オリオン日記(2002夏・西表島)その6(携帯版)
西表島から鳩間島までは毎日一往復の郵便船が行き来していて、その船が出るのが上原港だ。
離島から更なる離島へ向かう波止場なのだ。
この船には観光客も乗る事が出来るのだけれど、鳩間島に着いたらトンボ帰りになる運行なので、鳩間島で泊まらなければ島内観光は不可能だとの事。
さすがにそれでは乗る訳にはいかない。
それでは何故、上原港に来たのかと言えば・・・・・
そこにあると言ふ、『はとば食堂』でメシを食う為なのだよ。
いるもてフリークの中村家のオススメなのだ。
安さとボリュームがウリだそうな。
その店は、小さな漁港の片隅の、防波堤に沿った細い路地に面した位置に、くすんだ看板を掲げていた。
沖縄風といった風情は全く無く、明治通沿い泪橋付近にでもありそうな、うらぶれた感じの古ぼったい店。
窓は全開で、クーラーなど存在しない事が一目瞭然だ。
店を覗き込むと、小上がりのタタミには扇風機3台を一列に並べてフル稼働。
二つしかない土間のテーブルに、これぞ八重山といった感じのジィサマがひとりでふんぞり返って呆然と海を見ている。
はとば食堂よ!
なんともスバラシい光景じゃないか!!
こりはイヤミではなく、本心なのだ。
うすうす気がつき始めたのだけれども、ここは沖縄ではない。
あくまでも八重山なのだ。
ヘンに観光的に着飾っちゃイケんのだ。
事実として、ここいらのシトが那覇に行く用事があるときは
「ちょっと沖縄に行って来る」
と言うそうだ。
「めんそーれ」なんて揉み手でにじり寄って来るのは、沖縄か、せいぜい宮古島あたりまでに任せればよい。
いいぞぉ八重山!!気に入った。
早く、キッチリと八重山にハマった、この店に入りたい!
この雰囲気に浸りたい!
チャンプル食いたい!!
オリオンを、いや、どなんを飲みたい!!
「メシ?もう今日は売り切れだぁ」
土間のテーブルに座った、八重山じぃさんが諭すように呟く。
どうやら、じいさんは店の関係者らしい。
「そ・そんなぁ・・」
ちょっとノンビリしすぎた。
もうすでに2時を大きく回っていた。
呆然と立ち尽くすワタクシに、じいさんは海を見たままで聞いてくる。
「何人だぁ?」
「オ・オトナひとりとコレです」
じいさんは、ハコガメのようにゆっくりと厨房に顔を向け
「お~い、一人分くらい何とかならないか?」
「ダメよぉ」
コリは、厨房のばぁさんの声。
「ダメだって。申し訳ないなぁ」
ここは八重山。
「なんだよ。ケッ」なんて気持ちなど沸いてこない。
「いいのよいいのよ」といった優しい気持ちで店を後にするものの・・・
新八食堂を始め、上原界隈の数少ない食堂は、みな「休憩中」の看板。
いくら多客期とはいえ、ずっと店を開けるほどの賑わいはないのだろう。
でも、それでいいのだ。
八重山なのだ。
結局、いざるように、またまたポケットハウスに。
キンキンにクーラーで冷えた近代的な店内は、はとば食堂とは別世界だった。
「あら、今日はオクサマは?」
「ダイビングですぅ」
「タイヘンですねぇ」
目の前には鳩間島、そして砂の島「バラス」。
そんなアンバイで、今日もまたココでオリオン漬けに陥るのだった。
一方の朱蘭さま、今日はお目当ての仲ノ神島はムリとの説明で、バラス周辺のスポットを二本ほど潜ったとの事だ。
「バラス東」とかいう有名ポイントを堪能してきた朱蘭さま、戻ってくるなり
「ねぇ!!明日あたり、仲ノ神島に行けるかも知れないんだって!!明日のダイビングも申し込んできちゃった!」
ホントに行けるのならラッキーなのだけれど・・・・
ダイビングには、陸に上がった後にも『ログづけ』なるオシゴトが待っているとの事。
その日の夜などに一緒に潜ったメンバーが集まり、それぞれが見た魚や何やらを報告しあうミーティングなのだそうな。
まあ、事務的な報告会というよりは親睦会みたいなもので、ログづけが終わると流れで宴会に突入し、ドンチャン騒ぎになっちゃう事もあるそうな。
「そろそろ始めますよぉ」
係りの兄ちゃんの呼びかけに、朱蘭さまもイソイソとダイビング小屋に出向いていく。
残された父子は、表に出て星空と語り合う。
ドッシリとしたサソリ座や御馴染みの北斗七星などの星座は、心なしか位置が違って見える。
南のサソリは高めに、北の北斗七星は低めに。
本土とは緯度が違うので、アタリマエといえばアタリマエだ。
でも、南十字星を見ることは出来ない。
もうちょっと南の波照間島まで行けば、ギリギリ水平線に見えるそうだ。
しかし、季節が違うために見えないハズのオリオンは、玄関脇の自販機まで行けばバッチリと姿が見えるのだ。当然、ルービのオリオンの事だ。
見るだけじゃ申し訳ないので、小銭まで入れちゃうのだ。
そしてプシュッってしちゃうのだ。
星空のルービ、なんてキモチが良いのだろう。
「なぁ、我が子よ。明日は何をやって、どこ行ってルービを飲もうか・・・」
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