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南国ワーク(2000夏・シンガポール)・後編

コレがビザでございます

 待望の17:30、A社側の担当者、ミスター・ワンがやってくる。
『今日は何時まで働くんでっか?そろそろ帰りまひょ!!』
彼は定時退社が大好きなのだ。
ワタクシを帰さなければ自分も帰れないので、毎日終業ブザー並みの正確さで現れる。
言われなくたって今日はソッコー!!
社長様が待っている!!
 いつも追い出すようにロビーまで見送ってくれるミスター・ワン。
しかし今日は追い出されては困る。
「今日は見送りは良いです。ちょっと人と会う予定が…」
『人と会う?誰とでっか?』
「ミスターBと。」
『ミスターB?それはウチの社長ですねん!!!勝手に会う事なんか出来まへん!!』
「そ・そうですよぉ!でも、メシを食わせてくれるって約束が・・」
『な・なじぇ?アンタ!!社長のトモダチでっか???』
全く信用出来ない素振りながら、社長室まで送ってくれるミスター・ワン。
ノックをすると
「おおっ、来たかぁ!!まあ、座れっ。悪いっ、6時まで待ってくれ!!」
「判りましたぁ。それじゃ社員食堂で待ってますぅ。」
社長室に一歩も入ろうとせず、オロオロと見守っていたミズター・ワン。
信用せざるを得なくなった途端に態度が変わる。
『ろ・6時じゃ時間が有り過ぎでっしゃろ?食堂でコーヒーでもおごりまっせぇ!!』

 6時になりロビーに出向く。
正面玄関の前には、車種も判らないようなリムジンが待ち構えているではないか!!!
そこへ社長が登場。
「ゴメン!!待ったか?。じゃあクルマに乗ってくれ。」
運転席に座っていた中華系の男、昆虫の様な素早さで降りて来てトランクを開け、社長のカバンとワタクシのコキタナいデイパックを丁寧に仕舞い込む。
そしてドアを開けて深々とアタマを下げる。
な・なんかコッチが恐縮しちゃうよう!!!
クルマは問題の守衛所の前に。
「あ・あのぉ・・ビジターカードを返さなければ・・」
「そんなのソーさん(運転手)にやらせればいいんだ!!。ソーさん、宜しく!」
クルマを止め、やはり昆虫の様な素早さでカードを返しに行くソーさん。
直立不動で受け取る守衛。
こちらもオドオドしてしまって、もうネームカード君どころでは無い。
 結局、ロクに守衛の顔も見る事が出来ないまま・・・・
クルマは、夕方などとはとても思えない暑苦しげな街中に向けて走り出すのであった。


 高層ビルが立ち並び、シンガポール1の繁華街であるオーチャード。
その一角のビルの前にクルマは乗り付けられる。
「じゃあソーさん、8時ね。」
社長に続いて焼き鳥屋に入る。
日本ならどこにでも有りそうなフツーの焼き鳥屋っぽい造りだけれど、日本人マスターと社長の会話からすると、日系企業のお偉いさん達のサロンの様な使われ方をしている店らしい。
「オマエ、新婚早々の出張なんだってな。」
「ハ・ハイ・・」
「だからこそ、こうして連れて来てやったんだぞ!!あまり他のヤツには言うなよ。誰にでもゴチソウしてやれる立場じゃ無いんだからな!!」
そうは言いつつも、なんとも気さくな社長様なのだ。
いきなり携帯を取り出し、
「おいっ!オマエの家の電話番号を言え!!オレが新妻を慰めてやる。ちゃんとダンナを返してやるってな!!」

 8時キッカリに店をでると、いつのまにかクルマが横付けされている。
外でタバコを吸っていたソウさん、社長の姿を発見すると、慌ててタバコの火を消してドアを開ける。
くどいようだけど、相変わらずの昆虫動きなのであった。
「ホテルまで送ってやれ!!」
アリガタやぁ!!!。
南国チックなネオン街を走り抜け、怪しい中華街風の横を通る。
表のテラスで麺類を食ってる連中が貧しく見えちゃったりしながら、やがてクルマはホテルに接近する。
たしか正面玄関に乗り付けるには有料ゲートが有るはずである。
「こ・ここで降りますよぉ!」
「いいんだ!彼にまかせとけ!」
ゲートの前に立っていた係員に対し、なにやら叱り付ける様に叫ぶソウさん。
アッサリとゲートが開けられる。
そしてクルマは玄関前に。
ん〜!!最後までお大尽気分!!!


 金曜日の朝。
今日で仕事は終り!!
しかも午前中の打ち合わせだけなのだ。
ホントは土曜日までシゴトで、その日の深夜便で帰国する予定だったけど、頑張って一日縮めたのだ。
 11時、ミスター・ワンとの打ち合わせもアッサリと終了!!やったぁ!!。
喜んでいるのはワタクシだけではない。
定時退社大好きなミスター・ワン、土曜日の出勤が回避された事を大喜び!!!
『これで終りですねん!!飛行機は明日の深夜でっしゃろ?それまでユックリとシンガポール見物でもやりなはれ!!』
「と・とんでもない!!一日でも早く帰りたいよう!!」
そうなのだ。
なにしろ、こちとら新婚さんなのだ。
早く妻の顔が見たいのだ。
こっぱずかしいけど、事実だから仕方あるまい。
『そうでっか?残念でんなぁ。ほな、こうしまひょ!ワテが、航空券を今日の深夜便に変更しときまっせぇ』
そ・そりは有り難い!!
なにしろ、どうしたものか考え込んでいたところなのだ。
どこかにデンワをするミスター・ワン、そして
『一旦ワテがアンさんの航空券を預かりま!!変更した航空券は、今日の14時から15時の間に、ホテルにとどけさせますねん。』


 夜までホテルでゴロゴロしていてもヒマである。
ようしっ!!妻へのミヤゲでも物色しに街に出よう!!
 日系デパートなどもウジャウジャあるけれども、その様な所で買い物をしてもつまらない。
何しろブランド物などには全く興味を示さないカミさんなのだ。
全く実用的な物か、ウケを狙える物を探すのだ!!!
チャイナタウンなら色々と怪しげな物がありそうだけど、そこは前にも行った事があるし・・・
そうだ!!リトルインドに行ってみよう!!
ついでに、本場の味のカレーなども食っちゃうのだ!!!
 リトルインドの近くには地下鉄の駅が無く、バスは行き先が書いてないのでサッパリ判らない(系統番号だけなのだ)。
まあ、たかだか3Km位、炎天下の中をひたすら歩く。
シンガポールの交差点は、歩行者信号だけがメチャクチャ短い!!
同方向のクルマ用信号が延々と青だと言うのに、歩行者用はあっという間に点滅してしまうのだ。
従って現地人共々、信号無視のオンパレード。
そんなこんなのうちに、歩く人々の衣装のインド化率が高まってくる。


 街中に怪しい香りが立ち込め始め、リトルインドに到着。
アジアの街と言うと「自転車がウジャウジャ」という先入観があったけど、シンガポールの街では殆ど見掛けなかった。
しかし、ここには健在だ!!
前が2輪の3輪車など、ヘンなのが走り回っている。
早速オミヤゲになるものを・・・・
と思ったけれど、う〜む。
 色とりどりのサリーの店が建ち並んでいるけれど、これは好みやサイズが難しい。
あとはインド風置物や生活必需品の店ばかり。
そして貴金属店が固まっている。
貴金属店と言えば、ニポンなら必要以上に高級イメージを醸し出そうとするのだろうけど、こちらではヒマそうな店員がお宝一杯のショーケースに突っ伏して寝ていたりする。
これといった物も発見出来ないまま、それじゃカレーを食うか・・・・
それらしい店はいくつか有るものの、正直、これがとても入りづらい雰囲気!!!
 まず、強烈なニオイがお出迎え!!
そして一斉に注がれるインド人の眼差し!!
そしてトドメは・・
ご想像通り、客はみんな手掴みで食べているのだ!!
こりはちょっとマネが出来ないよう!!

 インドミヤゲを諦らめ、次はアラブストリートに。
ここからおよそ1〜2Km位だろうか、やはり炎天下の徒歩移動。
 こちらは何の前触れも無くいきなりアラブ化し、絨毯・スカーフ・竹細工の店がズラリと建ち並ぶ。
さすがに絨毯を買って帰る訳には行かず、狙いはスカーフか竹細工なのだ。
ポイントは"ネコ"。
そう、我が妻・朱蘭様は、ネコが大好きなのであった。
インドには猫が居ないらしく(?)、どこに行っても"ゾウ"だらけだったけど、アラブに期待しようではないか!!!
アヒル・カエル・ここでもゾウ・・・
う〜む、惜しいにゃあ、犬なら居るのににゃあ・・・
 喋り方までネコ化しながら探してみた所で、見つからない物は見つからない。
延々と直射日光に晒され続けていたせいか、意識はモウロウとし、インドのサリーもアラブのスカーフも見分けがつかなくなってきた頃・・・
い・居たぁ!!!!
怪しげな工芸品(?)が並ぶ店で、ネコの置物を発見!!
さっそく店内に入って見る。
アタマにターバンを巻いてアラブ衣装をキッチリ着込み、いかにも
『おいどんはアラブ人でごわす!!』
といった感じのオヤジが、店の奥でだらしなく寝ている。
同じ形で何色かのネコ。
顔の表情が皆違うので、どうやら手書きらしい。
しかし作りは結構イイカゲンで、アラブ風の内職品なのだろうか。
手にとって見ていると、
「メイアイヘルプユー?」
などと囁きながら、おねえちゃんがにじり寄ってくる。
こちらはスカーフ(?)で目以外を隠した、いかにも
『ウチはアラブ人どすえ!!』
といった感じなのだ。
「こ・こりはハウマッチですかぁ?」
『ウラに書いてはりますえ』
おおっ!15$?(約900円)そりはちょっと高い!!
『そうどすか?ほな、勉強しまひょ』
結局、10$で御商談成立となる。


 道を間違えたりしながら5Km程歩き、17時を過ぎた頃に、やっとの事でオーチャード街に辿り着く。
一時は全く方角さえも判らなくなり、一体どうなるかと思ったけれど・・・
とにかく、これで安心!!
ホテル近くの見慣れた怪しい中華街風の光景さえも妙に懐かしく、テラスでコーラ&中華を食っている連中に向って
「キミタチ、今日はオレのオゴリだぁ!!さあ、何でも頼みたまい!!!」
などと言いたくなる程であった。
部屋ではルービが待っているぅ!!
おっとその前に、すでに届いているであろう航空券を、フロントで受け取らねば。
『えっ?航空券?その様な物は届いておりませんよぉ!!』
「な・なんですとぉ?????」

 フロントのおねえちゃんが、航空会社かどこかに確認のデンワを入れてくれる。
しかし、
『調べて直ぐに、折返しデンワをくれるそうです』
と言っていたラシーのだけれども、一向にデンワなどない。
こりは、マジでヤバいではないか!!!
社長様にゴチソウしてもらって浮かれたりしていたけれど、やっぱりこういう運命だったのだ!!
 金曜日の17時過ぎ。
頼りのA社はすでに定時を向えてしまっている。
定時退社が大好きなミスター・ワンも、既に帰宅してしまっているハズである。
くっそー!!ミスター・ワンめっ!!!!

どこに交渉すれば良いのかもサッパリわからず・・・・
判ったところで、英語での交渉など不可能だし・・・・
ホテルは夜には追い出されるし・・・・・
このまま、力強くシンガポールで生きて行くしか無いのかぁぁ!!!
ああ、何ともフビンな新妻よ・・・・・

妻・朱蘭様へ。
こちらはまだ明るいです。
やっと夕方と言った気配です。
巨大ビル群が、妙に青い空に生えてます。
今日はスコールも無かったのに、虹が出てます。
そんな光景をホテルの窓から眺めながら、キッチリとクーラーの利いた部屋でルービを飲んでます。
でも・・・・
そんな環境は、あと数時間で有効期限が切れます。
暖かい国で良かったです。
虫もあまり居ないんで、気持ち良く寝れそうです。
波の音を子守歌にしようかと思います。

 酔っ払ったまま街を歩くと逮捕される国なので、そろそろ酔い覚ましにコーヒーでも飲もうかな。
コーヒー??
そうだ!!!
コーヒーをおごられた時にミスター・ワンは、聞きもしないのに自分の携帯番号のメモをよこして来ていたではないか!!!!
さっそくデンワだぁぁ!!
『どうしたんでっか?えっ?航空券が来てない?そんなハズはおまへんねん!!』
「無い物は無いんだよう!!ヘルプミーだよう!!」
『わかりましたがな!!確認しますねん!!』
数分後・・・
『大丈夫ですねん!!18:30までには届けさせますねん!!』
何が大丈夫なんだか!!
じぇんじぇん安心なんか出来ないよう!!
案の定、18:30にフロントに向うと・・・
『航空券?届いておりませんが。』
ほぅらねっ!!!


 東京をしのぐような近代的都市国家と言われるシンガポール。
高い教育水準と厳しい法律によって、安心と信頼を築いてきたこの国。
だが・・・・
熱帯雨林を無理矢理切り開いて作られた、ハリボテの様な都市なのだ!!
一皮めくると所詮は東南アジア!!
イイカゲンな街なのだ!!
仕事中、社員食堂で10時・12時・15時と、一日3食も食いやがってこのやろう!!
通ってもいないERP区間の料金まで請求してくるタクシーだらけでバカヤロー!!
ルービが異常に高く、店によって値段が違い過ぎるぞトーヘンボク!!!
かなり偏見に満ちているけど、被害を受けているのだから言いたい事は言うのだ!!

 いい加減に良い時間となる。
本来ならば空港に向けて出発しても、ちょっと早すぎる位かな?と言った程度の時刻なのだ。
今日のお宿はどうしたものかとフロントに向うと・・・
き・来たっ!!
ヘンなアロハのオヤジが、航空券を手に立っているではないか!!
どういう立場のオヤジだかは判らないけど、遅れた事を詫びるどころか、航空券を投げてよこす有り様!!!
く・くぬやろー!!!!!
と・とにかく帰国だぁ!!!!!


 素早く荷物をまとめて空港に辿り着く。
手にした航空券は、なぜか関空(大阪)乗換えの羽田行きになっている。
何だよう!!
メンドクサイよう!!!
 ANA用の金属探知器は何か調子が悪いらしく、中華系ねえちゃん・マレー系にいちゃん、二人の係員があれこれいじりまわすも一向に動き出す気配が無い。
ミニスカの裾を全く気にせずに、イソイソと立ち振る舞う中華ねえちゃん。
アッサリと諦らめてスペアの機械を取りに走るマレー兄ちゃん。
さらに現れた中華系兄ちゃんが機械をいじり始める。
そんな状態だから、いつのまにか長蛇の列が出来ている。
「なんだよう!!いい加減にしてくれよう!!!」
イライラしながら作業風景を見ると・・・
おおっ!!
後から来た中華兄ちゃんの腰にはピストルが!!!!
空港係員が拳銃装備とは、なんだかんだ言っても、実はアブナイ国だったのかしらん・・・
 一気に冷静に。
まあ、ここまで来れば焦っても仕方あるまい。
ノンビリと成り行きを見守ろうではないか!!!!
おお!妻よ!日本よ!!
待ってておくれぇぇ!!!!

 ワタクシの前に並んでいるのは、子供を二人連れた若い日本人奥様。
「すみませーん、子供をトイレに・・・ちょっと見ててください!!」
手押し台車に載せられたデカトランク3個を残し、親子3人で後先になって走り去って行く。
この、見ず知らずの相手にアッサリと荷物の番を頼む安心感!
なんか妙に懐かしいぞぉ!!!

 まだ奴隷収容シートでの6時間のフライトが待っているとは言え、この行列はすでに一足早い日本だったのだ。

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