ぱぱ道その4(携帯版)


白熊のような院長が眉間にシワを寄せ、何か言いたげに口をパクパクしているではないか。
「ご主人、ちょっと別室に・・・・」
またまた追い出されるのかと思いきや、白熊院長に連れられてナースステーションのイスに座らされる。
「もうそろそろヤバいですよぉ。切っちゃいましょう。ささささ、ここの同意書にサインを!!」
「ちょ・ちょっと待ったぁ!!そりはカミさんに相談しなければ・・・」
「オクサマには説明しましたよぉ。さっき。」
「さ・さっきって・・・・いつのまにぃ!!」
「んじゃ、分娩室に戻って、もう一度話しましょうか」

【妻】
なるべくなら切りたくない私達夫婦への説明の中で、へその緒がからまってる子は統計的に活発な子供になる、などとフォローになってるようななってないような?話が出る。
それくらい、おなかの中で動き回ってるからだとか。
ま、ダンナと私の子が品行方正な良い子になるとは期待してないけど。

陣痛促進剤の点滴がただの電解水(?)に変えられ、陣痛の間隔は長くなるけど、自然の陣痛がもう来てるので痛みが波のようにやってくることには変わりなし。
あー、どうせ切るなら陣痛抑止剤打ってくれぇ~っ!

手術の準備が始まる。
手術なんてどんな種類のものでも「まな板の鯉」状態だけど、陣痛のせいで剃られようが脱がされようが羞恥心どころじゃなくて「ふうーっ、ふうーっ」と痛みを逃すのに忙しい。
麻酔その1を肩に、麻酔その2を腰に注射されてさすがに陣痛はなくなる。

【夫】
「じゃあ、手術の準備を始めますから、ご主人様は外へ・・・」
さすがに、手術の立会いは許されない。
もっとも、許されたって困る。

分娩室のドアが閉められる。
最後にチラっと見えた、横たわったままこちらを見ていた朱蘭さまの姿。
神様ぁ!!なんとか無事でお願いしますぅ。
祈るような気持ちで廊下に突っ立っていると、別の看護婦がイスを持ってきてくれる。
有り難い。
このまま立ってたらブッ倒れそうだ。
昨日の入院の際に見かけた、意識不明のままでベットに運ばれてきた妊婦さんのダンナが廊下を通り過ぎる。
どうやら昨日は、帝王切開の直後だったらしい。
その時の光景が蘇る。
ああ、朱蘭さまも、あんな泥人形のような姿で出てくるのね。
なんかセツないよう。


【妻】
青い布がかけられ、いよいよ執刀。
血にヨワい私は、目をかたく閉じてなるべく別のことを考える。
今、腹が切られて子宮が切られて…なんて考えただけで貧血おこしそう。
でも、切ってる感じが分かる。
朝ゴハン食べちゃってるせいか、吐き気がする。
間もなく、ぐにぐににゅるにゅる~っ、という内臓をえぐり出すような熱い強い痛みがあり、ふみゃあ、ふみゃあ、と猫の子の鳴き声…じゃなかった、我が子の泣き声が…!
その後掃除機のような音がしばらくして
「わぁ~、大きい。立派な男の子ですよー。お母さん、目あけて見て」
朦朧とする意識の中、声のする見ると、これが生まれたての赤ん坊かい、と思うほどコギレイな赤ん坊が…!
単なる親ばか?なだけじゃなく、やっぱり産道を通ってないと紫猿にはなりにくいようです。

その後私は意識を失い、病室に運ばれた記憶もなく、しばらくネムっておりました。
4時半に一度起きたらしいけどはっきり覚えてるのは7時頃?
ただネムっているだけの私の横でダンナがずっと付き添っててくれました。


【夫】
テレビなどでは廊下をウロウロするオトーチャンの姿が描かれてるけれど、実際には立ってられたもんじゃない。
手術はすぐに終わると聞いたけれど、なんとも長く感じられる時間をただただ過ごす。
「ふみゃあ!!」
おおっ、今の声は!!
分娩室のドアから看護婦さんが顔を出す。
「生まれましたよぉ!!男の子ですよぉ!!。赤ちゃんは、今キレイにしますからね。おかあさんは縫合があるからもう少し後でね。」


【妻】
結局生まれた子の体重は3636g。
だっこやら初乳やらどころじゃなく、まだワタクシは我が子を一目しか見ておりませぬ。
しかも局部とはいえ麻酔の効いた、朦朧とした中で。
朝からすっごい泣き方をしてる子が一人いるんだけど、声が聞こえるばかりでトイレにも行けない私は、あれがウチの子なんじゃなかろーか、母子同室になってからが大変そうだよう、と、何の根拠もないのに取り越し苦労しております。

あー、早く普通のゴハンが食べたい。
何か別の病気で入院している気分であります。


【夫】
全てが終わった。
長かった十月十日が終わったのです。
まもなく、泥人形と化した朱蘭さまが運び出されて来るだろう。
その様子は、昨日の妊婦さんの様子からも想像が出来る。
恐らく、しばらくは我が子を抱く事も出来ずに眠り続けるであろう朱蘭さま、そして、そんな母親の苦労も知らずに新生児室でクリクリふがふが過ごしている我が子・・・
そんな二人をシヤワセに出来なければ、どこに自分の存在価値がある!!
思わず心に誓う、新生パパなのであった。


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