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まぼろしグルメ(2007冬・糸魚川)

ARAIの宿で、埋没したクルマを救出中。もちろん自分達で

話は2005年のクリスマスの3連休に遡る。
チームぽっぽや一向は、年末年始スキーの下見と称して、ARAIスキー場に集結していた。
年末年始の行き先は志賀高原なので、下見と言うのは全く矛盾している。
要は、ただただスキーに行く為のノーガキなのだ。
そんな意味なし行動にバチが当ったのか、連休の中日からARAIのゲレンデは吹雪に包まれ、
んもぉ目も開けていられない状態となり、早々と下山して宿に待避する。
追い討ちをかけるように宿の駐車場にも大雪が積もり・・・・
翌朝、埋没したクルマを掘りかえしながら、誰ひとりゲレンデに向かう気力など無い。
「スキーは、ルービを美味しく呑む為の小道具」
などと真顔で論じ合うへたれスキーヤーの戦意を喪失させるには、十分すぎるシュチュエーションだったのだ。
「もう帰ろうぜぇ。ブッ殺すぜぇ」
「あったりまえだ。ゲレンデに行ったって苦痛なだけだ」
「せっかくだから、なんかンマいモノ食って帰ろう」
おごそかにるるぶなどが取り出され、それを覗き込むノンベェどもの目に留まった物体・・・・
それが今回の主役、小伏(こぶせ)ガニだったのだ。
カニの甲羅を繰り抜き、そこにカニご飯を詰め、カニミソがタップリと和えてある。
そんな写真に興味を示し、さっそく紹介されていた糸魚川市の寿司屋にデンワをしたところ、
「な・なぜ、ウチでソレを出してるって知ってるんですか?」
などと、オドロキの反応。
なぜって言われても、るるぶに載ってたからに他ならないのだけれど、どうやら裏メニューらしい。
そうと判っては、もう食うしかない。
スキー道具をまるで邪魔者のようにクルマにブチ込み、ソッコーで糸魚川に向かったのだ。

そして一年後。 これから正月休みを向かえようとする2006年の暮れ。
チームぽっぽや一向は、例によって志賀高原に向かっていった。
我が家は朱蘭さま御懐妊につき、このシーズンはスキーなど行ける訳が無く、
「せめてシミジミと雪景色を眺めつつ、ウマいモノを食ったってバチは当るまい」
そんなささやかな夢と希望をかなえる案として浮上したのが、
「再び、あの小伏ガニを食おう」
という作戦だった。
どうせ食うなら、ヒルメシとして立ち寄った前回よりもグレードアップし、酒も呑みながらキッチリと楽しもうではないか。
その為に糸魚川に宿を取り、行き返りの道中もルービを呑もうと新幹線を予約し、それでいて目的はカニを食うだけ。
なかなかゼイタクな予定だけど仕方が無い。
それほど、小伏ガニの印象はキョーレツだったのだ。

このカニが食える(漁が解禁となる)のは、真冬の一時期だけだと聞いていたので、確認の為に店にデンワ。
「えっ?こぶせガニ? どこで聞きました?」
前回と同じような反応。
「前にもお宅様で食べさして頂きまして、くどくどくどくど・・・・」
「判りました。御用意いたします。でも、その日の漁でカニが取れなきゃ作れないんです」
「そ・そりはキビシい・・・」
なにしろ冬の日本海。一度荒れだしたら何日も漁に出れないに違いない。
ダメを押すように、
「ここ3日ばかり、船は出てないんですよ」
などとノタマう寿司屋のオカミ。
なんのなんの。ココで負けてなるモノか。
年末年始、目をサラのようにして週間天気予報をチェックしまくり、そして正月休みも終わりに近づいたその日、
「今日は漁に出ました」
待ちに待ったデンワ! 遂に、マボロシの小伏ガニと再会できるのだ!
いざ出発ぅぅぅ!!

コレがマボロシの小伏ガニ。いただきます!

新幹線と特急電車、そして鈍行列車まで乗り継ぎ、糸魚川の街へ。
宿に荷物をブチ込んで、いよいよ問題の寿司屋に突入。
「東京からのお客さんでしたよね? 用意は出来てます」
最後まで気になっていた点、
『漁には出たとは聞いたけど、果たしてカニは捕れたのだろうか・・・』
そんな不安が顔に出ていたのだろうか、板さんは
「ダイジョーブですよ。カニ、ありますから」
満面の笑みで答えてくれた。
待ちに待った小伏ガニは、んもぉ全身の力を抜けさせてくれる逸品だった。
しかも、前回を上回るサービス付きで、
「ミソは少し残しといてくださいよ。かにゴハンのオカワリを足しますから」
などと、1カニで2度も楽しませてくれた。
はぁ、ごくらくごくらく。
カニミソを残して、オカワリのスタンバイ完了!

いくら念願のカニだとは言え、ソレだけを満腹になるまで食うほど豪華一点成金主義ではない。
合わせて頼んだ地魚のニギリやらお造り、コレがまた凄かった。
ああっ、ヤバすぎる!
白エビ、目ダイ、石投げ、メクラ穴子・・・
もう、クルクルパーになっちゃうよう。

ズラっと並んだ、地魚の精鋭たち。いただきます!

そして、次なるマボロシが登場した。
その名はげんげ、幻魚と書いて、げんげと読むのだそうだ。
なんだかウナギを巨デブにしたような形のケッタイな深海魚で、富山湾の一部の地方のみで知られる魚なのだとか。
げんげという名の「幻の魚」というのは当て字で、元々の意味は「下の下(げのげ)」。
つまり、昔は極めて下等な扱いの魚だったのだそうだ。
そしてクセが強く、嫌いな人には徹底的に嫌われる魚らしい。
その珍しさがグルメブームに後押しされ、今や高級魚の仲間入りとなったとの事。
せっかくだから、その幻魚も注文してみた。
淡白な白身の魚で、感想はハッキリいって旨いか不味いか判らない。
ただただ
「貴重なモノを食べさしていただきました」
なんてところだろうか。
まあ、こういうモノはアチコチにあると思う。
今は高価な鯨の肉だって、我々が小学校の頃の給食にはイヤってほど登場したものだ。

コレがマボロシの魚、げんげ。味はフツー
げんげ。(イラストは、ふるさと生地より)

とにかく大満足で宿に帰った翌日。
この糸魚川の、もうひとつマボロシのグルメスポットを訪れねばならない。
その名は吉川鮮魚店。
知る人ぞ知る魚屋で、その二階は座敷になっていて、そこで魚が食べれる仕組みなのだそうだ。
普通の民家のようで、けっしてコギレイとは言いがたい部屋ながら、何よりもウリなのが
「激安・超ウマな新鮮な刺身が食べられる。しかもテンコ盛り」
などと聞いてしまっては、ぜひとも行ってみたい。
しかし、この店の特徴はソレだけではないのだ。
店のオバチャンの口の悪さは尋常ではなく、店の主人だろうが客だろうが、お構い無しに罵声を浴びせるのだとか。
初対面のお客様に対しても
「あんたら買うの?買わないの?買わないんだったらそこどいて!」
なんてのは序の口で、もう暴言を吐きまくるのだそうだ。
しかし、ソレも一つのウリになっているらしく、これを楽しみに来る常連客もいるらしい。
これは、ぜひとも行ってみたい。
テンコ盛りの刺身も食ってみたいし、もちろんオバチャンの暴言も気になる。

店の場所は確認済みなのだけれど、駅から徒歩という訳にはいかない距離だ。
最寄のバス亭、そして開店時刻などを確認すべく、店にデンワしてみる。
そんな問合せに対し、どんな暴言が返ってくるのだろうか。
ワクワクワクワク・・・・・
「はいっ。吉川ですけど」
フツーの口調。
「吉川鮮魚店さんですよね?」
「そうだけど」
やっぱり、フツーの口調。
「あのぉ、今日は何時から開店ですか?」
「今日かい?」
おや?なんだか弱々しい口調!
「ここんところ働きっぱなしで、もう疲れちゃったんだよ」
気の毒なくらい、ホントに疲れきった口調。
「は・はぁ・・・・・」
「今日ぐらいは休みたいんだけど、ダメかい?」
遂には、哀願の口調。
ダメかいと聞かれたって困る。
観光バスも乗り付ける人気店なのに、我が家の判断で決める問題ではないだろう。
しかし、聞かれちゃったからには答えなければ収まりがつかない。
「判りました。休んでください」
「悪いねぇ。じゃあ休ませてもらうよ。ゴメンね」
気遣いに満ち溢れた、優しい口調。

こうして、マボロシの刺身テンコ盛り、そしてマボロシの暴言はマボロシに終わってしまった。
いつの日か店に訪れるときまで、暴言オバチャンには元気でいて欲しい。
ああ、吉川鮮魚店に栄光あれ。

シロエビご一行様。また食べたいなぁ

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