うすくちアジア(1984秋・香港)その2(携帯版)
3人で手分けして、かたっぱしからレコードを引っ張り出して調べます。
「おいっ!オマエら、いったい何をはじめたのじゃぁ!!」
事情が判らない店員がオロオロと両手を振りながら慌てていますが、そんな事お構いなしなのです。
なんたって、インド守衛なんか居ないのです。
「あ!!あった!!!」
遂に発見しました。明らかにアグネスづらです。
名前は、『陳美玲』となっておりました。
我々は、陳美玲のレコードやらカセットやらを手に手に持って、店のレジに向かいます。
ワタクシは、カセットテープを二つ買いました。
我々が上客だと理解した店員は、安心したのかニッコリとバカ笑みます。
しかし、これで済まないのが華僑パワーなのです。
「お客さん、陳美玲をお探しだったのれすね、お目が高い!! 」
店員は、そんな雰囲気の事を大声でまくし立てながら、いそいそと店の奥に消えて行きました。
そして、大量のレコードやらカセットやらをわしづかみにして戻って参ります。
「ホレ、ホレ、じぇぇんぶ、陳美玲ですねん。買っとくれよう!!」
レジの机の上に山積にされた陳美玲。
ところが、殆どの陳美玲がアグネスチャンでは無いのです。
全くの別人なのです。
こんな事が許されていいのか?
そして、またまた現在。
前出の中国人に、この話をしてみました。
中国では、こんな事はあるのかと尋ねると、彼は迷わず
「あります。いくらでもあります。」
と、微笑むのでした。
またまた香港に戻ります。
アジア的にはどこでもそうなのでしょうが、香港にも、キッチリとインチキ商売が蔓延ってました。
ペラ紙か3つ折り位のチンケな観光パンフレットみたいなモノを勝手に手渡してきて、うっかり受け取るとゼニを要求してくるのです。
こんなのが、主だった観光スポットにウジャウジャいました。
タイガーバームガーデンにて。
ここにもパンフ売りが大勢出没し、協力会社のクラモチ君が餌食になりました。
何も知らずに受け取ってしまったクラモチ君に対し、
「しぇんえん!しぇんえん!(千円の意味)」
と、キョーレツに迫るのです。
「い、いりません・・・」
などとパンフを返そうとしても受け取ろうとせず、あちこちから仲間が集まって来てクラモチ君を取り囲み、口々に叫ぶのです。
「しぇんえん!しぇんえん!」
「しょうぱい!しょうぱい!(商売の意味?)」
遂にクラモチ君は観念し、香港ドルが入った封筒を取り出します。
しかし、悪人の目の前で札びらを切るような事をしたのが間違いでした。
彼を取り囲んでいたパンフ売りどもの手が次々と伸びてきて、あっという間に封筒の中の札を抜き取られてしまったのです。
ほとんど全滅に近い状態だったようでした。
蜘蛛の子を散らすようにパンフ売りどもは逃げ去り、残されたクラモチ君の直立不動な姿を、南国の強烈な日差しが容赦なく照りつけるのでした。
インチキ商売はパンフだけではありません。たとえば・・・
ニポンでは駄菓子屋などで売ってる、魚の形の金色のキーホルダー
(左右にクネクネ動くやつ。ボール紙に5個くらいずつぶら下ってる。)
なんかを振りかざし
「しぇんえん!ジュンキン!ジュンキン!(純金の意味らしい)」
などとにじり寄って来るのです。
とにかく、なんでも「しぇんえん」なのが共通しているのです。
水上レストランでキッチリと飲みすぎ、フラフラと店を出たワタクシを待ち受けていたのは、扇子売りのオバチャンでした。
「しぇんえん!3本、しぇんえん!」
竹細工の扇子で、なにやら香水の匂いが付けられております。
何気に中華チックなのですが、所詮はインチキ臭いシロモノなのです。
そんなの買う気が無いワタクシですが、酔ったイキオイで冷やかします。
「3本しぇんえん?ノー。10本で千円でどうだ!!」
オバチャンは簡単には引き下がりません。
「さんぼん!さんぼん!しぇんえん!!」
「ノー!!10本!!」
「あいやぁ。よんほん、よんほん、しぇんえん!」
オバチャンは、ニポン語の数字が判る様子でした。
「ダメダメ。10本!」
「ごほん、ごほん、んもぉ、ろっぽん!!」
「あぁ?そんな小出しにケチるなら、15本で千円じゃなきゃ買わない」
コッチも、酔ってるのでメチャクチャです。
その時、それまでシオカラ目だったオバチャンが、まるでブッチャーの様なギョロ目に豹変し、ワタクシをにらみ付けたのです。
マジで、「キッ!!」と音がした気がする程でした。
「おっ、なんだなんだ!」
といった感じで、ワタクシは地獄突きに備えて身構えると、オバチャンは広東語(?)で何やら叫ぶのです。
「えぇいっ!このビンボー人め。くそったれ。うりゃ!うりゃ!」
おそらく、そんな内容だったのでしょう。
オバチャンは、アジアン中華街御用達のピンク色のコンビニ袋を取り出すと、掛け声を上げながらボンボンと扇子を投げ入れ、そしてワタクシの目の前に突き出してきました。
「これで文句あるなら、ニポンになんか帰るな!!インドにでも住め!」
そんな雰囲気の悪態をつきながら渡された袋には、大小、9本の扇子が入ってました。
大きく肩で息をしながら、尚もメンチを切り続けるオバチャンに、ワタクシは千円を手渡すしかありませんでした。
「ん~、気に入った。いやぁ、良い買い物したなぁ」
などと曖昧に笑いながら握手を求めるワタクシ。
オバチャンはそれには応じず、相変わらず眉間にシワを寄せながらも、業務的に3秒ほど白い歯を見せたのでした。
この扇子、帰国後に、どうでも良い相手に配るオミヤゲとしては最適でした。
勝負に負けて、試合に勝ったといったところでしょうか。
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