ブラボーつるおか(1993秋・東北)その1(携帯版)
秋の3連休の初日の朝。
ワタクシは、行楽客で溢れかえった関越道・三芳PAにて、一人で激しくドキドキしていたのだ。
いざツーリングともなると少なからずドキドキするのだけれど、今日のドキドキはそんな簡単なモノではない。
どちらかと言えば、コーフン状態と言ったほうが適切な表現だったかもしれない。
何にコーフンしていたのかと言えば・・・・・・
そう。
間もなくココに到着するハズのアカネちゃんとの、ワタクシにとっては初めての、2ショットお泊りツーリングが始まろうとしていたのだ。
アカネちゃんとは、コイビトという関係ではない。
これからココに来るアカネちゃんが、どういうツモリで2ショットツーリングに応じたのかも深くは考えもしないままに、とにかくドキドキの真っ最中なのだ。
好天に恵まれた3連休の初日とあって、PAに入りきれないクルマは本線まで溢れ、バイクだってハンパではない数がひしめいている。
一人で自分のバイクの前に座ってタバコを燻らすオトコや、数名でニコヤカに談笑しているライダー達などの姿をボンヤリと眺めながら過ごすひととき。
「やあ、調子はどうだい?ボクはねぇ、これからカノジョと二人っきりで、オトマリのツーリングなのさ!!」
などと、なんだか妙に優しいキモチで話し掛けたくなる。
ああ、こんなシヤワセなヒトトキが、いつまでも続いてくれたなら・・・・・・
続いてしまったのだ。
アカネちゃんが、いつまでたっても来ないのだ。
携帯電話が一般的なシロモノになるのは、まだまだずぅっと先の時代である。
当時はワタクシもアカネちゃんも、そのようなお大尽グッズを持っている訳もなく、
「道は大渋滞だし、ちょっとくらいは遅れるのかも・・・・」
などと思いを巡らせながら、ただただ来るのを待つしかない。
30分。1時間・・・・・
ま、まさか途中で事故にでも・・・・・
あるいは、待ち合わせ場所を間違えたとか・・・・
か・考えるのは辛すぎるけれど、最初から来る気など無かったとか・・・・
1時間半。2時間・・・・・
き!きたぁ!!
青いCBRだぁ!!
「待ったぁ?寝坊しちゃったぁ」
お・おいっ!
寝坊は判ったけれど、その前に、何か4文字のコトバが出ないのかい!
そう。「コに濁点」で始まる、4文字の言葉が!!
どんだけ心配し、どんだけイラつき、そしてどんだけアセったのか!
ワナワナとしていたであろうワタクシの顔色を読み取る事も無く、アカネちゃんはアッケラカンとした口調で・・・・・
「でも、すごい渋滞ね。どこまで続いてるのかしら。どうする?」
「ど・どうするって?」
「出る時間も遅くなっちゃったし、行くのやめちゃう?」
な・なんて事を!!
それだけは悲しすぎる。
「だ・ダイジョーブだよう!!このくらい遅れたって、全然影響なんか無いって!!」
こう言ってしまった以上、もう遅刻を咎める事が出来なくなってしまったワタクシだった。
2台で後先になりながら、ひたすら関越道を北上する。
実際には2時間の遅れは厳しく、SAでの休憩の語らいなどを楽しむヒマもなく、給油だけして走り続けて新潟ICに辿り着けば、メシも食いそびれての遅い午後になってしまった。
今日の予定は、このまま日本海に沿って北上し、海っぺりの由良温泉に漬かりながら日本海に沈む夕日を眺めて鶴岡泊まり。
すでに由良温泉での夕日は極めて厳しくなってしまったけれど、とにかく北に進むしか選択肢は無い。
R113号を走り、新潟東港のクランクを抜け、さらに松林の道を進むうちに、ほどなく日本海が見えてきた。
しきりに左手を伸ばして海を指し示すアカネちゃんの姿がミラーに映るや否や、ワタクシは反射的にバイクを停めてしまった。
そして「海だ海だ」と口々に叫びながら砂浜に降り立てば、目の前はドドォンと日本海。
太平洋側で生まれ育った我々にとっては、日本海は見るだけでもカンゲキだったりするのだ。
水平線ギリギリまで雲ひとつ無く、これは
「海へのサンセットを見ずしてどうする?」
といったアンバイなのだけれど・・・・・・
まだまだソレには時間があるすぎる。
しかし、ココでサンセットを待つ作戦もアリではないか。
なにしろ、じっくりと時間があるのだ。
会話を深めつつ、カンドー的な光景にも後押しされれば、ロマンチックな展開にも・・・・・
そうなれば、もう
「キレイねぇ」
「そーだねぇ」
なんてオトモダチ的な会話だけじゃ済まないハズなのだ。
ううむ・・・・・・!!
「ねぇ、そろそろ行こうよ」
「えっ?もう行くの?」
「だって時間が無いんでしょ?」
「そ・そうだけど、夕日が・・・・」
「これから先はずっと海沿いじゃない。ココで待ってなくたって、どこからだって見えるわよ」
「そ・そうだね」
なんだか思惑が噛み合わないのか、あるいはコチラの思惑を察知してはぐらかしているのか。
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