テールランプ(1993秋・福島)その2(携帯版)
磐梯吾妻スカイラインとレークラインを走り抜け、五色沼に到着した。
「あまり遅くなると東北道の渋滞がヤバそうだから、ココをちょこっと眺めたらメシ食って帰ろうぜ」
「うん。任せる」
ボートなんかに乗ったってあまり楽しそうではないので、沼の辺に座り込んで一休みする事に。
エサを与えた訳でもないのに群がってくる水鳥の仕草にクッタクのない笑みを浮かべるアカネちゃんの姿を、ワタクシはボンヤリと横目で眺めていた。
そして
「やっぱり、アカネちゃんと一緒に居るのはシヤワセなのだ」
などと、自分の意志を再確認したツモリになっていた。
猪苗代町のはずれの、通りがかりの食堂に入る。
そこで、最近結婚した共通の知人の話題になった。
「やっぱり、結婚式の披露宴ってムダだよねぇ」
「そうそう、アタシもそう思う!!」
「そういうカネは、他に使いたいなぁ」
「そうよねぇ。アタシだったら新婚旅行につぎ込みたい」
「賛成。トモダチだけ集めてのパーティーで十分じゃん」
「会費で、けっこう儲かっちゃったりしてね」
妙に意気投合し、価値観がバッチリと合ったツモリになった。
なんだか上手く行くような気さえした。
しかし、それはそこまでだった。
「でもさぁ、ケッコンってタイヘンだよね」
「何が?」
「全く違う人生を歩んできた2人が、一緒に生活する訳だからね。得る物もあるけれど、その代わり失う物だって・・」
ワタクシがそこまで言ったところで、アカネちゃんが遮った。
「それは違うわよ」
「えっ?違うって何が・・」
「何も失っちゃダメなのよ。それぞれの生活を、ぜんぶ認めあわなきゃ」
「り・理想はそうかも知れないけれど、全部って言ったら成り立たないよ」
「成り立つわよ。成り立つまで話し合わなきゃ。お互いを尊重しあえば、絶対に方法はあるわよ」
「お互いを尊重しあうからこそ、何かしら相手に合わせなきゃいけない部分だって・・」
「ダメ!そんなの絶対にダメ!」
「そんなんじゃ、シヤワセな家庭になんかならないって」
「そんな結婚なら、しないほうがマシだわ」
コレだけは認める訳にはいかなかった。
もしワタクシがアカネちゃんと結婚し、それが上手くいっている・・ように見えるとしたら・・
ワタクシは、この旅で味わった苦しさ辛さを、一生背負って生きる事になる。
自分は自分で、すべて好きなようにやっているフリを装いながら。
3連休の最終日だけあって、早くも東北道の渋滞は激しいものとなっていた。
淡々とスリヌケを続けながら、けだるい時間だけが過ぎていく。
気がつくと、アカネちゃんの背中はグングンと前に遠ざかってしまう。
アカネちゃんは、ときおりスリヌケを止めて車列に加わり、遅れがちのワタクシを待ってくれた。
そして追いつくと、ふたたびアカネちゃんはスリヌケを開始し、その背中は小さくなっていく。
手が届きそうになると広がっていくアカネちゃんとの距離。
なんだかこの旅が濃縮されているようで、ヘルメットの中でひとり苦笑する。
この時点で、アカネちゃんとの距離感は、絶対に縮まる事は無いと確信していた。
にもかかわらず、まだアカネちゃんとの事を諦めきれずにもいた。
自分の優柔不断さがイヤになりながらも、どうしようもなかったのだ。
給油と一休みの為に那須高原SAで停まった時、ワタクシは賭けに出た。
自分では決めかねている結論を、アカネちゃんの答えでフンギリをつけようと決めたのだ。
それはいかにも女々しい、まるでインチキ占いやオミクジに運命を委ねてしまうような考え方だった。
「この先もずっと渋滞が続くし、待って貰うのも悪いから、ココからは先に帰る?」
アカネちゃんの答えを待ちながらドキドキした。
「あらそう。じゃあ、先に行くわね。楽しかった」
オミクジの結果は出た。
「もうアカネちゃんの事は諦めるべし」
という答えだった。
殆ど一緒に那須高原SAを出発し、再びスリヌケ走行が始まる。
もう結論が出たにも関わらず、ワタクシは未練がましくアカネちゃんの後姿を追いかけた。
しかし、アカネちゃんの背中は次第に小さくなり、そしてギッチリと並んだクルマのテールランプの光の列に溶けて消えた。
2人だけの最初で最後のツーリングは、あっけなくその幕を閉じた。
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