テールランプ(1993秋・福島)その1(携帯版)
【ブラボーつるおか】の続編です。
秋の3連休の中日も、すでにドップリと夕闇につつまれていた。
福島市の市街地を抜け、先頭を走るのはワタクシのVT1100、そして淡々と後からついてくるCBR250がアカネちゃん。
アカネちゃんとの初めての2人だけのツーリング。
まもなく本日の宿泊地である、高湯温泉のYHに到着しようとしていた。
ただのオトモダチであるアカネちゃんに対し、ふとしたキッカケから
「アカネちゃんはオレが守る。シヤワセにだってしちゃうのだぁ!」
などと勝手に逆上したワタクシは、それを叶える第一歩のツモリで、このツーリングを画策したのだった。
仲の良いオトモダチとのツーリングは楽しいハズなのだけれど・・
実際のワタクシは、出発してからずっと、ココロを擦り減らしてばかりいた。
それは、アカネちゃんのワガママに振り回された為ではない。
むしろワタクシが、「オレが守る」なんて勝手な思い込みに象徴されるような、独善的な押し売り野郎だった。
その割には、期待に答えてくれないアカネちゃんに対して、ただただ失望を重ねていたのだ。
近くのホテルの半露天風呂につかり、フイに降り始めた雨の中を小走りにYHに戻る。
いったん部屋に戻ると言うアカネちゃんより一足先にリビングに向かう。
アカネちゃんには申し訳ないけれど、ガマン出来ずに湯上がりの缶ビールを開ける。
しかし、一缶空いても、まだアカネちゃんが来ないのだ。
10分、20分・・
なんだか間が持たず、同じテーブルの男に声を掛けて二言三言交わしていると、やっとアカネちゃんがやって来た。
「遅かったね」
「ゴメン。同じ部屋の女の子達と話が弾んじゃって」
「へぇ。あっ、このカレ、VFRで来てるんだって」
「ふぅん。ソッチはソッチで盛り上がってるみたいだから、アタシは部屋に戻ってもいい?」
「えっ?」
「すっごい面白い娘がいるのよ。オヤスミって言っとくわね。明日は何時に出発?」
そりゃないよう。
VFRの男との話なんか、ぜんぜん盛り上がっちゃいないんだよう。
シラけた気配が伝わったのか、VFRの男はソソクサと席を立ってしまった。
もう別の誰かと会話などする気分にはなれず、まだ残っている2本目の缶ビールをチビリチビリと一人で飲む。
なんだか妙に減らない缶ビールの、その重さが憎たらしかった。
一夜明ければ、昨夜の雨がウソのような快晴だった。
磐梯吾妻スカイラインを駆け上がれば、その荒涼とした風景とはウラハラに、気分が高揚してくる。
高度を増す程に、眼下の展望が開ける程に、なんだか楽しくて仕方が無い。
昨夜のワダカマリが、この眺望によってウヤムヤになってしまった訳ではない。
夜、毛布にくるまって自問自答しているうちに、自分の浮き足立ったアセリに気がついてしまったのだ。
それは、アカネちゃんへのウラミツラミをひとつひとつ列挙し、ふと
「じゃあ逆に、アカネちゃんの良い所はなんだろう」
などと考えた時だった。
明るいし、元気一杯だし、キチンと走れるし、え~と え~と・・
それだけだった。
結局、バイクに乗るオネェチャンだからオツキアイしたいだけだったのだ。
それに気がつけば話が早い。
アベコベだった順番を正せばいいのだ。
つまり、オトモダチとして一緒にツーリングを楽しみ、自分が真剣に気に入る相手であるかどうかを見定めれば良いのではないか。
そう悟った途端、ここ数日の暗雲が、イッキに晴れてしまった。
浄土平にバイクを停めて、吾妻小富士の山頂を目指して歩く事に。
標高1700mの山とは言え、10分も登れば自慢の火口のフチまで到着する事が出来る。
あまりにもあっけなく登れちゃったので、その直径1.5Km程の巨大アリジゴクを一周しながら、イロイロな話をした。
シゴトの事、家族の事、将来の夢の事・・
アカネちゃんの夢を叶える為には、かなり勉強が必要だといった事に話が及んだ時、
「時間を作るのがタイヘンだろうね」
「でも、今はフリーだから何とかなるわよ」
「フリーって?」
「カレシがいないって事よ。悔しいけれどね」
「なんで悔しいの?」
「もう吹っ切れたけど、別れる時はドロドロだったんだから!」
何を勘違いしたのか、アカネちゃんはそんな事を言った。
ドキッとした。
アカネちゃんには全くオトコの気配など感じられず、周囲からも
「オトコと付き合った事なんか無いぜ」
なんて囁かれていたのだ。
ワタクシは、アカネちゃんがそうだからこそオツキアイしたいと思った訳ではない。
唐突に、想定すらしていなかったオトコの影を感じて、どう反応して良いのか判らなくてウロタエてしまったのだ。
その時だった。
「アッ」
前触れの無い突風。
まるで山が深呼吸でもしたかのように、アカネちゃんの被っていた帽子を、その火口の中に吸い込んでしまった。
「拾うのはちょっとムリねぇ。ゴメンねぇ・・」
アカネちゃんは、火口底まで落ちてしまった帽子とワタクシに交互に目をやりながら呟いた。
それはワタクシの帽子だった。
山に登り始める前にアカネちゃんに貸した帽子。
それは、ちょっとお気に入りの品だったのだ。
「仕方ないよ。アカネちゃんが悪い訳じゃないし・・」
それしか答えようが無かった。
なんだかアカネちゃんのモトカレに、帽子まで持っていかれてしまった気分だった。
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