勉強嫌いの君だが、人生と真理の勉強は猛烈やってくれ。英語も道具だから、私の特訓を受ければ3ヵ月で、ペラペラしゃべれるようになるよ。読み書きまで出来なくてもよろしい。世界中で誰とでも英語でしゃべれればそれでいいのだ。気武道はもちろん習得してもらう。別に刑事7名を投げるなどという荒行はセン(千)でもいいが、元三以上の腕前になってもらいたい。
 天鳥さんが君に切手を寄付したという便りをもらった。礼状一本も碌に書けない無礼者のヤスヒロの真似を絶対にするな! あいつはもともと生意気で、人を人と思わぬ奴だったから、本気で弟子として扱ったことはない。オカルトの一端を授けて、勝手に霊夢をチョッピリ見せてやっただけである。それより、伊藤という芸道の鬼のような立派な役者がいる。これは神役者で、これからも活動するはず。君の兄貴格だろう。しかし、私の直弟子というわけではない。当人が私のことをあまり知らないからだ。酒で暴れる老人だ、くらいの認識しかないだろう。しかし、やはり、私の文学における卓越性は少々わかっているはずだ。天鳥切手で下記に手紙したまえ。何を書いてもいいよ。おべんちゃらは不要だが、年長者としての礼儀を守った文章を書きなさい。

  伊藤博高
  557 大阪市西成区○ 0−0−00 ○○マンション00

 では、今日はこれから、傘の骨削りをする。畜生め!

                                                 十さんより


追伸
 このレタ−は、右の端が広く開いているから、そこに君の感想など、メモをみっちり書いておいてくれ。あとで見るから。
 ヤスヒロは見捨てていい。
 あれは単なる繋げ役だった。
 岡部は人情のあるいい奴だが、ヤスは岡部を下らんことでいじめるのを楽しみにしている。悪い趣味だ。
 OKABEのスナックは潰すように、私は念を掛けている。彼にはもっと本物の仕事がある。今はまだ未練があるが、伊藤君あたりが、廃業を早めるだろう。
 もうひとり、大阪にワンサンというつまらん療術師がいるが、これとはつき合わなくてよろし。君に面会にもこないだろう。スケベでエゴイストで、弱虫だ。金儲けばかりが旨い奴。
 三村智春君という写真芸術家はいい人だ。でも、面会にはこないだろう。天鳥さん(尚美会長)に頼めば、連れてきてくれるかもしれない。
 みんな30代。君とは年の開きがあるが、それぞれ人生が固まりかけているから、君ほど無限の可能性を秘めている人物はいない。人材、まことに世に乏しいものなり。
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