遠かった四国 その4(携帯版)
(レポート:岡村2号)
救急車が交差点を直進します、とか言う声が何度も聞こえていた。
窓から外を見る。
会話が途切れて、若い消防署員も外を見ていた。
動物園の横を通る。
飯能に入ったようだった。
宮沢湖からバイパスに入ったらしい。
交差点で、若い消防署員が外に向かって手を振るのを、私は見逃さなかった。
お子さまが手を振っていたのだろう。
今度、私も救急車に向かって手を振ってみようかしら。
救急車はあまり乗り心地がよくなかった。
寝転がっているから、とか担架がアルミ製(ステンレス製かもしれない)で固いから、とかあるかもしれない。
揺れるのだ。
頭を打っているため散々「気持ち悪くないですか?」と聞かれていた。
病院について車酔いしていたらどうしようか、とか思った。
コスモとジョモの通りを走る。
ふうん。
救急車ってのはあんまし裏道を使わないのか。
Aさんに行くなら、私はマンガ45の通りを走るけど。
もうすぐですから、と若い消防署員が言った。
原付で事故に会ったという、友人の妹を思いだした。
妹は看護婦で、退勤途中に事故にあったと言っていた。
彼女は自分の病院を指定し(大したケガではなかった?)病院につくと、救急車到着で待ちかまえていた同僚の前に出ていったという。
A病院に着いた。
知り合いがいたらヤだなぁ、なんて思いながら担架のまま救急車から降ろされる。
担架は救急車から引き出すと足が出るタイプのもので、救急車から降ろされるのに、救急車移動中の振動ほどの振動もなかった。
静かなA病院の中に入る。
ダイエー側の入口から入ったようだ。
確か段差があったハズだが、それすら感じられなかった。
わらわらと、医師らが集まってくる。
頭を打っている、と消防署員が強調していた。
あまり、医師他は気にしていないようだ。
立ち上がれる? と聞くので、担架の高さを調節してもらい、私は立ち上がった。
打った左大腿部から腰辺りが痛かったが、動けないことはない。
起きあがって、上着を脱ぐ。
ウインドブレーカーも脱いだ。
ウエストポーチは消防署員がベンチにおいてくれた。
レントゲンを、と言われ、レントゲン室に入った。
こんな状況でも、置き引きされないようウエストポーチを持ってきた方が良かったかしら、とか思っていた。
自分の体調ってのはだいたいわかるつもりでいた。
打撲くらいだろう。
切れた小指の付け根は絆創膏でも貼っておけば治る。
その程度のつもりだった。
消防署員が頭を打っている、を強調したため、頭もレントゲンを撮られた。
腰とか手とか、何枚も撮られた。
大丈夫。いくらレントゲンを撮ったって、支払いは相手の保険会社なんだから、なんて思った。
レントゲンは高いから。
レントゲンが済むと、診察室に通された。
いつもの診察室だったが、座っているのはいつもの院長先生ではなく、見たこともない若い医師だった。
他にもわらわらと、診察室に人が入ってくる。
若いのばかり。それも細そうなの。
前、私がA病院に通っていたころはAさんは道場のような病院だと思っていた。
先生他が皆ごっついのだ。
なのに、今日目の前にいる方々は若い!細い!可愛い?
院長先生はどうしたの? どうして若い人ばかりなの?
レントゲン写真を見ながら話す。
骨は折れてないようですね。
当たり前じゃないですか先生、と言いたかった。
あの程度の接触事故で骨が折れるほどヤワな体はしていないつもりだ。
小指の付け根は絆創膏を貼って、その上から包帯をされてしまった。
どうして? そんな大ケガじゃないのよ! これじゃ、目立ってしょうがないじゃない!
若い医師は言った。
頭を打っているというから、24時間もしくは48時間は安静にして、お風呂にも入らないで、ウンタラカンタラ。
具合が悪くなったらすぐに来て下さい。
ちょっと待ってよ! と言いたかった。
年内禁酒遠出不可を約束されられたようなものだ。
楽しい連休が遠退く。
待合い室で警察官と少し話をし、会計で手続き等を聞き、がんじさんに電話を入れた。
まだ部屋にいた。
「岡村です」
誰もいないから「2号です」と付け足した。
事故会っちゃって。四国行けないんです。みなさんによろしくお伝え下さい、と。
ええ、ケガは大丈夫なんですけど、これからケーサツ行くし。
私は涙をこらえて言った。
四国が遠ざかっていく。
竜河洞もカルスト台地も遠ざかっていく。
また、来年行きますよ。じゃあ気を付けて、という話をして、私は電話を切った。
そうして、私の正月休みは終わった。
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