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宴(うたげ)ジャック

いざ!入籍! (下仁田町役場)

プロローグ

 それは、散った桜の花の残骸がドブの中からも消え去る頃、ふとした会話の中から生まれた作戦だったのだ。

 下町のアパートと多摩のマンションを日替わりで行き来する男女、決して夫婦では無い。
嗜好や行動パターンが酷似しているとは言え、兄弟と言う訳でもない。
「半同棲」などと言う言葉は妙にコッパズカシく、まあとにかく、ヘンなの二人が西に東に移動しながら一緒に住んでいた訳なのだけれど・・

女「ねぇ、6月に大勢集まるキャンプがあるんだって?」
男「うん、豊田組系の。旅先で出会ったライダーをみんな呼んじゃって、交流を深めようって主旨のがね。」
女「それってどこでやるの?」
男「長野県の内山牧場キャンプ場だってさ。」
女「ふ〜ん・・・」
この時、女の脳裏には何かひらめきが走ったようだ…

女「ねえねえ!その日の朝に入籍して、キャンプ場で発表しちゃうってのはどう?みんな驚くよ!!!」
男「アッタマイイ!!そ・そりは面白い!!どうせならキャンプ参加者の前で婚姻届を書いて、誰かに証人になってもらって、次の日にキャンプ場の近くの役場に提出しちゃうってのは??」
女「そうしよう!そうしよう!あなたこそアッタマイイ!!!」
男「そ・そうかなぁ!デヘヘヘヘヘヘ・・・」
 アタマイイどころか、世間様から見れば、何ともアタマワルイ会話である事か!!
そんな二人によって、「宴会乗っ取り突発結婚発表作戦 IN内山牧場」の幕が切って落とされたのであった。


危機数髪!!!

 発表をドラマチックにする為には、事前にバレてしまっては面白く無い。
もちろん、2人の関係も隠さなければならないのだ。
これが意外とツラい!!
喉まで出掛かったセリフを押さえながら、入籍決行の日を心待ちに指折り数えて待つ男・ひま!!!
「バレないように気をつけなきゃダメよ!!」
などと注意しながら、自分は身近な非バイク系の人々にノロケまくる女・朱蘭!!!
しかし、ピンチは有ったのだ。

その1

 4月の日帰りツーリング。
集合場所に近い朱蘭邸から出発・帰還した際に、ミエミエに自宅とは全く違う場所(朱蘭邸近く)で消える所を、H氏に目撃される。

その2

 二人で参加した突発飲み会。
酔っ払いながらも何とか二人の関係を隠し通したものの、ひま、店を出て駅に着いた安心感から一気にぶっ飛ぶ。
フツーなら乗る方向が全然違う(家の方向が逆)朱蘭に向かって
「こっちだぁ!!!」
などと叫んで、下町目指して一緒に帰る所をJ氏に目撃される。
その夜、探り(?)のデンワが次々とかかってくる。

その3

 GW、ひま:九州、朱蘭:中国を走る。
帰りは一緒に門司→東京フェリーに乗船予定。
ひま、九州内あちこちのキャンプ場で遭遇する「豊田組」や「チームぽっぽや」の面々からの
「なぜ門司に行くの?」
といった質問に、
「博多に寄りたいから」「陸送で帰る」「予約の権利を貰った」「大坂行きに乗る」
などなど、相手によってイイワケがバラバラ!!
こりもミエミエだったのです。

その4

 そのフェリーで乗り合わせた面々と宴会。
「豊田組系」「チームぽっぽや系」のライダーは誰も居なく、ここでは安心して朱蘭を「婚約者」と紹介したところ・・・・
『ツーリングライダー300人説』は生きていたぁ!!次々と共通の知人の存在が明るみに!!人づてにバレてしまう恐れがぁ!!!!


決行の朝

 目撃者達がアタマワルイのか、我々がどうにかなろうとも世間様は無関心だったのか、結局バレる事も無く(?)当日の朝を迎える。
ひまTW・朱蘭ジェベル、2台揃って出発だぁぁ!!!
と言いたい所だけれど・・・・・
朝から激雨なのであった。
「どうする?」
「一緒にクルマで行く?」
「それってブリブリ怪しまれない?」
「・・・・・・」
議論時間わずか2分で、結局クルマで行く事に。
カッパを着ないで済むなんて、こんなシヤワセは捨て置けないのだ!!
 いきなり、ひま携帯が鳴る!!
今回のキャンプの主催者・豊田組組長からだ!!
「どうするの?ほとんどの人はクルマで行くって言ってるけど」
「そ・そうですか。ワタクシはバイクで行きますよぉ!!」
思わずウソをつく。
そこへ再びデンワ!今度はネリからだ!!
「どうするのぉ?」
「も・もちろんバイクで・・・」
「ウッソォ!!峰部長に乗せてってもらえばぁ?」
間髪入れずにまたまたデンワ!!ああ忙しい。
今度は問題の峰部長だぁ!
「どうする?クルマ出すけど乗ってく?」
何が問題って?実は前夜から朱蘭邸に居るのだ。
迎えに来られたらバレバレだぁ!!
「峰部長!クルマなんてとんでもない!当然バイクで行きますよ!!」
後先を考えない嘘である。
(この一言で、峰部長がクルマからバイクに切り替えてしまった事を、後に知る事となる。ゴメンネ・・)


そして出発!!

 昼過ぎ。
朱蘭号(カリブ)に乗込み、いざ出発!!。
準備は万全なのだ。

参考:婚姻届は、現住所や新しく本籍地に定める場所とは無関係に、全国どこの市町村役場に提出しても良いのだ。
しかも年中無休の24時間受付。
我々が提出しようとしているのは、内山牧場から至近の「下仁田町役場」なのであった。
婚姻届には本人達の署名の他に、2名の成人による「証人の署名・捺印」が必用なのである。
証人は誰でも良く(通り掛かりの知らないおぢさんでも可)、我々はキャンプ参加のどなたかに依頼するツモリであった。
ただしキャンプにハンコ持参のシトは殆ど居ないだろうから、確実に参加しそうな人々の名前のハンコを、100円ショップで20本程買って来ているのだ。

 R16を走って関越道を目指す。
そこへ朱蘭の携帯にデンワ!!
くぬぎPapaからだ!
「朱蘭、いまどこぉ?」
「まだ16号を走っているところ」
「ふぅん、遅いねぇ。メシの買い出しとかどうする?一緒にやる?」
「うん。じゃ、お願い」
「了解!。ところで、ひまアニイだけ連絡が取れないんだよ。」
「・・・・・・」

 どのみちキャンプ場に着けば、一緒にクルマに乗って来たのはバレるのである。
ヘタに隠して怪しまれるよりは、今のうちに白状してしまおう。
Papa携帯にデンワ。
「おおっ!ひまアニイ!!いまどこぉ?」
「じゅ・16号を走ってるところ」
TWでは走行中にデンワ出来る訳も無く、車内に響き渡っているBGMは同じ曲。
んもぉバレバレ!!
「え〜っ?16号?それじゃ近くを朱蘭が走っているハズだよぉ!連絡とってみればぁ!」
気合いを入れてイイワケを考えていたのにぃ!
何かガックリ・・・

#考え出した、苦しいイイワケ:
「自宅をTWで出て関越を目指している途中、朱蘭からお誘いのデンワがかかって来て、思わず誘惑に負けて朱蘭邸に向う。そこからクルマに便乗」


雨の内山牧場

 下仁田の町でルービなどを買い、下仁田町役場の位置も確認。
あとはキャンプ場を目指すのみ。
「この天気だし、あまり参加者が居なかったら・・・」
「発表しても、誰も反応してくれなかったら・・・」
「タイミングを逸し、発表出来ないままコッソリ入籍じゃ寂しいね・・・」
などなど、口々に不安を語り合いながらも、遂に内山牧場に到着!!!
おおっ!
クルマやらバイクやらで集まってきた面々、50人以上も居るではないかぁ!!
「な・なんだ!オマエら!!」
「おいっ!いつからTWは4輪になったんだ!!」
四方八方から到着をねぎらわれ(?)ながらも、まずは一安心。
「ジェベル+TWだから4輪でいいんでしょ?」
などとボケながらも、二人の関係を追及される気配は全く感じられない。
これも一安心。
 しかし、ワナワナと怒りを抑えながら鋭い視線を送ってくる、まだカッパを着たまま仁王立ちになっている峰部長の姿が・・・・


 50人を超えるキャンプである。
これだけの人数になると一つの輪になるのは難しく、幾つかのグループに別れてしまうのは必至である。
既にあちこちで炊事の輪が出来ている。
これでは、全員に一斉に発表するには都合が悪い!どうしよう!
 などと思いながらも、ひまは「いけいけ団」系・朱蘭は「チームぽっぽや」系の輪の中にそれぞれ別れて侵入し、アツアツがバレないように万全を期す。
 しかし、我々に雨が味方したのだ。
まとわりつく様な霧雨を嫌い、調理を終えた面々が次々と30人用巨大バンガローに集結して来たのだ!!
そして全員が収納された頃、
「せっかくだからさぁ、一人一人自己紹介しようよ!!」
おおっ!
何とも予期せぬ、そしてアリガタイ提案!!
自分の番になったら、そこで発表してしまえば良いのだ!!!!
図らずも、我々二人にとっては最良のお膳立てが整った!!

 何も知らない豊田組長の御挨拶を皮切りに、自己紹介が開始される。
いよいよ宴(うたげ)ジャック決行の時が、刻一刻と迫り来るのであった。


カウントダウン

 自己紹介が始まる。
バンガローの入口側に居た人から時計周りに一人ずつ起立し、
「○○から来ました△△です。バイクは□□に乗ってます」
のような挨拶が続く。
ウケ狙い的な自己紹介には適度な笑いも出て、場の雰囲気は悪くは無い。
全体の1/4程経過したあたりで、朱蘭の番になる。
「東京から来ました、朱蘭でござい〜!!『酒乱』ぢゃ無いので、『しゅ』にアクセントを置くように!!(後略)」
う〜む、さすが我が妻になるシト!!
ソツの無い、立派な御挨拶ではないか!!
程よいツッコミも入ったりしながら、観客(?)の雰囲気も益々良好なのだ。

 5人ほど置くと、ワタクシの番になる。
ここで発表か?
でも、まだまだ半数以上の人は自己紹介が済んでいない。
そっと朱蘭を見やると、小刻みに首を横に振り
「おあずけ!」
のサイン。
仕方が無いので、
「よぉしっ!!次、○○!!」「OK!!次は△△ちゃん!!」
などと勝手に順番を仕切り、巧みに自分を後回しにする。
 全員終ったら、いよいよ・・
焦りと緊張から気が動転し、まだ終っていない人が居るのにもかかわらず
「これで全員だよね?」
を連発!!我ながらマヌケなオタオタっぷり!!
怪しまれなかったのが幸いとしか言い様が無い。

 そんなこんなのうちに、遂に自己紹介が一回り。本来ならトリを勤めるハズであった(?)K山商会の自己紹介に引き続き、満を持していた割りにはヨタヨタと見苦しく立ち上がる。
妻になる朱蘭の堂々としていた立ち振る舞いに比べたら、こちらはいささか頼りないのであった。


発表!!!

「え〜、途中まではTWで来ましたぁ・・」
ややウケ。
ツカミはまずまずOK!!
よぉしっ。
この流れで一気に行くぞぉ!!
「実はワタクシ、結婚する事になりましたぁ!!!」
(シーン……)
ま・全く反応が無いっ!!!
こ・こりはいったい!!!
 予定していたセリフ、『相手は皆様も知っている人です』を省略し、一気に勝負に出なければ!!!
「結婚相手は、今日ここに来ています!!!」
(ちょこっとザワザワ)
ヤ・ヤバイ!!
このヒキかたは何だ!!
ギャグかと思われているのかしらん?
と・とにかく続けなければ!!
「妻!!スタンドアップ プリーズ!!!」
それでも場は盛り上らず、目の前に居た男が面白がって二人程立ちあがる始末。
何かつまらないギャグが始まったぞぉ?といった空気を一掃するが如く、スクッと起立する朱蘭。
(ザワザワザワ!!!!)
ここで始めて、大きなどよめきが起こる。
き・きたぁぁぁ!!!!
ここぞとばかりに、密かに用意していた婚姻届を取り出して、公衆の面前に晒す。
「マ・マジィ?」
「ホントかよぉ!!!」
「ウッソォ!!!」
 やっとの事で驚きのるつぼと化した、雨の内山牧場・山小屋風巨大バンガローなのであった。


乾杯!!!

 引き続き、婚姻届の証人になって頂く2名の選出。
白いコンビニ袋に入れられた20本ほどのハンコの中から、豊田組長が2本を抽選する事に。
まずは"いそび"、そして"ぽっぽや"のハンコが引き当てられる。
 既婚者であり、当然婚姻届も経験している"いそび氏(夫)"が落ち着き払っているのに比べ、
「オ・オレなんかが証人になっちゃって良いのかよぉ!!!」
オロオロする"ぽっぽや"……・
全然良いのである。
良いどころか、最適な組み合わせなのだ。

 96年のGW、椎葉林道で"いそび氏(夫。当時は独身)"と出会った事が"豊田組"との関わりのキッカケであったし、99年のGWにフェリーで出会い、お互いの名前も知らずに別れた朱蘭と図らずも再会したのは、"ぽっぽや"主催のキャンプなのであった。
この二人のどちらか一方との出会いが欠けても、我々は"夫婦"という今日の日を迎える事が出来なかった可能性が極めて高いのだ。
偶然とは言え、何とも「運命」と言う言葉を意識する出来事であった。

 すっかり完成した婚姻届を掲げ、そのあとは皆様からの祝!祝!祝!!!!
ありがたい事です。
 祝福された喜びと、もうヒミツでは無くなった開放感から、んもぉ舞い上がりっぱなし!!!!
お約束の"チュー"などもハズカシげも無くこなし(見ているほうがコッパズカシかったそうで…)、ワインによる三三九度のあたりから記憶が朦朧とし始めて、後はただのシヤワセなヨッパライと化す。
 後日、皆様が撮影した写真を見ると…・
そこには、見苦しいばかりのアツアツ・新生BAKA夫婦(この時点では、正式にはまだ夫婦では無い)の実態が次から次へと、動かぬ証拠として写し出されているのであった。


クズ前式

 翌朝、いよいよ婚姻届提出の日なのだ。
しかし、まだ安心は出来ない。
どこかの男(可能性は低いけど女)が
「ちょっと待ったぁ!!!!」
などと叫びながら現れて婚姻届を奪い取り、びりびりに破かれてしまう恐れだって考えられるのだ。
そうなったら一からやり直しになってしまうし、妻(まさか有り得ないけど夫)自体が連れ去られてしまっては一大事!!
んもぉ目も当てられない!!!
その様な事にならないように、オトリのニセ婚姻届を作成し…
んなアホな事はやっていられないので、素早く役所に提出しなければならない。
朝からルービなどを飲んでいるバヤイでは無いのだ!!!
とは言う物の体は正直で、ついつい…

 どうにか撤収が完了し、下仁田町役場を目指す。
まさか前記のような魂胆の男(一人ぐらいは居たっていいじゃん!!な、女)が、隙を狙って追尾して来てはいないか後方をチェックすると……
き・来ているぅ!!!!
しかも大勢だぁぁ!!!
こ・こりは一体!!!
それは、我々の婚姻届提出を見届ける為に、わざわざ一緒に来てくれる面々であった。

 朱蘭号(カリブ)を先頭に、まるで大名行列(または、ゾクの集会)の様に連なったクルマ&バイク。
怒涛の如く、一列になって下仁田町役場に入り込む。
正面玄関前で、まずは全員で記念撮影。
自分が中心に座っているのもこっぱずかしく、でも今日は主役なのだと言い聞かせながら、ワナワナと婚姻届を掲げる。
撮影も終り、そのまま役場の玄関に入ろうとすると
「ちょっと待て!!」
の掛け声!!!
つ・遂に来たか!と、手に持った婚姻届をシッカリと握り締めるが、そういう事では無かった。
参列者全員で左右に別れて並び、アーチを作ってくれたのだ。
ギターによるBGMが奏でられ(はっちょり氏。彼は宴会系キャンプにはギターを持参するミュージシャンなのだ)、大勢の祝福の中を朱蘭と腕を組みながら進む。
そして豊田組長に背中を押されて役場の中に。
いよいよなのだ!!

 今日は日曜日、当然ながら役場は休みなのである。
照明が落とされていて薄暗く、閑散としたロビーにドヤドヤと入り込むと
「な・なんなのよぉ!あんたたちぃ!!」
と言った感じで、係りのおねえちゃんが慌てて飛び出してくる。
「あのぉ、婚姻届を…・・」
全ての事態を察したねえちゃん。
それはそれはと照明を全てつけてくれ、カウンターの中に入って構えてくれる。
大勢の良き仲間達(くず達)が見守る中、フラッシュの光を浴びながら無事に届けを提出!!!!
嗚呼!これで我々は夫婦なのだ!!
イイカゲンな事では済まされないのだ!!

 今までの人生の中で一番こっぱずかしく、そして一番嬉しい瞬間なのであった。


エピローグ

 いつのまにか後ろに缶カラをつけられた朱蘭カリブに乗り、皆に見送られながら帰路につく。
関越道を走りながら、昨日からの出来事が走馬灯のように蘇ってくる。
世間様から見れば、何とも不真面目な行動に写るかもしれない。
でも、我々二人には一番お似合いの、そして一番ふさわしい皆様に見届けられて夫婦になってしまったのだ。
 そうか、夫婦になったんだなぁ。
昨日は同じ道を来たのだけれど、それは恋人どおしとして。
今日からは夫婦、長い長ぁい道程を一緒に走って行かねばならないのだ。

 内山牧場キャンプに参加された皆様、改めて御礼申し上げます。
本来のキャンプの目的を強引にねじまげてしまったけれど、それでも暖かく祝福してくれた仲間達。
その温情に答える為にも、いつまでもシヤワセであり続ける事を誓い合いながら、雨上がりの道をひた走る、新生・BAKA夫婦なのであった。

シヤワセになりますです

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