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悶絶モリオカ(2002秋・東北)


安家洞の入り口

盛岡。
なにげに好印象な街なのです。
ユーミンの古い曲の一節に
「モリオカというその響きが、ロシア語みたいだった」
なんてのもありまして、なんだか妙に、日本離れした旅愁を感じちゃうのです。
ホントのロシアの風情ってのは、イマイチ想像がつきませんが。

ロシアを旅するチャンスが訪れたなら、是非ともシベリア鉄道に乗ってみたい物です。
行けども行けども変わらない、人工物など何も無い風景・・・・・
「コレこそロシアじゃぁ!!!」
などとカンドーしちゃいそうな気がします。
もっとも、
「一度は乗りたいシベリア鉄道。でも、二度も乗るのはアフォだ!!」
なんて言いますから、実際に乗ってみたら、果してどうなる事やら。


そんな類のモノが、盛岡にも存在するのです。
それは「わんこそば」。
これは一度チャレンジすれば十分で、2度も食うのはアフォだと思っております。
だって、味自体に特徴がある訳ではないし、ハッキリ言ってツラい思いをするのは必至じゃないですか。
それなのに・・・・・・
トレンタくんを利用して家族で東北地方を周った際、朱蘭さまの強い希望で、またまた食うハメになりました。

ご存知だとは思いますが、念のため、わんこそばのルールを説明させて頂きますと・・・
ソバ自体は、フツーの蕎麦なのです。
フツーのソバとの違いは、横に寄り添った係りのオバチャンに、強制的にソバのおかわりをオワンにブチ込まれてしまうのです。
これは、隙を見てオワンにフタをしてしまうまで、延々と続けられるのです。
標準的には、女性は30杯、男性は60杯くらいは喰えるとされてますが、もちろんフツーの蕎麦屋のソバの量を、こんなに喰える訳がありません。
わんこ15杯で、普通のモリソバ一杯の量に等しいとの説明でした。

ワタクシの前回のチャレンジは学生時代で、今よりもバンバン喰える年代です。
そして結果は70杯位でした。
もう限界まで喰ったツモリだったのですが・・・
その時に旅先で出会ったシトビトに聞くと相当に少ないほうで、スレンダーなオネェチャンにさえ負けてる始末でした。
その敗因は、メンバーが悪かったのだと自己弁護したものです。

一人で店に入ったワタクシは、他の客と混ぜられて、6人でテーブルを囲みました。
そこに4人のオカワリおばちゃんが付いて勝負が開始。
「ホイサホイサ」と、マシンガンのようにソバが飛んできます。
ワタクシのテーブルは年配者や女性ばかりで、みな、あっという間にギブアップしてフタを閉めてしまい、ワタクシと爺さんだけが残りました。
この爺さん、けっしてやる気満々なのでは無いのです。
動きが鈍くて、なかなかフタが閉められないだけだったのです。

やがて、いっぱいっぱいだった爺さんにも、マジな限界が迫り、
「もうたくさん。ごめんなさい」
「ホントにダメです。許してください」
などと哀願するものの、非情にも、ソバがポンポンとブチ込まれている有様なのでした。
いくらこれが名物とはいえ、死人を出したらシャレになりません。
ほどなく爺さんは許され、涙を流しながらリタイアしたのです。
そしてワタクシだけが残りました。

マラソンでも何でも、孤独となった戦いは、精神的にキツいものです。
しかも、ワタクシ以外は全員リタイアとなったので、手の空いてしまった4人のオカワリおばさん全員から攻撃されるのです。
こうしてワタクシは、哀願爺さんが消えた後、たいした粘りを見せる事も出来ずに、あっという間に果ててしまったのでした。

そして今年。
今回は、大食い女の朱蘭さまが一緒です。
タッグを組んで喰い続ければ、少なくとも前回のような、ブザマな三擦り半的な惨敗には至らない事でしょう。
ひそかに100杯を目標にしたワタクシ。
さて、どうなります事やら。



今年の店は、前回とはちょこっとシステムが違いました。
他の客と混ぜられる事は無く、二人きりでテーブルを囲みます。
そして、付き添ったオカワリおばちゃんは一人でした。
「さぁ、いきますよぉ!!」
オバチャンの掛け声と共に、いよいよスタートです。

「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」
さまざまな掛け声を繰り返しながら、次々とソバが飛んできます。
何の事無く、まずは15杯。
ここで、前回との大きな違いがありました。

二人分で30杯ほど投げ込むと、おばちゃんが
「はい、おまちくださぁい」
などと言いながら、次のソバを取りに店の奥に消えてしまうのです。
その為、1分程のインターバルが空くのです。
前回は、オカワリおばちゃんの他に、後方支援の運搬オバチャンが居て、オカワリの途切れる時間など無かったのとは大違いなのです。
このインターバル、喰いはじめで余裕がある時はまどろっこしかったのですが、徐々に苦しくなると、とにかく口の中のソバを胃袋に収めるには最適で、貴重なアリガタサでした。

「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」・・・・「はい、おまちくださぁい」
朱蘭さまも、なかなか良いペースで進んでおります。
地道に積み上がっていく、空いたオカワリ用のオワンの山。
これはイケそうだと、余裕をこいて薬味のキノコなどをつっついたりします。

「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」・・・・「はい、おまちくださぁい」
ちょこっと、朱蘭さまのペースが落ちてきました。
オカワリのペースもワタクシの半分くらいになり、その分がワタクシのオワンめがけて飛んできます。
この辺で前回の記録を突破!!
あとは100杯を目指すのみ。

「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」・・・・
ついに朱蘭さまがフタをしてしまいました。
76杯でした。
ワタクシはその時点で90杯位。
目標まで、あと一息頑張らねばなりません。
しかし、ただでさえ飲み込むペースが落ちてきていると言うのに、朱蘭さまを失った今、すべてのソバがワタクシに襲い掛かります。
そう。
前回の、哀願爺さんが逝った時と同じ状況なのです。

「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」・・・・「はい、おまちくださぁい」
「も・もういいです」
横目で眺めたオワンの山が100杯を越えた事を確認したワタクシは、無意識のうちに、オカワリを取りに行こうとするオバチャンを引き止めてしまいました。
とりあえず目標を達成した今、次々とブチ込まれるソバとの格闘を続ける戦意が、一気に萎えてしまったのでした。
まだ数杯ならば喰えない事は無いのでしょうが、一度に持ってくるのは30杯分。
間違っても全部喰いきれないソバを持ってこさせるのは、出されたものを残すのが嫌いなワタクシには、ちょうど良い引き際でした。

「アラ、あと一杯で105杯なんですけど、良いんですか?」
105杯だと何か有るのか無いのか聞く気にもならず、もはやこれまでです。
「もう十分です」
「そうですか。じゃあ、ちょっとお待ちくださいね」
こうして、戦いは終わりを告げたのです。
今更飲む気にはならないであろうソバ湯が運び込まれ、ソバの残骸飛び散る戦場跡のテーブルに、しめやかに置かれたのでした。

ソバの杯数を書かれた証明書と共に、100杯を越えたワタクシには将棋の駒の形の通行手形みたいな木製の証明書も一緒に渡されました。
ちなみに、今までのこの店での記録は、550杯ほどだそうです。

我々の戦闘を脇で見ながら、「ホイサァ」「はい、どっこい」「がんばってぇ」
の掛け声に反応して愛想を振りまいていた我がオコチャマに、オバチャンがにこやかに語りかけます。
「ボク、今度はパパと一緒に挑戦しようね」
じょ・冗談じゃない。
今度こそ、もうゴメンです。

ごちそうさまでした
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