ブラボーつるおか(1993秋・東北)その2(携帯版)
道はR345号と名を変えながらも、相変わらずの海岸っぺりの快適な道を北上し、村上の少し手前の瀬波温泉付近に到達あたりで再びバイクを停める。
ココの温泉で、サンセットを眺めるという手があったのだ。
日没まではあと30分くらいだろうか。
「ココで夕日を・・・・」
それを遮るようにアカネちゃんが叫んだ。
「ねぇ、アレ!!」
おおっ!!
力尽きたように赤々とアタマを下げてきた太陽と水平線の間に、怪しげな黒い物体が横たわっているのだ。
「さ・ど・が・し・まぁ!!」
憎むべし佐渡島。
ここで待ち構えていても、夕日は水平線ではなく、佐渡島に沈んでしまう事は間違い無い。
『温泉での夕日』のリカバリーまで奪い取りやがった。
「は・走れぇ!!」
先を競うようにヘルメットをかぶり、再び国道を走り出すしかなかった。
あたりは、もう完全に夕方の様相である。
そんな中、佐渡島の呪縛を避ける地点を求めて、鬼気迫るように走る続ける二人。
なにしろ日本で最大の島、なかなか手ごわいのだ。
走れ走れ走れ走れぇ!!!
程なく、国道脇の路肩には、三脚に固定したカメラを海に向け、サンセットを待つ人の姿が見えた。
「ヤバいっ!日没まで時間が無い!!」
走るほどにカメラの砲列は数を増し、ズラっと10人位が並んでいたりするポイントもある。
「い・いそがねばぁ!!」
もうお気付きだろう。
それだけのカメラが並んでいると言う事は、とっくに佐渡島なんぞは南に離れているのだ。
アセるが余り、そんな事にも気がつかない我々だけが、絶好の水平線サンセットポイントをバカのように走り抜けていたのだ。
走れ走れ走れ走れぇ!!!
鼠ヶ関の手前あたりだろうか。
カメラの砲列が徐々に減り、そして誰も居なくなった路肩に、遂にバイクを停める。
「ダメだ。もう沈んじゃう。アカネちゃん、ココで許して」
「仕方ないわよ。殆ど海に沈むのと変わりないわよ。島に沈む夕日だってステキじゃない?」
「そ・そう言ってくれるとアリガタい・・・・・・」
「でもヘンねぇ」
「な・なにが?」
「佐渡島が、なんだかずいぶん縮んじゃってる」
「えっ????」
そうだったのだ。
絶好ポイントを通過してしまった我々は、事もあろうに、夕日が粟島に沈むポイントまで来てしまったのだ。
ああ、なんという間の悪さ!!!
「ぐぇぇぇぇぇ!!行き過ぎたぁ!!!」
「ズンズン行っちゃうんで、なんだかおかしいと思ったわ・・・」
夕日でカンドー作戦は、見事に失敗に終わってしまった。
しかし気を使ってくれたのか、あるいは最初から夕日へのコダワリが薄かったのか、特に残念がる様子を見せないアカネちゃん。
「行こうよう。お腹もすいたし」
「う・うん」
夕日の残骸の赤い空間に浮かび上がった粟島のシルエットを、未練がましく眺め続けていても仕方ない。
走り出せば、あっというまにあたりは暗闇に包まれ、やがてシーサイドを走っている事さえ忘れてしまいそうな状況となる。
昼飯もマトモに食っていないのに、すっかり遅くなってしまった。
まだ鶴岡までは30キロ近くも走らねばならない。
ただただ前のみを見つめて走りながら、ワタクシは激しく失望していたのだ。
このツーリングのスケジュールはワタクシが作り、「日本海のサンセット」は、前半のハイライトになるハズだった。
コレは天候に大きく左右され、水平線まで雲が無い状態は、むしろ極めて稀なケースだと思われる。
アカネちゃんの遅刻も影響したとは言え、自らのマヌケな失敗で、そんな絶好のチャンスをフイにしてしまったのだ。
自らが見れなかった事などは問題では無い。
アカネちゃんに見せてあげられなかった事が残念でたまらなかった。
もっと正確に言えば、「アカネちゃんと一緒に見れなかった」事を悔やんでいたのかもしれない。
「ゴメン・・・・」
バックミラーに映るアカネちゃんに、独り言のように謝ってみる。
もっとも、ミラーに映るのはアカネちゃんのバイクのヘッドライトの灯りだけだ。
アカネちゃん本人の姿は、その彼女の心の中のように、闇に覆われてしまってハッキリとは見えない。
ワタクシのバイクのヘッドライトは妙に暗く、前方の暗闇の中に作り出してくれる視界は、ボンヤリとした極めて狭い範囲だけだった。
この時のワタクシは、早く鶴岡に着かねばならないアセリ以上に、もっと本質的な事にアセっていたのだろう。
まるで今の自分の視界と同じで、「自分は、アカネちゃんの事を、ホントに気に入っているのだろうか?」なんて肝心な思考は全くの暗闇状態のまま、「何とかしてアカネちゃんに気に入られなければ」といった目先の狭い視野のみを頼りに、ただただ前に走り続けていたのだ。
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