オリオン日記(2002夏・西表島)その7(携帯版)
●8/14(水)
朱蘭さまは、今日も朝からダイビング。
憧れの仲ノ神島を目指してイソイソと出発して行った。
またまた取り残された父子は、レンタカーでドライブに出かける。
まずは仲間川へ。
西表島で二番目に長い川で、ここを観光船で遡るのだ。
大原の船着場で指定された船は、よく日に焼けた20台後半くらいの美形女性船長だった。
「いくつの坊やですか?いえ、子供には縁がない暮らしだから、 年齢がサッパリ判らないんですよ」
などと言いながらも、我が親子を最前列の一等席に乗せてくれる。
とにかく、マングローブの森に突入だぁ。
石垣島でかっぱらった観光パンフレットに、仲間川を訪れた観光客の、
「まるで、ディズニーランドのジャングルクルーズみたいで良かった」
などと言う、大きな勘違いをした感想が載っていた。
バカめ。
コッチがホンモノのジャングルクルーズなのだ。
しかし、このオネェチャン船長、妙にノリノリで面白く、まさにディズニーランド風のトークやら仕込みやらで皆を笑わせ、楽しませてくれる。
巨大なタコ足のような木があるポイントで上陸し、そこでUターンして川を下る。
帰路となれば、観客を飽きさせまいとしてオネェチャン船長のトークは輪をかけてウケ狙いに走る。
「あっ、あそこを飛んでるのがカンムリワシです」
オネェチャン船長が空を指し示せば、乗客たちは一斉に視線を向けてカメラの嵐。
そんな素直に反応する客を手玉に取り、
「左をご覧ください。あのマングローブの陰を歩いてるのが、イリオモテヤマネコのメスです」
これには乗客も騒乱状態になる。
その遭遇チャンスの低さは、カンムリワシなんかとは比較にならないのだ。
どこだどこだと大騒ぎする客を尻目に
「うっそぉ。いる訳無いでしょう。世の中、そんなに思い通りにはいきません」
船内は、ウケを通り過ぎて溜息に包まれる。
オネェチャン船長は更にヒートアップする。
「今はノコギリガザミというカニ漁のシーズンでして、ホラッ、あれもガザミ漁の船ですよ。見せてもらいましょうか」
オトッツアンが一人乗った小さな川舟に船を寄せ
「こんにちわぁ!!取れてますかぁ?」
乗客にも強要して、一緒にオトッツァンに声をかけさせる。
オトッツアンは、待ってましたとばかりに、両手に持った大きなカニを振りかざし、乗客たちもヤンヤの喝采。
しかし、どうやらこのオトッツァンはシコミっぽいのだ。
すれ違うように川を上ってきたカヌーのグループの
「カニ見せてぇ」
などという掛け声には、頑として反応を示さない。
まる一日、そこでカニを持って待機してるんだとすれば、なんともゴクローな事である。
やがて河口が見えてきて、元祖ジャングルクルーズも終わりが近い。
こんな風光明媚な西表島だけど、オネェチャン船長に言わせると、住むには非常に寂しいところだそうだ。
西表島では1、2を争う規模の集落である大原でさえ、飲み屋はたった2軒。
とにかく夜が寂しいとの事。
「若い女性も極端に少なくて、たまに夜這いなんかが来て寝苦しい夜を過ごす事になります」
なんだそうで、どこまでホントだか判らないけど面白い。
とにかく、なんだか東京あたりとは全く異なる社会なのだ。
船を下り、次に目指すは南風見田(はえみだ)の海岸。
クルマで走れる道路の終点にある、島の南岸に果てしなく広がる砂浜で、その広大な風景の中には海水浴客の姿は見えない。
それもそのはずで、売店も、シャワーも、脱衣場も、水場さえも無いのだ。
でも、そりで良いのだ、八重山なのだ。
ポコっと丸まっちく見えるのは、どうやら仲ノ神島らしい。
果たして朱蘭さまは、あの下の海に潜る事が出来たのだろうか。
父子で島影を見つめ、母の健闘を祈らざるを得ない。
次に、オコチャマと訪れたのは由布島。
西表島の沖合い500mに浮かぶ小さな島で、西表島との間には、橋も渡し舟も存在しない。
そう。有名な、水牛が引く牛車で渡る島なのだ。
海を挟んだ2つの島を結ぶのは電線のみ。
その電線は、海の中に点々と並ぶ電柱によって支えられ、その傍らを牛車がノンビリと行き来している。
ときおりテレビで紹介されるのを見る限り、なかなか八重山度が高い風景なのだけれど・・・・
結局は、単なる観光島ではないか。
島全体が植物園となっていて、上陸するには入園料なるものを取られる仕組みになっている。
そして例によって石垣島からの観光ツアーがバスを連ねてやってきて、すし詰め満員となった牛車でのピストン輸送。
海の中を進む牛車の風情をひと眺め出来ただけで十分で、わざわざ島に渡る気にはならなかった。
しかし・・・・
牛車乗り場の傍らに掘られた溜池の中で、数頭の水牛が首まで水に浸かっている。
おそらく、一仕事を終えて次の出番待ちなのだろう。
これを見たら気が変わってしまったのだ。
「観光島だって良いではないか。彼ら(水牛)はそれによってメシを食っているのだ。
キモチ良さげに目を細めて池の中でくつろいでいる彼らの為にも、エサ代を稼がせてやらねばならない。
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