは、異変に気がついた。
同じホームの反対側の、先に出発するハズの酒田行き急行『出羽』が、発車時刻を過ぎても動こうとしないのだ。
「どうしたんだろう・・・」
そう思ったのと殆ど同時に、車内放送が入った。
「大宮駅と浦和駅の間で車両故障があり、この列車の出発は遅れる見込みです」
そういう事か。
それで『出羽』も出発できなんだな。

時間の経過と共に、車内放送の内容は深刻化していった。
当初は「車両故障」と言っていたのに、いつのまにか「事故」に変わり、そしてついに
「出発のメドは、たっていません」
などというヒサンな言い方になってしまった。

本来の目的は法事への出席であり、これは計画を断念したほうが賢明だと考え、ワタクシは荷物を持って『ばんだい』を降りた。
しかし、今から家まで帰りつける電車は無く、最後は5kmほど歩かなければならないのだ。
「そうまでして帰ったところで、どうせ明日、また上野駅に来なければならない。カッタルいなぁ」
ワタクシは、このまま上野駅に留まる事にした。
「列車が動くのであればラッキーだし、動かない状況ならば、被害者とも言うべき乗客を駅から追い出す事もあるまい」
再び列車に乗り込む際、ワタクシは『ばんだい』ではなく『出羽』を選んだ。
順番からして『出羽』のほうが先に発車するハズで、うまくすれば郡山から磐越線の始発鈍行に乗れるかもしれないと考えたのだ。
結果的に郡山で『ばんだい』に乗り換える事になったとしても、とにかく先に進んどいたほうがマチガイは無い。

ワタクシが『出羽』の座席に座ってすぐに、思わぬ車内放送が入った。
「まもなく、この列車は発車します」
それと同時に、『ばんだい』の車内に残っていた乗客が、先を争うように『出羽』に乗り移ってきた。
「復旧作業の為に送電が止まっているが、ディーゼル車である『出羽』は電力無しでも走れるので、貨物線を迂回して通る」
との事で、『ばんだい』だけでなく、東北方面に向かう全ての夜行急行の乗客は、『出羽』に乗るよう指示されたのだ。
ふとした思い付きで席にありつけたワタクシはラッキーで、ほどなく『出羽』は、通路までギッチリの混雑となった。

通路に出来た人垣と、大混雑のヒトイキレで曇った窓に視界を遮られ、どこをどう走ったか判らないまま大宮駅に到着。
ここでも大量の乗客が詰め込まれ、もはやスシ詰め状態となった『出羽』は、
「今日は、東北地方をオレ1人で支えるのだ」
とでも言いたげに、ディーゼル車独特のエンジン音を激しく轟かせて走り出した。



ロクに眠れないまま未明の郡山駅に降り立ち、思惑通り磐越線の始発鈍行に乗る事が出来た。
会津若松駅のアナウンスで『ばんだい』はそのまま運休となった事を知り、なんだかニンマリとする。
「タイムロスはあったものの、我が作戦はうまくいっているのだ」
そんな自己満足を尻目に、喜多方駅を出たあたりから激しい吹雪となった。
「この鈍行が止まっちゃったら、全てがオシマイだ・・・」
渓谷の鉄橋を渡る列車の窓を、まるで覆い隠さんとばかりに吹き付ける雪。
汗ばむくらいに暖房が効きすぎた車内にも関わらず、なんだか寒気すら感じる光景が続いた。

ここまでの時間の遅れと天候とを考えて海岸に降り立つのは断念し、日本海は車窓から眺めるだけにする。
新潟駅からの信越線の鈍行では散々にジラされ、やっと海が見えてきたのは柏崎駅を過ぎたあたりからだった。
激しい雪の中、まるでソレに覆い尽くされてしまったかのごとく白濁した日本海。
砂浜も白一色と化し、波打ち際だけがブキミに黒々と連なっていた。
夕闇が迫る直江津駅に到着すると、長野経由・上野行きの急行『妙高』の姿がホームに見えた。
直江津からも鈍行列車に乗るツモリだったけれど、急遽『妙高』に飛び乗る。
なんだか怪しげな天候なだけに、早く先に進んだほうが良いような気がしたのだ。



「 間もなく、妙高高原に到着いたします。行き違いの列車が遅れている為、5分ほど遅れて発車の見込みです」
このあたりは単線区間なので、下り列車が到着しなければ走るべき線路は塞がっている事になる。
従ってワタクシの乗った上り列車の『妙高』も遅れ、その結果、次に『妙高』とすれ違う下り列車も遅れ・・・・・・
遅れは連鎖的に拡大し、その遅れ時間も次第に増加してしまうモノなのだ。
「なんだか困ったなぁ。でも、いまさら焦ったって仕方が無い。まあ、今日中に着けばいいや」
そんなノンキな事を言っていられなくなるとは、この時点では考えもしていなかった。
それはワタクシだけではなく、この駅で過ごす事になる全ての乗客も、同じ思いだったに違いない。

『妙高』が滑り込んだ妙高高原駅のホームの反対側には、直江津方面に向かう貨物列車が停まっていた。
遅れている下り列車を先に行かせてからの発車になるらしく、ホームに降り立った機関士が背中を丸めてタバコを吸っている。
やがて下り列車がやって来て、そんな貨物列車を挟んだ反対側の線路に入線すると同時に、『妙高』のドアが閉まった。
そして、ゆっくりと走り始める『妙高』・・・・・・
ワタクシの乗った最後尾の車両がホームの中央付近に差し掛かったあたりで、最初の異変が起こった。
バチバチバチバチ!!!
激しい火花のような音と光とを轟かせ、『妙高』は急停止した。
おっ! 何だ何だ!
ざわつく乗客たちを尻目に、列車はゆっくりと元の位置までバックすると、再び前進した。
バチバチバチバチ!!!
結果は同じだった。
もう一度同じ事を繰り返した後、そこで初めて事情を説明する車内放送が入った。
「降った雪が架線に付着して凍りつき、架線とパンタグラフが接触不良となって、列車の保護回路が働いて停止した」
との内容だった。

「タイヘンだね。でもオレのせいじゃないよ」
とでも言いたげに、なんだかソソクサと動き出した下り列車も、同じように火花をあげて止まってしまった。
「じゃあ、次はオレがやってみっか」
なんて感じで動き出した貨物列車も、電気機関車のパンタグラフから青白い光を揚げて止まった。
貨物を含めた3本の列車は、いずれも妙高高原駅から脱出できなくなってしまったのだ。


車内放送は「現状の説明」と「お詫び」を何度も繰り返すのみで、何ら打開策を示せないまま、時間ばかりが過ぎていった。
「こういう時には食い物の確保!」
そう考えたワタクシは列車を降り、改札口に向かった。
しかし閑散とした駅前には開いている店など見当たらず、駅の売店でさえシャッターが閉められていた。
食料調達を断念して列車に戻ると、同じ事ばかり喋るのがイヤになったのか、車掌が客室内のイスに座って天井を見つめていた。
ふと目が合ったついでに、車掌に話し掛けてみる。
「こんな事、よくあるんですか?」
「ホントに寒い時の雪は平気なんですよ。今日みたいにヘンに暖かいと、水っけの多い雪になっちゃって・・・・」
そして車掌は、ワタクシに対してと言うよりも、独り言のように吐き捨てた。
「ダメなのは駅構内だけなんだよな。本線は下り列車が氷を掻き落してきたハズだし。このまま時間がたつと、本線もダメになっちゃう」
ここでワタクシは、大宮の事故現場を自力で走り抜けたディーゼル急行『出羽』を思い出した。
「どっかからディーゼル機関車でも呼んできて、列車を引っ張らせるなんてムリなんですかね」
おそらくアチコチの駅で同じ状況になっているに違いなく、そんな簡単にディーゼル機関車の都合が付くとはシロートながらに思えなかった。
「僕もそう思うんだけど、上が決める事だから」
とりあえず言ってみただけのタワゴトに、車掌は真顔で答え、そしてプイッっと席を立った。


ムッとした表情で車掌室に戻った車掌は、「上」から指示があったのか、或いは本人の思いつきなのか、それまでと違った内容の車内放送を流した。
「今、代行バスの手配を行っております。しかし運転手さん達も男ですから、もう晩酌を始められてて。運転手の確保に難航してます」
それからしばらくして、今度は明らかに「上からの指示」に基づいたと思われる車内放送が流れた。
それは前向きな打開策ながら、なんだか気が遠くなるような内容だった。
「これから手作業で、架線の氷を落とします。作業員の安全の為に送電を停止致しますので、列車の電灯および暖房は消えます」

灯りの消えた車内は寒々として、なんだかホームの灯りに照らされた雪景色のほうが暖かそうにさえ見えた。
架線に掛けられた竹製の長いハシゴの上では、2人の作業員がコツコツと氷を落としていた。
もちろん一生懸命なのだろうけれど、とにかくペースが上がらない。
駅構内だけならまだしも、本線までコレでやらなければならないならば、何時間かけても終わらないだろう。
そんな地道な作業の結果を信じてか、ここで冒頭の構内放送が流れた。
東京・大阪への客は下り列車で直江津まで戻り、それぞれに向かう別路線経由の夜行列車に乗れと言うのだ。
しかし、人力の氷落しは相変わらずのペースで、まだ何メートルも進んでいない。
果して『能登』や『きたぐに』に間に合う時刻に、下り列車が発車出来る状態に持ち込めるのだろうか。
それに、なまじっかヘタに発車して、今度は駅でも何でもない山中で動かなくなったら余計にヤバそうだ。

その時、
「ボーヤ、余計な心配は要らないよ。黙ってオジサン達に任せときな」
とでも言いたげに、2名の作業員が大きなスキー板のようなモノを運んできた。
どうやらパンタグラフのテッペンの、架線に接触する部分らしい。
電気機関車の脇に運ばれてきたソレは、いまパンタグラフに付いているモノよりも一回り太く、そしてサビサビの鉄色をしていた。
「氷落し専用のパンタグラフだよ。アレを、電気機関車の前側に取り付けるんだ。」
いつのまにか客室に戻ってきた車掌が、バカのように外を見つめていたワタクシに教えてくれた。
なるほど。
氷掻き付きの貨物列車を先行させて、下り列車を先導する訳か。
それならば、直江津までは行き着けるに違いない。
しかし、小諸を目指すワタクシはどうなるのだ。
駅構内の放送で
「長野、松本方面、軽井沢方面へのお客様は、そのままお待ちください」
と指示されているものの、その手段はいっさい説明が無いのだ。

やがて氷掻きパンタグラフの取り付けが終わると、ふいに車内が明るくなった。
作業が終わったので、送電が再開されたのだろう。
なんだか懐かしささえ感じるブォォォォという暖房の音を遮るように、やはり懐かしの車内放送が入った。
「東京、大阪方面へのお客様は、反対ホームの下り列車にお急ぎください」
様子見を決め込んでいたのだろうか、まだ『妙高』の車内に残っていた乗客の数名が、小走りに反対ホームへの階段に向かった。
そして
「長野、松本方面、軽井沢方面へのお客様は、そのままお待ちください」
今度は車内放送で、相変わらず先の見えない指示が、殆ど誰もいなくなった車内に響いた。


汽笛と共に貨物列車が出発し、しつこいほどのアナウンスの後、下り列車も静かに妙高高原駅を立ち去った。
駅の構内に取り残された『妙高』の車内は、灯りが消されていた時よりも寒々と感じた。
「直江津に戻って上野行きの夜行急行に乗れば、高崎から信越線の始発列車で小諸まで行けたのかも」
そんな、いまさら仕方が無い事を考えていると、「一歩前進」的な車内放送が入った。
「この列車は、この駅で運転を打ち切ります。後続の、長野行き普通列車にお乗換え下さい」
えっ? 長野からは、どうすりゃいいの?
「長野から先へのお客様は、長野駅でご相談ください」
そ・そりゃ無責任な・・・・・

4人掛け席と横向き席とが入り混じった、いかにも通勤車両の長野行き普通列車がやってきたのは、下り列車が出発してから30分ほど経ってからだった。
思いのほか混んでいて、僅かばかりの『妙高』の客を乗せると、全員が座りきれない程だった。
とにかく、これで妙高高原駅を脱出できるのだ。
同じ一夜を明かすなら、長野駅のほうが何かと便利に違いない。
そして・・・・
氷掻きパンタグラフを付けたのだろうか、まるで何事も無かったように普通列車は発車した。
この駅で5時間を共に過ごした、まだ車内灯をつけたままの『妙高』の姿が後方に遠ざかっていく。
その灯りは駅の灯りと一つになり、やがて視界から消えた。
普通列車は、ときおり激しい火花を散らしながらも、「なんのなんの」と走り続け・・・・
直江津を出てから6時間、ついに大都会にさえ見える長野駅に到着した。

「上田、小諸方面へのお客さぁん!! コチラでぇぇす!!」
長野駅の駅員に急かされて改札を出ると、そこには『川中島交通』と書かれたバスが停まっていた。
急遽チャーターされた代行バスなのだろう。
車内は通勤ラッシュ並の大混雑ながら、とにかくコレで小諸まで辿り着ける事に一安心する。
まもなく日付が変わろうとする車内では、誰もが疲れきったように黙りこんでいる中・・・・・・
ひとりのニィチャンが騒ぎ出した。
「オイオイ! なんで早く出発しないんだ。このバスは、いったいどうなっているんだ!」
けっして激しい口調の怒鳴り声ではなく、ナゲくような情けない大声なのだ。
たしか妙高高原駅でも見掛けたオニィチャンで、その時は何も叫んではいなかった。
疲労と空腹から、ついに何かがキレてしまったのだろうか。
オニィチャンはナゲき続ける。
「わかったぞぉ! このバスは壊れてるんだぁ」
車内のアチコチから失笑が漏れる。
酔っている様子ではないのに、オニィチャンはだらしなく吊革にぶら下がるように身をクネらせ、そして再び吠えた。
「ああっ! よく見たら運転手が乗ってないぢゃないか!! ソレじゃ動く訳が無い!」

ほどなく走り出したバスは、なんだかよく判らない町並みをクネクネと走り、長野駅の1つ隣の川中島駅に停まった。
「オイッ、どこかと思えば川中島ぢゃないか! 急行が止まらない駅に寄るなよぉ!」
ここで再びオニィチャンがナゲき叫ぶと、明らかな笑い声が車内に響く。
いつのまにかオニィチャンのナゲきは、何もやる事が無い乗客達の、ささやかな楽しみと化していたのだ。
そんなオニィチャンは「急行がどうのこうの」などと言うほどの事も無く、次の篠ノ井駅で降りてしまった。

バスは丹念に一つ一つの駅に立ち寄りながら乗客を減らし、上田駅を出る頃には10人にも満たない閑散とした状態となった。
この頃には暗黙のルールが出来ていて、
「運転手さん、あの辺で」
などと乗客がリクエストすると、駅ではない場所でも降ろしてくれるようになっていた。
最後尾の席に座ったオバチャンが、
「トイレトイレ・・・・・」
などと念仏の様に呟きつづける。
まったくフツーの路線バスの車両なので、トイレなどついていない。
「次の駅で行ってきて下さいよ。待ってますから」
運転手の提案には応じず、意味も無く頑張りつづけるオバチャン。
その目的地らしい滋野駅に到着した時には、すでに車内でズボンを脱いでスタンバっていた。
そしてその格好のままバスを降り、小走りに駅舎に消えた。

滋野の次は、いよいよ小諸駅。
この時点での乗客はワタクシの他に1人だけ。
その貴重な相方も
「運転手さん、あの辺で」
なんて言いながら途中で降りてしまい、とうとう乗客1人きりとなったバスは、待ちに待った深夜の小諸駅に着いた。
見慣れたハズの駅前ロータリーにはタクシーどころか人の姿すら見えず、なんだか初めて降り立った駅のような気がした。
駅から3キロほど歩き、一番近い親戚の家に辿り着いたのはすでに2時。
「タイヘンだったねぇ」
などと夜食を出されて、自分が空腹だった事を思い出した。


翌朝の長野県ローカルの新聞は
「長野県の全域で架線の凍結が起き、アチコチで列車が運休した」
そんなニュースが3面記事の大部分を占めていた。
その記事を読むうちに、ふと目にとまった記述があった。
「妙高高原駅では3本の列車が立ち往生し、乗客への炊き出しが行われた」
なんだそりゃ! と思った。
明らかに炊き出しなど無かったではないか。
どんな取材で記事を書いたのかと呆れる反面、なんだか笑いも込み上げてきた。
「あの篠ノ井ニィチャンが、この記事を読んだら・・・・・」
いったいどんなナゲきを叫ぶのだろうか、ついつい想像してしまったのだ。

国鉄のディーゼル急行
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