鹿殺し(1993GW)その3(携帯版)


●下山
いつまでもここに居たって仕方が無い。
とりあえず斜里側に下る事に。
まさか鹿が再登場しやしないかヒヤヒヤしながら、幾つかのコーナーをクリア。
バイクも全く問題は無さそうだ。
徐々に速度を上げ、ゲロ寒いけど楽しい北海道ツーリングの感覚が戻ってくる。
トホホなタンクのヘコミはどうしようもないけれど、心のヘコミは徐々に収まってきたようだ。

山を下って緑という集落に入ると、無事に人間界に戻って来た気がして一安心。
ふと見掛けた駐在所に立ち寄る事にする。
国立公園内で鹿を傷つけたから、いちおう報告するツモリなのだ。
「すいませ〜ん。鹿と事故ったんですけどぉ」
「なんだって?鹿はどうなった?」
「生きてました。走って逃げていきました。」
「そうか、それは良かった。」
「良かったって・・人間の方も心配しとくれよう!!」
「だって平気だったんだろ?だからここに居るんだろ?」
「ま・まぁ・・。で、届か何かを出す必要は無いんですか?」
「んなもんイラナイよ。もし鹿が死んでたとしてもな。」
「し・死んでてもですかぁ??」
「ああ。死体を持ち帰ってくれば、そこいらで買ってくれるよ。」

 何と言う事だ!!
トドメを刺してやれば良かったのだ。
そうすれば、タンク代になったかも知れないではないか!!
でも、果してバイクに積めたものだろうか。
ムリヤリ積めたとしたら、対向するバイクはさぞや驚くであろう。
「おっ、バイクだ。んじゃピースサインでも・・」
などと前を良く見ると
「ウゲゲゲゲ!!背中からピースが4本も!!阿修羅じゃぁ!!」
なんてことになりかねない。
鹿の足はもともとピースなのだ。


●温泉治療
 流氷めざしての北上はひとまずオアズケにし、温泉を目指す事に。
目指すはオンネトー。
恐らく凍結しているだろうけど、それがまた神秘的であると聞いた事もある。
そりならば、ココロのキズを癒しに行くのじゃぁ!!
 ゲロ寒&ゲロ霧の阿寒湖畔を走り抜け、オンネトーのすぐ手前の野中温泉YHに到着。
まずは湯治場風のひなびた風呂場で体を温め、目指すはオンネトーから1Km程歩いた所にある湯の滝なのだ。
全面凍結のオンネトーを半周し、雪を踏みしめながら滝を目指す。
 おおっ!!見えてきた!!。
決して大きな滝ではないけれど、天然の露天風呂から滝が落ち、滝壷も天然の露天風呂になっているのだ。
さすがに滝壷は湯温が低く、とても入れる状態ではない。
『ナンタラカンタラという貴重な鉱物が発掘されました。だから上の湯船には入らないでね』などとカンバンが出ているけれど、かまっちゃいられない!!
オラオラと崖を登り、湯船に飛び込む。
湯船から遠く見渡せる大雪連峰の山々は純白で、なにかヒマラヤを思わせる神々しさである。
いやぁゴクラクゴクラク・・
と言う程ゴクラクでは無かった!!
やはりこちらの湯船もぬるいのだ。
果して湯船から出る事が出来るのだろうか・・
などと、真剣に悩まざるを得ないのであった。
 大いなる勇気を奮い立たせて風呂から出れば、いつのまにか滝壷あたりに憎っくき鹿が居るではないか!!
まさか裏摩周にいた鹿であるわけが無いけれど、無性に怒りが込み上げる
「キ・キッサマァ!!よくもしゃあしゃあと現れやがったなぁ!」
「おっ!なんだなんだ!!上の風呂に入っていやがったか。ニンゲンのクセに看板が読めなかったらしいなぁ」
こにくたらしそうにメンチを切って来る鹿!!
「にゃ・にゃにおぅ!この馬鹿野郎!!じゃなかった、鹿野郎!!」
思わず、雪玉などを投げつけてしまう、哀れな八つ当たりニンゲンなのであった。


●オホーツクへ
 ショートカットのダートでカネラン峠を越え、陸別・留辺蕊などの街を通過して一気にオホーツク海側の街である湧別に出る。
完全に全面凍結しているサロマ湖は、まるでただの雪原の様相である。
一方オホーツク海は、沖合いにちょっぴり海面が覗くだけの氷のガレ場地帯。
海岸線には冷蔵庫くらいの氷塊がゴロゴロしている。
それにしても寒く、密かに狙っていた「流氷で水割り計画」どころではない。
一気に海沿いに下り、斜里方向を目指す事にする。
そこにはロシア船が待っているハズなのだ。
過去にも流氷を見た事はあるけれど、まさかバイクで見られるとは夢にも思わなかったので、感激しながらハナミズをすすって走る。
 夕刻の網走の街を通過。
再び、氷に閉ざされた海沿いを走り抜け、浜小清水YHに転がり込む。
すぐ隣りの「オホーツク温泉」なるコーラ色の温泉に浸かって、やっと人心地・・
ふぅ。
昨日から連泊していた男によれば
「ロシア船は、今日の昼間に救助された。ずっと見ていたけど面白かった」
そうな。
一歩遅かった!!!
く・くそぉ!!!
流氷どおしがギシギシと擦れ合う音を聞きながら、なぜかUNO大会に明け暮れる夜が更けていく。


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