4月1日の真実 

 

「タクロー君、今ちょっとイイ?」
「なに?どーしたのジロ、そんな深刻な顔しちゃって。」
「いいからこっち来て。」
JIROがいつになく真剣な顔をして言うので、TAKUROはJIROの後をついていった。
連れていかれたのは屋上。
「何?なんか深刻な話?」
「うん…実は…」
JIROはTAKUROに背を向けて遠くを見ていた。そして、ゆっくり振り向いた。
「俺…タクロー君のこと好きだよ。」
「は?」
TAKUROは一瞬何を言われたか分らなかった。
「今、なんて言ったの?」
「俺、タクロー君のこと好きだよ。タクロー君がそういうの嫌いって知ってるけど…」
「何いってんの?ジロが俺のこと好き?冗談だろ?だって俺達…友達だろ?仲間だろ?
それ以上でも、それ以下でもないだろ。」
「…冗談だよ。ちょっと驚かそうかな、っと思っただけ!今日は何日?」
JIROはTAKUROに再び背中を向け、明るく言う。
「えっ?ああ、4月1日かぁ!あーびっくりした。真面目な顔してるから何かと思ったよ〜」
「ころっと騙されるんだもん。もう、笑っちゃいそうだったよ!」
JIROの明るい声は続ける。
「あ、ほら!もう戻らなきゃ!」
TAKUROが時計を見て言う。
「や、俺もうちょっとしたら戻るよ。先行ってて!」
「そう?じゃ、行ってるね」
JIROは背中でドアのしまる音を聞いた。
「うっ…うーっ、わあーん!!」
もう限界だった。JIROは泣いた。誰も居ない屋上で。嘘ではなかった。
本気だった。でも、あの状況ではあれ以上言えなかった。
今日は4月1日。あの返事をする事は予想していた。でも…

言わなければ良かった。そうすればこんなに悲しくなかったのに…

「ジロウ、どうしたの?目赤いよ?」
戻ってくるといつのまにか来ていたTERUがやってきた。
「ああ、屋上に居たんだけど、目にごみ入っちゃって。こすってたら赤くなっちゃって」
JIROは鏡を見ながら考えた言い訳をさらりとくりかえす。
「大丈夫?」
「うん。でも今日撮影あるよね?大丈夫かなぁ」
心配そうな声を作って言う。
「ああ。それなら大丈夫だよ。向こうの都合で明日になったから」
「ほんとに?」
JIROは心の中でホントに良かった、と思った。
こんな状態ではいつものJIROの顔なんて出来そうに無い。
「ねえ、タクロー君は?」
気になっている人物の存在を聞く。
「あ〜さっき佐久間さんと話してんの見たけど。盛り上がってたよ。」
「ふ〜ん。俺帰ってイイ?」
「タッキーに聞いてみれば?」
TERUがドアの方を指差す。何やら話し声が聞こえるのは、彼らしい。
とことこと歩いて行ってドアを開ける。そこではタッキーがスタッフと話していた。
「ねえねえ、俺帰ってイイ?」
「え?ああ、いいんですか?」
答えるではなく、話していたスタッフに聞く。
「ジロウ君はもう終わったからいいよ。」
スタッフが笑顔で言う。
「そお?じゃあ帰るね」
JIROも笑顔で返す。荷物を持ってスタジオを出ていく。
「じゃあね〜。タクロー君によろしく!」
JIROは明るく言う。その裏の悲しい想いなんて誰も気づいてない。
誰もが笑顔で返事を返す。
その明るさを不審に思ったのは、たまたまブースから出てきたHISASHIだけ。
(あいつ…)

もうタクロウには会えない、会いたくない。
もう…そばには居れない。
もう……


「なんだって〜!!」
「おはよーござ…どうしたんですか?」
マネージャーの車で仕事場にきたTERU、TAKURO、HISASHIの3人は
仕事場に珍しく来ている社長の絶叫を朝一番に聞いた。
TERUの問いに、社長と一緒に話していたもう一人のマネージャーが
口を開いた。
「実は…ジロウ君が…」
「ジロウがどうしたの?そう言えば来てないけど。」
「…居なくなったんだ。」
「はあ?」
3人は意味がわからず、変な声を出す。
「いない…ってどう言う事?」
一早く状況を察知したHISASHIが問う。
「あの…実は今日早朝電話がありまして…」
「なんて言ってた?」
「それが…『ごめん』ってだけ…」
顔を見合わせているTAKUROとTERU。
HISASHIが続ける。
「今日の仕事は?今日は雑誌の取材じゃなかった?」
「それは急遽テルさんとタクローさん2人の対談、という形にしてもらいました。
あと、ジロウさんは病気で入院ということに。」
「OK。で、俺は?」
「ヒサシさんも、もう一つ取材が入りましたから、そっちの単独インタビューお願いします。
とりあえず、明日からはしばらくTV、雑誌の取材は個人以外はお断りしますので。」

結局その日はJIRO抜きで仕事は無事終了した。
しかし、この状態が続くのはかなり厳しいということは誰もが知っている。
「タクロー、俺お前に聞きたい事あるんだけど」
「え?あーじゃあ家来る?」
「てっこも来いよ。」
「え、俺も?」
「ジロウのことなんだよ。これからのことも有るし。」
「わかった。」
「じゃあ俺、1回家帰ってから行くから先行ってて。」
そう言って3人は一度別れた。

「なあ、お前昨日ジロウと何か話した?」
HISASHIは2人の待っていたTAKUROの部屋に来るなりそう言った。
「俺?特になにも…」
「ホントか?ちゃんと思い出せよ、タクロー!」
「どうしたの、との?」
いつになく熱くなっているHISASHIにTERUは不思議そうだ。
「思い出せよ!早く!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ええと…ああでもあれは冗談だし…」
「それ!何話したんだよ!」
「え?いや、昨日4月1日だっただろ?だから…ジロウが冗談で俺のこと
好き、って」
「…で、なんて言ったんだ?」
「いや、友達でバンドのメンバーで、それ以上でもそれ以下でもないって。
でも!ジロウは冗談だって笑ってたよ?」
TERUとHISASHIが顔を見合わせる。その表情は厳しい。
「お前…」
「タクロー、ジロは…」
「てっこ!言うな!」
「でも!」
「なんだよ2人とも。ジロウがどうかしたのか?」
TAKUROが聞く。
TERUとHISASHIが再び顔を見合わせる。そして小さく頷く。
おもむろにHISASHIが口を開く
「ジロウがいなくなったのは、お前はせいだ。」、と。
「え?」
「昨日がたまたま4月1日だったってだけで、ジロウの告白は嘘じゃない。」
「ジロウは、タクローのこと好きだったんだよ、ずっと。」
「…嘘…だろ…」
「嘘じゃない」
「昨日、ジロウ戻ってきたとき目が真っ赤だった。目にごみが入ったって言ってたけど、
あれは屋上で泣いてたんだと思うよ」
「そんな…だってジロウにだって彼女が…」
「部屋に『もう一緒にいられない、ごめん』って書置きがあったって。
うちの奥さんのとこに彼女から電話があって、泣きながら言ってたってさ。」
「そんな……」
「とにかくこれが真実なんだ。」
「ねえ、との。」
「なに?」
「携帯持ってるんじゃないのかなあ?かけて見たら?」
TERUのその言葉にHISASHIは首を横に振る。
「さっきかけてみたけど、電源切られてた。」
「…ごめん、ちょっと一人になりたいんだ。」
そう言うとTAKUROは部屋に閉じこもってしまった。

翌日からGLAYはメディアに一切露出をしなくなった。
JIROのレギュラーであるラジオも録音の分が終わると、かわりに
TERUとHISASHIがやることになった。
TAKUROはといえば…
いつもならあんなに良く喋る男であるのに、ラジオで喋る以外はほとんど口を開かなくなった。
そううつ病の患者のように明るかったり、暗かったり、という状態の事もあった。

マスコミでは一時騒ぎにはなったが、タイミングよく大きな事件が起こったおかげでJIROの話題はすぐに消えた。
もちろんマスコミでやったのも病気で入院、ということだけだったのだが。失踪したなどとはばれていない。

事務所のスタッフたちがJIROの行方を追っているが、一向に見つからない。
そこで、これからのGLAYについて会議が行われる事になった。
「JIROは見つかったのか?!」
「いえ…。それが、彼の行きそうなところはすべて当たってるんですが、一向に…」
「とにかく、1ヶ月だ!その間にジロウを探し出せ!!」
「はい…」
「それとタクロウの様子は?」
社長が同席していたTERUとHISASHIに聞く。
2人は首を振る。そしてHISASHIが口を開く。
「相変わらず、何もしないでボーッとしてるよ。」
「曲は書いてないのか?」
「書いてない。むしろ書けないんだと思うけど。『ジロウ、ごめんね』って毎日のように呟いてる。それだけ。」
「そうか……。とにかく、みんな、全力でジロウを探しだせ!どんな手を使っても
かまわない。これからのGLAYのために。……タクロウのために。」
「はい!」

それからスタッフは全国に飛び、JIROを捜索した。そしていわゆる私立探偵と
呼ばれる人達も加わってJIROを探す。

1ヶ月の期限が迫る頃、JIROの行方がはっきりした。
きっかけになったのは、たった1度、1度だけ有ったJIROからの電話。

「もしもし?」
「……」
「もしもし?誰?」
「……俺…だけど……」
「ジロウ!?何処にいるの?ねえ!」
「……タクロウくん、元気?」
「元気、って…」TERUが答えに詰ると、HISASHIがその手から電話を奪う。
「元気な訳ねえだろ!!それより今何処にいるんだよ!!」
「ヒサシくん……ごめん…。」

プープープー

「切りやがった…」
「とののバカ〜」
「バカとか言うなよ。それより見ろよ、これ。」
と、HISASHIが電話の受話器からはずした小さな機械。
「何だと思う?これ。盗聴機だぜ。」
HISASHIが意地悪な笑みを浮かべる。
「盗聴機…?何でそんなもの…」
「まあちょっと待ってな。俺ちょっと出かけてくるから。タクロウのこと頼むな。」
HISASHIはそう言って盗聴機を持って出かけていった。

翌日、HISASHIは帰ってきた。手に持っていたのは…
飛行機のチケット
「おい、お前ら出かけるぞ!!タクロウ、お前も準備しろ!!」
「…え?」
「あ−も−そのままでイイから!」
HISASHIはTERUとTAKUROをひっぱって車に乗せる。
「ねえ、何処行くの?」
TAKUROの隣に座ったTERUがHISASHIに聞く。
「ん?まあ、行ってみればわかるって」
車はそのまま一路羽田へ。

3人が乗ったのは函館行き
「函館はみんなが探したんじゃないの?」
「まあまあ」
2人の会話をよそに1人でず−っと窓の外を見ている。
小さくなにかを呟いているが、2人にはなにかは聞こえない。
その様子を見て2人は黙ってしまった。

TAKUROはJIROがいなくなってからずっ−とJIROの事ばかり考えていた。
俺の返事に笑って冗談だといったJIRO
JIROがこのまま帰ってこなかったらどうしよう。
窓の外は青い空。雲の上。
JIROも今、同じ空を見ているのかな

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