Sickness
「なータクロー」
ヒサシはベッドの脇のソファーで煙草を吸いながら、
ベッドで寝ている恋人を呼んで、起こした。
「ん、なに?」
「おなかすいた。」
「んあ?ああ、もうそんな時間?ごめん、ちょっと寝てた…。
何がイイ?…あーでも大した物無いと思うけど…。」
「なんでもイイ」
その言葉にタクロウは起き上がって服を着た。
タクロウの足元にはいつのまにか鮎が。
(あーそっか、鮎も連れてきてたんだっけ)と、ヒサシは思い出す。
「おー鮎。おまえも腹減ったか?そっかー」
タクロウは鮎を連れて台所へ行ってしまった。
(あいつ、疲れてんのかな?…ま、いっか)
ガタン
(ん〜何だ今の音…)台所から何かが倒れるような音がした。
さっき台所へ行ったはずの鮎が扉の隙間から部屋へ入ったきた。
しかも、ニャアニャア、とうるさく泣いている。
「ん〜何だよ、あゆぅ。ご飯もらったんじゃないのか〜?」
ニャアニャア
「もー、しょうがねえなあ」
親バカなヒサシは仕方なく煙草の火を消し、鮎を連れて部屋を出た。
「オイ、タクロー。鮎にご飯あげ……タクロー?!」
タクローが台所で倒れていた。周りの赤いのは血だろうか?
「タクロー、おい!どうしたんだよ!」
返事は…ない。
ヒサシは突然ベッドルームへと、とって返した。
プルルル
「テル〜電話だよ〜」
小さな液晶には‘ヒサシ’の文字
「あ、出てくれる?」
「ん。もしもし、ヒサシ?」
―もしもし、てっこ?
「あ、ジロウだけど。どーしたの?」
―ジロウ…タクローが……
「え?タクローくんがどうしたって?」
―タクローが……
「ねえ、どうしたのさ」
「おーい、ジロー誰だった〜?」
「テル!ちょっと来て!早く!」
「え、なに?」
「いいから!ヒサシなんだけど、なんかおかしいんだよ。タクローくんに
なんかあったみたい。」
「うそ?!ちょっと貸して!」
テルは走ってきてジロウの手から携帯を奪う。
「もしもし、との?どーしたの!」
―あ、てっこ…タクローが…血吐いて…倒れてて…
「ホントに!?とにかく俺ら、今からそっち行くから!!待ってて!」
電話を切ったテルにジロウは聞く。
「タクローくん、どうしたの?」
「部屋で、血吐いて倒れたって。とにかく行こう!」
「うん」
2人は急いで地下の駐車場まで行き、テルの運転でタクロウの家へと向かう
「ジロウ、とばすからしっかり掴まっててよ。」
「OK」
テルの運転する車は、夜の暗い街を走り抜けた。
覚悟はしていたものの、さすがにジロウも生きた心地がしなかった(恐くて)
そして、タクロウの家へは、後で考えると恐ろしいほどの速さで着いた。
ピンポーン
「俺だよ、との」
無言でドアが開けられる。
「タクローは?」
「あ、こっち……」
台所へ行くと、タクロウが血の気を失って、青白い顔で倒れていた。
「タクロウ!?」
テルが慌てた声をあげるその脇で、ヒサシは立っていられなくてしまい、
座り込んでしまった。そっとタクロウの手を握りしめる。
しかし、タクロウの手を握りしめるヒサシの手は震えていた。
それを黙って見ていたジロウがおもむろに口を開く。
「ヒサシ、携帯貸して。」
「あ…向こうに……」と、寝室の方に顔を向ける。
寝室へと向かうジロウにテルが、
「ジロウ、自分のは?」と聞くが、ジロウは「忘れてきた」
とだけ言って、ヒサシの携帯でおもむろに電話をかけ始める。
ここは深夜の瀧川氏(GLAYマネージャー)の自宅
メンバーにとって明日は、久しぶりの休みである。
深夜に次の仕事を準備をしていると、静寂を打ち破る音が聞こえ始めた。
(この音…?あっ!)
「ヒサシさん!?」
急いで携帯の通話ボタンを押す。
ヒサシからの電話はめったに無いが、有るときは必ずと言っていいほど
緊急の電話である事が多い。
「瀧川です。ヒサシさん、どうしたんですか?」
「俺、ジロウだけど」
「あれ?ジロウさんですか?」
「用件だけ言う。タクロウくんが自宅で血吐いて倒れた。」
「えっ、ホントですかそれ!」
その反応に少し怒った声でジロウは言った。
「嘘ついてどーすんのさ、こんなこと」
(それはそうでした……)
「すみません。それより!私も今からそっちへ向かいますから。あ、それと
救急車は私が呼びますから。一緒に居てあげてください。」
「わかった」
電話を切って、また電話をかける。かけるところはもちろん119番
タクロウの家の住所とサイレンを鳴らさないで来てくれと告げて
電話を切る。
私は車を走らせた。タクロウさんの自宅とは比較的近いのだが、
こんなに早くついたのは初めてだった。車を降りるとちょうど救急車も
到着したところだった。
「誰に電話したの?」
テルの問いに一言、「タッキー」とだけ答える。
「タッキ―何だって?」
「こっち来るって。救急車もあっちが呼ぶって。」
テルはタクロウのそばから離れず震えているヒサシを後ろから
抱きしめたまま、ジロウと会話を交わしていた。
「との、大丈夫だよ。タッキ―もすぐ来るから。ほら、鮎も心配してるよ」
みると、タクローとヒサシの間で鮎が悲しそうな声でニャア、と鳴いた。
「……ごめんな、鮎。」
それから五分後
タッキーが現れた。その後ろには救急隊員の人が控えていた。
「あれ?サイレン鳴った?」というジロウの問いに、
「鳴ってませんよ。」とだけ言って救急隊員を招き入れる。
タクロウが担架に乗せられ運ばれてゆく。
テルが、タクロウの手を握っていたヒサシの手をそっとはがす。
「あ……」小さく声を漏らしたヒサシに、ジロウは顔を覗きこんで
優しく言った。
「タクロウくんには僕とタッキ―がついていくから。ヒサシは落ち着いたら
テルと一緒においでね。」
ヒサシが小さくうなずいたのを見て、ジロウはテルに言う。
「テル、お願いね。」
「OK」
「でも、今度はとばさなくていいからね。」
「…はい。」
ジロウはじゃあ、といって部屋を出ていった。
「との、大丈夫?」
「ごめん」
「何言ってんの」
「俺…タクローが倒れてるの…見て…」
「タクロウなら大丈夫だって」
そう言って、テルはヒサシを抱きかかえて移動する。
リビングのソファーにヒサシを座らせて、自分は台所の掃除を始めた。
さっきまで台所にいた鮎もいつのまにかソファーの方へ行ってしまった。
ご主人様が心配なのだろう、見れば、ヒサシの隣で丸まっていた。