鹿殺し(1993GW)その4(携帯版)
●アイスピック
次は知床を目指さねばならない。
前回は雪で通行止だった知床峠を通過する為なのだ。
この道、毎年GW直前に開通されるものの、降れば通行止・除雪しては再開通を繰り返しているのだ。
観光客誘致目的とはいえ、この時期の開通には無理があるようで、行ってみなければ通れるか判らない出たとこ勝負の道なのだけれど、果して今回は・・
山のテッペンまで続くように見えるスーパー直線国道を延々と走り続け、いよいよ知床半島へ!!
交通情報の看板が!!!
『知床峠・通行止』
ガァァァァン!!!またダメだぁ!!!
なんのこれしき!そのまま前進!ウトロの街を越えて知床五湖へ。
雪に覆われた五湖を巡るものの、まるで雪中行軍!!
用意の良いシトはゴム長を履いている程なのだ。
これじゃ峠を走れる訳が無いと納得させられながら、グッタリと地面を見下ろせば、雪を割って流れる水辺にはミズバショウ。
いいねぇ。
小雪の舞う根北峠から迂回して、再び半島をさかのぼって羅臼の街に。
羅臼YHに荷物を預けて更に先端を目指す。
海岸っぺりの磯に沸く天然露天風呂・セセキ温泉を目指すのだ。
「セセキに行くって?バケツ貸したげるから持ってきなよ」
これはYHのおばちゃん。
「バケツですかぁ?何の為にぃ?」
「あそこは満潮んときは水没して入れないんだよ。この時間は入れるけど、バケツで海水汲んで埋めなきゃ熱くて入れないよう」
な・なんとも凄まじい温泉ではないか!!
楽しみだぁ!!
地の果ての雰囲気が漂うセセキに到着。
おおっ!!あれがウワサの温泉だぁ!
柵も脱衣場も何も無く、先客であるライダー達がテトラポットの影でゴソゴソとパンツを脱いでいる。
こりまたイイねぇ!!
バケツなど必用ではなかった。
オホーツク海ほどでは無いけれど、こちらも海は流氷の天下なのだ。
海面と氷原が半々くらいの割合で広がっている。
股間を隠して波打ち際まで凍え歩き、ブロック大の流氷のカタマリを抱えて来て湯船に投げ込むのだ。
氷を抱えている時は股間を隠す事は出来ないけれど、どうせ寒さで縮まっているから大丈夫!!
などとBAKA喜びしあいながら、目の前の国後島まで続く氷の道を眺める。
まさに、氷原に突き刺さった知床半島。
まったくイイねぇ!!
●難民への道
さらに海岸線を下り根室で宿泊。目を覚ますと再び雨!!。
今度はカッパが有るとはいえ、寒い事には変わりが無い。
さすがに太平洋側には流氷の姿は見当たらないが、徐々に消えていった流氷と反比例するように、一抹の不安が膨らみ始めていた。
じぇ・じぇにが無くなってきたのだぁ!!
道内のどこかの銀行でおろそうかと考えていたのだけれど、ついつい先延ばしにしているうちに今日まで来てしまったのだ。
明日の釧路発フェリー、予約はしてあるけどチケットはまだ買ってない。
果してフェリーっていくらだったっけ?
いずれにしても、フェリー代ギリギリか足りない位の現金しか残っていないではないか!!
この寒さ、野宿という訳にも行かず、貴重な残金で釧路YHに泊まる。
もちろんメシ抜きである。
ベッドの上に小銭までブチまけて残金チェック。
もし足りなかったら・・
本州に戻るには絶対どこかでフェリーに乗らねばならず、ガソリン代は必須だしメシも食わねばなるまい。
高速代も高いから東北地方は下道を走るしか無いよう!!
そんな調子じゃ有休も延長だし。
トホホホホ・・
翌朝、フェリー乗り場に。
不安げに料金表を見上げると・・
やったぁ!!足りたぁ!!帰れるぞぉ!!。
小銭を混ぜてジャラジャラと払い、残ったゼニは300円!!!
泣けるぜ!!
●さらば北海道
何はともあれ帰れるのだ!!
船内には出港のドラが響く。
残金300円の中から200円を払い、CBRアンチャンから余ったカップ麺を売ってもらって食料を確保。
フロ上がりのビールはオアズケしかない。
冷水機よ、仲良くしようぜぇ。
徐々に釧路港の岸壁を離れるフェリー。
反対側の埠頭には、なぜかゾクが集結しているではないか。
10台ほどのクルマが集まり、例のパラリラ音を響かせながら船に並走したり、こちらに向ってパッシングをしまくったり・・
そして一斉にこちらに手を振り続ける。
思わず皆で手を振って答える。
誰かがつぶやく。
「あいつら、きっと東京に行きたいんだぜ」
フェリーは防潮堤の外に出て、タグボートはゆっくりと旋回しながら港に戻っていく。
埠頭の突端では、相変わらずゾクがライトをピカピカさせながら、ちぎれんばかりに手を振り続けている。
そんな彼らと共に、波瀾万丈だった2回目の北海道が遠ざかって行く。
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聖地・北海道へ
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