てっちゃん北へ(1996~7年末年始・襟裳岬)その2(携帯版)


大晦日の襟裳岬。
雪は殆ど無いけれど、凍るような強風に晒され続けている。
5分と居られる状況では無く、そそくさとYHに逃げ込む。
ここのYH、礼文の桃岩荘と共に、いわゆるキチガイYHと評されただけの事はある。
夕暮れと共にバカ騒ぎが始まり、飲めや歌えや踊れや・・
んもぉ手の付けようの無い状態!
「落陽」やら「岬巡り」やら、年越しのカウントダウンを挟んで延々と続くのだが・・・・
こういう騒ぎがメシより好きな鉄ちゃんオヤジ、全く元気が無いのだ。
フェリーで死ぬほど船酔いし、そのアオリでどうやら陸酔い状態らしく、ロクにメシも食えないのだ。
「メシより好き」という表現は、メシが食えて始めて成り立つのが正解らしい。


明けて97年の元日。
相変わらず風は冷たいけど空は快晴である。
コタツでグッタリしているオヤジを誘う。
「そこいらに遊びに行こうよ」
「どこに?。足も何も無いのに?。外は寒いし・・」
何を言うか!!足は自分のが有るのである。
だいいち、YHに閉じ篭っていても面白くないどころか、襟裳くんだりまで来た意味が無い。
オヤジを中心とするてっちゃんチームは、ベッド部屋に集まって時刻表を手に手に輪を作り、明日以降の行動計画を話し合っている。
何も昼間っからそんな事を、だいいち開いてるページが九州なのはどういう事か!!

付き合って居られないので、ライダー3人で散歩に出る事にする。
しかし足が無いのはオヤジ指摘の事実であり、相談するまでも無く、再び襟裳岬に足が向かう。
「寒いなぁ」「ああ」
交わす言葉もボキャブラリーに乏しく、ブラブラと百人浜に向かう。
この百人浜、海流の関係だかで色々な物が打ち上げられるそうで、一晩で100人のドザエモンが上がったとの言い伝えも有る。
この浜にあるキャンプ場もイワクありげで、キッチリとユーレイ話も用意されているのだ。
深夜、誰かがテントの周りをグルグルと歩いている気配がして、翌朝、その足跡は海から来て海に帰っているなどという、比較的お馴染みの話だったりする。

ここに打ち上げられるドザエモン以外のものに、見事に蝶の形をした貝殻がある。
岬の売店やYHなどで300円くらいで売っているのだけれど、どうしたことか、今日は大量に砂浜に散りばめられているではないか!!
「こりは商売できるぞぉ!!」
などと、焚き火を起こして基地を構えて拾いまくる。


宿に帰ると、オヤジを中心にした鉄ちゃん軍団は、まだ時刻表を囲んでいた。
デロデロな船酔いに懲りたオヤジは予約していたフェリーをキャンセルし、東北を回ってJRで帰るようだ。
わざわざ襟裳まで来て、とうとう一日中時刻表とにらめっこ。
思い切りツマラなそうだけど、鉄ちゃんにとっては、それはそれで楽しいそうである。
元日の晩は、YH主催の大宴会となった。
カニを中心とする海の幸がフンダンに振舞われ・・・・・
といってもキッチリと別料金だったりするものの、それでもリーズナブルなゴチソウである。
桃岩と違うのは、ふんだんに酒が振る舞われている事で、コレはアリガタイ。
オヤジは相変わらず体調不良だとかで、早々に寝てしまったようだ。


そして二日の朝。
目を覚ますと、既にオヤジ一行の姿は無い。
ワタクシを除く全員は、早朝から様似方面に戻っていったのだ。
ワタクシは今日の飛行機で帰る予定なので、昼前のバスで帯広方面を一人で目指す。
おんやぁ?
コタツのある大部屋に行くと、同宿者達の目が異常に冷たいではないか!!!
話し掛けてもロクに相手にされないのだ。
イキナリ村八分にされているのはなじぇ???
一人がコッソリ教えてくれる。
どうやら昨晩、ワタクシも寝た後に、オヤジが宴会場に「ウルサイ!!」などと怒鳴り込んだらしい。
仕方なく、皆は氷点下の屋外に移動したものの、思い切りしらけてしまったそうな。
ワタクシもオヤジの一味とみなされ、嫌われてしまったらしい。

誰に見送られる事も無く、たった一人でYHを出てバスに乗る。
波に洗われる黄金道路を北上し、やがて海岸線から離れた途端・・・
まるで境界線でも越えたように、黒々としたアスファルトが一気に圧雪路に変わる。
あたりも完全な雪景色!!
国境のトンネルを越えた訳でも無いのに、驚くほどの急変であった。

広尾でバスを乗り換え、帯広行きのバスに。
このバスは空港を経由せず、なるべく空港寄りのタクシー会社の近くで降ろしてくれるように運ちゃんに頼む。
大正あたりのバス停も無い場所でバスは止まり、運ちゃんが差し示す所に小さなタクシー会社があった。
いわゆるフツーのタクシー車両は一台もおらず、事務所も無人である。
ショベルカーで構内を除雪しているオッチャンに声をかけると
「空港?いいよ。ちょっと待ってて」
冷え切った事務所で待たされる事しばし、先程の雪かきオッチャンが現れる。
「おまちどぉ!!どぉぞぉ!!」
出てきたクルマはミニバンで、それでいてキッチリと料金メーターが付いている。
運転するのは、先ほどの雪かきオッチャン。

まるで大雪原の様な滑走路を飛び立ち、一眠りしているうちに着いてしまった羽田。
当然、雪のユの字も見当たらない。
鉄ちゃんオヤジに引きずり回された日々はまるでマボロシだったような感覚さえも抱きながら・・・
雪かきオッチャンなら泡を吹いてしまう様なトロトロ渋滞の中を、リムジンバスはイモムシ走行を繰り返すのであった。


その1へ
バイク以外の旅へ

「週末の放浪者」携帯版TOPへ

「週末の放浪者」PC版