遠かった四国 その2(携帯版)

(レポート:岡村2号)

鶴ヶ島インターまでは約二十分。
エッソの手前のコンビニで食料を買い込もう。
家を出て、左折右折交差点直進直進、汚水処理場の横を抜けて突き当たりを左折交差点直進。
県道川越日高線を真っ直ぐに進み、ブックセンターひまわりの横を抜けて、どんどん進む。
高麗小学校の前を過ぎた辺りから、いくらか混雑してきた。
まあ、いいさ。
前の車にくっついて私は野猿田の交差点を左折した。
前を走る白い乗用車は速かった。
なぜか知らないが、どんどんと離される。
それほどスピードが出ているようには見えないのに。
バイクの調子が悪いのかな、とか思いつつ、アクセルを開ける。
だが、富士見台幼稚園入口で左から出てきた車に行く手を阻まれる。
白い乗用車はどんどん離れてしまった。
追いつくのは無理そうだ。
私は諦めて普通スピードで走った。
ちょっと急いだところで、フェリーターミナル着時間がそう変わるワケはない。
三芳SAでトイレ休憩を取らなければいいだけのことだ。

車がいた。
左の道から出ようとしているところだった。
軽トラだ。
そのうしろにも一台並んでいる。
軽トラは一時停止していた。
目を引くような車ではなかった。
私はその軽トラの前を通り過ぎようとした。
軽トラが発進した。
距離は? ブレーキをかける。
間に合わない。
距離は? なんて思うほどの距離もなかった。
軽トラのミラーが、左手のそばにあった。
ガツン、と音がした。
多分、音はしたと思う。
一度、地面に頭をぶつけたのは覚えている。
目を開いた。
地面に倒れていた。
うーん、やられた。
起きあがれなかった。


目の前には畑があった。
左手を下に倒れている。
人が集まってきた。
起きあがろうと、腕に力を入れたが、力が入らない。
ここで起きあがれても、フェリーには乗れないだろうなぁ、なんて考えた。
下になっている左側の腰やら腕が痛かった。
倒れたまま右手でヘルメットのバンドをはずす。
あれ、顎のところにヘルメットがない。
そうか、ジェットヘルだったっけ。
マフラーをずらした。
メガネをはずす。
人が集まってきた。
間抜けだなぁ、と思った。
左手が痛かった。
スキー手袋をはずす。
伸びる手袋もはずした。
小指の付け根が切れている。
誰かが救急車を呼ぶように言っていた。
目の前に立っているおじさんが言っているようだ。
二、三人か、もっと多くの人が立っていた。

目の前のジャージのおじさん、あれ?
「佐藤さーん、痛いよー」
おじさんが地面に倒れている私を見た。
「え、岡村か?」
おじさんは同じ会社の設計部長の佐藤さんだった。
どうしたんだ、と聞くから、これから四国に行く途中だったんです、と言った。
横から出てきた女の人(佐藤さんの奥さんだった)が、「四国から来たの?」とか聞いていた。
佐藤さんがうちの会社の子だ、と説明している。
私はもぞもぞと動いてザックを肩からはずした。
それをマクラ変わりに頭を乗せる。
そういえば、ザックの中身は大丈夫だろうか。
ペットボトルはいい。
日本酒も紙パックだ。
ワイルドターキーはどうなったのだろうか。
想像してみる。
ワイルドターキーのビンが割れて、ザックからウイスキーの匂いがした、と想像してみる。
車にはねられただけでも間抜けなのに、ザックからウイスキーがもれていたら輪をかけて間抜けだ。
「ワイルドターキーが割れてるかもしれない」と私は言った。
誰かが地面にこぼれているシミを指して、ウイスキーがこぼれている、と言った。
私はどうにか首を回して、地面を見た。
バイクを起こしてくれたらしい。
その近くの地面にシミがあった。
いやいや、それはガソリンですよ、と私は返事をした。
動けないままで。
ウイスキーの匂いはしない。
良かった。
妙に助かったような気分になった。


サイレンの音が聞こえる。
救急車が到着した。
ヘルメットを見て、消防署員が頭を打っている、と言っていた。
目撃者の誰かが、飛んだから、と言うのが聞こえる。
頭を打ったか、と聞かれたから、一度は打った、と答えた。
こんなに元気な人間がいていいのだろうか。
でも、倒れたままだし、担架まで出してくれたのだから、運ばれていくしかない。
佐藤さんがバイクと荷物は預かっておくから、と言った。
じゃあ、お願いします。あとで電話します。はい、家には病院から電話しますから。
そんなことを言いながら、私の横には担架がおかれた。
二つに割れている型だ。
ケガ人を持ち上げずに、担架に乗せられるようになっている。
半担架と半担架で私を挟むようにする。
それから、金具(それは見ていない)で半担架同士を固定し、持ち上げるのだ。
「佐藤さん、電話番号教えて下さい」
私は持ち上げられてから叫んだ。
「85の1234よ」
と奥さんが返事してくれる。
「覚えられませーん」
私は叫んだ。
そのまま救急車に乗せられた。
メチャクチャ間抜けだ。


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