南国大尽(2001冬・モルジブ)その8(携帯版)


再び泳ぎ始めては、ついつい気を許して海水進入の繰り返し。
フツーに泳いでいても、ちょこっとずつ進入してくる海水と唾液が混じったものが徐々にたまってくるし、こりはどうしたら良いんだよう。
水中カメラで次々と魚の姿を追っている朱蘭さま、時折完全に海面から潜ったりしているではないか!!
いったいシュノーケルに入り込んだ水はどうやって・・・・
「どうしたの?」
「か・海水がぁ!!ツバがぁ!!呼吸がぁ!!」
「あのねぇ、息はユックリと吸って、強めに吐き出すの。そうすれば溜まった水は吹き飛ばされるから」
「ふむふむ。」
「潜った時は、吐き出す空気の余裕があるうちに浮上して、ボワッと吐くのよ」
「なるへそ。ボワッっとね。」

時折、潜りの練習なども織り交ぜながら、徐々に沖に向かって進む。
真っ白く浅い海底には容赦なく南国の日差しが照り付けて、海の色をエメラルド色に変えている。
数十メートルくらい先に、海面が一気に青黒く変化するラインが延々と続いている。
どうやら、あのあたりから急激に水深が深くなっているようだ。
「あそこまで行ってみようよ」
そこはまるで大きな川の土手を思わせるような急激さで、一気に深まりとなる砂地の急斜面であった。
この先の海底は全く見えない。
小学校の時に通っていたスイミングクラブでの事を思い出す。
たまたまいつも泳いでいたプールが使えず、飛び込み競技専用のプールで泳がされた事があった。
そこは水深5m、当時としては信じられない程に深いプールだったのだ。
屈折の影響か、プールサイドに辿り着いて手をかけたツモリがまだまだ泳ぎきっていなかったりして、あれ?っと思って立ち上がろうにも、プールの底は遥か足の下でユラユラとゆらめいているのみ。
普段なら平気で泳げる連中が次々と溺れてしまったのだ。
プールではそこそこ泳ぎに自信はあるけれど、海で泳いだ経験があまり無いワタクシ、しかし今は、足がつかないどころか全く姿の見えない海底。
まるで宇宙を漂っているような、怖くもあり面白くもあり、なんともフシギな光景に思わず身震いする。
「戻ろうよう。何か有ったら怖いよう」
忘れていた!!
朱蘭さまは妊婦だったのだ。


環礁に打ち付ける波の向こうに夕日を見ながら、ふたたびランガリフィノール島まで夕食を食いに出かける。
いざ遊びだしてしまえば眠いだの疲れただのは一気に吹き飛んで、あっというまに2時間は泳いでいたのだ。
こりはビールもンマいに違いない。
そそくさとメインレストランの籐イスに座り、テキトーにオカズをかき集めてからウエイターを呼ぶ。
「びーるぅ!!びーるをおくれよう!!!」
『幾つでっか?』
「一つでいいですぅ」
妊婦である朱蘭さま、大好きなビールをガマンしているのだ。
医者からは一日350CCまでと制限されている。
昼にもちょこっと飲んじゃったし・・・・・
ワタクシの分だけを注文し、そこから何口かを飲もうと言う作戦なのだ。
しかし、そこに突っ立ったまま動こうとしないウエイター。
「あのぉ・・・・ビールをひとつぅ・・・・・・」
見上げると、伊東四郎のようなウエイターが、ただただニヤニヤしながら我々を見下ろしている。
『お客はん、ホントに一つで良いんでっか?』
おおっ!!このオヤジ、昼飯の時の事を覚えていやがった!!!
昼飯の時も、同様な作戦でビールを一つだけ注文したのだ。
ところが、予想外のメシの美味さにガマンが出来ず、ソッコーで
「すいませぇん!!やっぱりもう一つぅ!!」
などといった出来事があったのだ。
『ビールの数は、ちょこっと食ってから決めた方が良いですねん』

イスラム教国であるモルジブでは、国民の飲酒は許されていない。
もちろん観光客である外国人がリゾートで飲む分には問題は無いが、ガイドブックによると、リゾートでも酒を扱うシゴトはスリランカ人が使われているとの事である。
この伊東四郎が何人なのかは判らないけれど、とにかくどのウエイターもひょうきんで明るいのだ。
家族連れの小さな子供をあやしたり、とにかくイロイロと見ているだけでも楽しそうである。

けっきょく3杯くらいのビールを飲み、夜の海をドーニに揺られて爽快な気分でコテージに戻る。
クーラーは付いているけれど、そんなものよりも自然の風の方が気持ちが良い。
開放された窓から見える夜空は薄く霞がかかっっているのか、満天の星と言うほどの事も無い。
東京よりは少しはマシといった程度の数の星空の中で、たいして星座を知っている訳も無いワタクシにも判るオリオン座が堂々と居座っている。
南国気分に浸っているとは言え今は1月、夜空の盟主がオリオンである事に変わりは無い。
しかしその位置は、日本で見るのと違って殆ど頭上に近い。
そんな高い位置からでは、さすがのオリオンであっても、リゾートでの始めての夜を過ごす我々夫婦の様子を覗き見る事は出来ないのであった。


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