今日も仕事の朝。
控え室にはテルとヒサシがいた。タクロウとジロウは打ち合わせに参加していた。
遅れてやってきた2人は呼ばれてからでいーよね、と勝手に解釈して部屋でPCをしていた。
「との、ねぇよかったの?」
「なにが?」
テルがPCを切って、ヒサシに話しかけてくる。
「だって…ホントは昨日帰るんだったんでしょ?ジロウ怒ってるんじゃないの?」
ヒサシは昨日テルの家に泊まったのだ。しかし、ジロウには帰ると言ったのに、ヒサシは帰らなかったのだ。
しかも何も言わずに。ケータイも鳴らなかったなぁ、と思ったら電源を切ったままだった事に気づいたのも朝だった。
「いーよ、別に。言わなきゃわかんないんだから。あいつうるさいし」
ヒサシはテルの心配をよそにめんどくさそうに答える。
「との、そんなこと言って…ジロウに聞かれても知らないよ?」
「いないから、平気だろ」
ヒサシのうっとうしそうな声に反応したのは、テルではなく…
「ここにいるけど?」
ジロウだった。
「…ジロウ…」
ドアの脇に腕を組んで壁にもたれかかって立っているジロウがいた。
思わずテルが呟く。
「もしかして、話聞いてた…」
「全部聞かせてもらったよ。ふーん、テルのとこに居たわけねー。
俺が一晩中待ってたって言うのに、ヒサシくんはテルと楽しく過ごしてた訳だ。」
ジロウが冷たい目でヒサシを見ながら皮肉っぽく言っている。どうやらジロウは一晩中寝ないで待っていたらしい。
「…」
ヒサシは無言である。
「なのに、そーゆーこと言うんだー。」
尚もジロウの嫌味が続くと、ヒサシはやっと口を開く。たった一言。
「…なんだよ」
「今謝れば許してあげるけど?」
テルは緊迫した雰囲気の2人の間で、ただおろおろとするばかり。
「…俺は…悪くない…」
「との!」
ヒサシの強情な態度にテルがヒサシに非難の声を向ける。
「あっそう、ならいいけど。」
ジロウの冷たい一言の直後、ドアが開く。
ガチャ
「おーい…って3人ともいるじゃん。ジロウ呼びに行ったまま、なかなか戻ってこないんだもん。」
入って来たのは、タクロウ。
「あ、タクローくん…。ごめん、忘れてた。」
ジロウはタクロウに言われて、テルとヒサシを呼びに来たのだった。
「ったく…遅いと思ったよ。ま、いいや。とにかく早く来いよ。」
タクロウはさっさと行ってしまった。ジロウは振りかえってテルを睨むと、タクロウの後をついていってしまった。
打ち合わせのあと、雑誌の取材の仕事で、2人ずつの写真撮影をする事になった。
今回は、というか今回も?テルとタクロウ、ヒサシとジロウという組み合わせ。
「ヒサシくん、どうしたの?なんか表情固いねぇ」
撮影をしながら、カメラマンが不思議そうに言う
「あ、スミマセン…」
ヒサシが謝ると、ジロウが耳元で囁く。皮肉たっぷりに。
「ごめんね、俺とで。ホントはテルとがよかったんじゃないの?」
「…」
黙ってうつむくヒサシ。
「別にどーでもいいけど」
ジロウはそう言うと、再びカメラの方を向く。
カメラマンの「何話してたの?」という質問にもいつもの顔で「内緒」なんて答えている。
(俺…)
ヒサシはいつもの似非クールな顔を無理やり作って撮影を続けた。
撮影を終えると、ジロウはさっさと帰ろうとする。
廊下であったタクロウが驚いて声をかける。
「あれ?ジロウ帰んの?ヒサシは?」
タクロウはいつもヒサシと帰っていくジロウが一人なのを純粋に不思議に思っている。
「さぁ?テルと一緒に帰るんじゃないの?」
ジロウはタクロウに皮肉っぽく言ってさっさと行ってしまった。
「なんだ?どーしたんだ、ジロウ?」
タクロウは荷物を取りに控え室のドアを開ける。
「おーい。ジロウなんで機嫌悪いんだ?」
中にいるテルとヒサシに話しかける。
「とのの所為だよ。俺までとばっちり受けてんだから」
テルが怒りながらタクロウに言ってくる。
「…うるさいな」
ヒサシが反論する。小さい声で。
「なにがあったんだ?」
タクロウはヒサシに聞くと、ヒサシは何も答えない。
代わりにテルが洗いざらい教えてくれた。
「あのね〜昨日俺んちで飲んでたんだけどね。ヒサシは帰るはずだったんだけど、、、」
「帰らなかったのか?」
「そう。しかも、ジロウに電話するのも忘れちゃったんだって。ケータイも切ってたし。」
「なるほどね〜無断外泊ってことね。それで怒ってんのか。あいつも子供だな〜」
「でも…悪いのは俺だし…あいつが怒ってんのも…分かるし。」
ヒサシが小さい声で呟く。
「じゃあ、さっさと謝っちゃえばいいのに。」
テルがとばっちりだ!、といわんばかりにヒサシを責める。
「バカ!…俺だって…謝れるんだったらとっくに謝ってるよ…それが出来ないから…」
「なるほどね〜どうりでジロウが今日眠そうだったわけだ。で、ヒサシ今日は帰るの?」
「いや…どうしようかと思って…」
「俺んちで飲むか。」
「…そうだな。」
ジロウが突然鳴った電話取る。
電話をかけて来たのはどうやらタクロウらしいのだが、彼の声がしない。
「もしもしー!タクロウくんー?」
と呼びかけると、受話器の向こうから騒ぎ声が…
「ちょ、ちょっと、てっこ!やめろって!やだって!」
「いーじゃん、とのぉー」
(この声って…ヒサシくん!?)
「お前ら止めろよ〜ったく。あ、ごめん。ジロウ??」
プープー
「あり?切れてるよ…」
タクロウが電話を置いて後ろを振り向くと、さっきまで騒いでいたテルとヒサシがそのまま寝ていた。
「あーあージロウが見たら誤解すると思うんだけどなぁ」
テルがヒサシに抱きついた状態のまま、2人とも熟睡していた。
タクロウはベッドルームから毛布を持ってきて掛けてやった。
そのころ、ジロウは車を飛ばしてタクロウの家へと向かっていた。
タクロウのマンションの脇に車を止めて、走って行く。
教えてもらってしっている暗証番号で勝手に入る。
部屋の前のインターホンを何度も押す。
「タクロウくん!俺、ジロウだけど!」
「ジロウ?どうした…ま、とにかく入れよ。」
びっくりした顔のタクロウが促す。
「どうした、って、電話してきたのタクロウくんでしょ?」
「そうだけど、用件言う前に切っちゃうんだもん」
タクロウの後ろからリビングを見ると、テルがヒサシに抱き着いて寝ていた。
「離そうとしても離れなくてさぁ」
タクロウの苦笑を無視して、ジロウがつかつかと寝ている2人に歩み寄る
テルの首根を掴んでヒサシから剥がすと、そこら辺に放り出す。
「うわっ」
タクロウがテルを慌てて抱きとめる。
ジロウはまだ寝ているヒサシをお姫様抱きにして立ちあがった。
「ジロウ?」
「ヒサシくんは連れて帰るから。じゃ、オジャマしました。」
「…ああ」
呆然としているタクロウをよそにジロウはヒサシを抱えて帰ってしまった。
車につくと、ジロウは助手席のドアを開けてそこに放りこむ。
「いた…あれ、ジロ?」
「帰るよ」
ヒサシを乗せてジロウの車は走り出す。
自宅マンションまで着くと、ジロウはまたヒサシを抱きかかえて連れて行く。
「ジロ…?歩けるから。降ろして…」
ヒサシはまだ眠そうな顔と声でジロウに言う。
「うるさい、黙れ」
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