THE HAPPNESS
「ヒサシくん!これ飲んでみて!」
控え室でパソコンをしていると、ジロウが手に紙コップを持ってやってきた。
「なにこれ?」
「なに…ってコーヒーだけど?」
首を傾げて答えるジロウ。
「そんなのわかってるって!で、なんで俺がこれを飲むわけ?」
「あーあのねえ、テルが、このコーヒーすごい甘い!っていうの。そんな甘くないよねえ?」
HISASHIはJIROの手からコーヒーを受け取り口に含んでみる。
「うわっ、あまっ。なんだよこれ、砂糖もミルクも入れ過ぎだろ!」
HISASHIもTERUもコーヒーはブラックで飲むタイプだった。しかしJIROは
コーヒーというと、これでもか!というくらい砂糖もミルクも入れるタイプだった。
「おまえこんな甘いの飲んでんのかよ、お子様だな。」
「ひーどーい!いいじゃん別にぃ。も〜ヒサシくんに聞いたのが間違いでした!」
JIROは怒って部屋を出ていこうとする。
「おい、ジロ!これ……」
HISASHIの動きが鈍くなる。そして…
バシャ!
HISASHIの手から紙コップが滑り落ちる。床は瞬く間に茶色に染まってゆく。
HISASHIは意識を失っていた。
「…ちょっといれ過ぎちゃったかなあ、睡眠薬。」
JIROはいたずらっ子の顔で悪びれもせず呟いた。
「さてと…移動しますよ、ヒサシくん。よいしょ、っと」
JIROはHISASHIをお姫さま抱きで、抱きかかえて部屋を出ていく。
部屋を出るとそこに人影が…
そこに居たのはなんとタッキーとモッシュ。
「ジロウさん、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
タッキーがJIROの腕の中で眠っているHISASHIを見て言う。
「いいんだよ、こんくらいしなきゃ!じゃなきゃばれちゃうんだから!!」
「まあ、それはそうですけど…」
まだぶつぶつ言うタッキにJIROが一言。
「いいの!もう!タッキーはHISASHIくんの荷物お願いね!俺はモッシュと先行くから!」
JIROはHISASHIを抱えたまま、モッシュを引き連れ行ってしまった。
「後で怒ると思うんですけどね、ヒサシさん」
タッキーの呟く声は2人には聞こえなかった。
モッシュの運転する車で2人は、いや正確には3人は、あるところに向かっていた。
「ねえ、ヒサシくんこんなに軽かったっけ?」
「あーライブが続いたんで痩せたみたいですけどねえ。もうちょっと体重あっても
いいと思うんですけどね。」
「だよねえ。やせすぎだよ、この人は」
車はしばらくすると、あるホテルの地下駐車場へと止められた。2人はHISASHIを抱え
気づかれないようにホテルの部屋へと向かう。
着いたところは、ホテルの最上階。スイートルーム。
ピンポーン
ベルを鳴らすと扉が開き、現れたのは…
なんと谷ヤン。
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
JIROが言う。
「いや。あれ?ヒサシくん寝てんの?」
「ああ、ちょっと訳あって。」
「さて、始めていいのかな?」
「あ、お願いします。」
JIROはHISASHIをベッドのヘッドボードのところに凭れかかるようにして
HISASHIをおろした。
「全く…大丈夫なのかなあ…」
タッキーがHISASHIの荷物をまとめていると、TERUがやってきた。
「あれ?JIROとHISASHIは?」
「なにいってるんですか!先に行きましたよ。今日の計画忘れたんですか?」
「え?…あっ、思い出した!今日かあ。ああ、おれTAKURO連れてかなきゃ。」
「そうですよ〜も〜しっかりしてくださいよ〜。」
「で、TAKUROは?」
「最初の計画通り、まだ打ち合わせしてますよ、会議室で。」
「OK!任せといて」
「連れてくるから車でまってて」
「はい」
「あ、ヒサシの荷物はちゃんと隠しといてよ!見えないところに!」
「はい」
TERUは軽い足取りで会議室の方へ歩いていく。
「大丈夫かな〜こっちも」
「タクロー!もう終わる?」
会議室に入ってくるなりTERUはそう叫んだ。
「てっこ…声でかいよ。」
「あ、ごめん。ねえ、終わるの?」
「もう終わるけど、ちょっと待ってて。なにかあるの?」
「ホテルで雑誌の取材だって〜」
「あ、そうなの?」
「それなら続きはまた今度でいいですよ。」
スタッフのこの言葉で打ち合わせは終わった。このスタッフ達も今日の計画について
は知っているらしい。TAKUROに気づかれないようにTERUと目配せしている。
「あれ?HISASHIとJIROは?置いてっちゃっていいの?」
「もう先に行ってるよ。ほら、タッキーが車で待ってるから!」
「はいはい」
しきりに急がせるTERUを見て苦笑しながら、TERUと一緒に走り出す。
タッキーの運転する車で2人はホテルへと向かう。
もちろん取材なんて嘘。今日の計画はTAKUROにも内緒である。
2人はさっきJIRO達が入ったのと同じホテルへと入っていった。
行き先はもちろん同じ部屋。
ピンポーン、ピンポーン
今度はチャイムを2回鳴らす。
でてきたのはJIRO。
「あ、TERU、TAKUROくん」
「ジロウ、取材は?」
「ん?ああ、ヒサシくんは先にやってる。一人ずつだって」
「そうなんだ。」
TAKUROはあっさりとだまされてくれた。そんなTAKUROを見て
JIROは2人を中へと入れる。
「こっちの部屋で待ってて、って。」
「凄いな、スイートかよ」
HISASHIがいるのはゲストルーム。いま、他の3人がいるのは
主寝室のほうである。つまり、へやの右端と左端にいるのである。
こっちに居たのはスタイリストの恵美ちゃん。
「さ、つぎはTAKUROさんですから、これに着替えてくださいね」
と、手渡されたのはなんとタキシード。
「え、なんでタキシードなの?」
TAKUROは怪訝な顔でタキシードと恵美ちゃんを見比べている。
「だってスイートルームだし。それに雑誌社からのリクエストなんですけど。」
「ふーん。なんか変わった取材だねえ」
TAKUROは納得したのかいそいそとタキシードに着替え始める。
「てっことジロウは?着替えないの?」
「俺は終わっちゃったよ」と、JIRO。
「俺はTAKUROがやってるときに着替えるよ」とはTERU。
「なんか俺浮いてない?」
TAKUROが心細そうな声で言う。
「大丈夫だって。」
「そう?ならいいんだけどさあ。それにしてもヒサシ遅くない?」
「えっ、ああ、盛り上がってるみたいだったけど。俺ちょっと見てくるね。」
JIROがそう言って部屋を出ていく。
「どお?終わった?」
「あ、ジロウくん。ちょうど今終わった所だよ。」
HISASHIのそばに座ると、HISASHIはまだ眠っていた。
いつのまにか用意しておいた衣装まで着ている。
「ひさしくん!起きて!」
HISASHIに声をかける。
「ん……なに……」
「目覚めた?」
「ジロ……?あれ、ここ……」
「ホテルのスイートルーム。」
「なんで…うわっ!なんだよこの格好!?」
HISASHIが着ていたのは、なんとウェディングドレス!しかも純白の。
「いや〜やっぱり綺麗だねえ、ヒサシくん!」
「谷ヤン!?なんでここに!?」
はい、とJIROがすかさず手鏡を渡す。
「えっ、なんでフルメイク!」
「まあまあ、良い事あるんだよ、これから」
JIROはHISASHIの手を引いて歩き出す。
「はい、TAKUROこれして。」
JIROが出ていくとすぐにTERUはTAKUROにあるものを手渡した。
「アイマスク?なんだよ〜なんか電○少年みたいだし〜〜。こえ〜よ」
「大丈夫、大丈夫。はい!」
しぶしぶアイマスクをするTAKURO
「はい、じゃあ移動しますよ〜」
TERUはTAKUROの手を引いて部屋を出て隣にある大きなドアを開けて入っていった。
「はい、まだそのままでいてね〜」
TAKUROのスタンバイが終わると、こんどはHISASHIがJIROに手を引かれ、
ドアの前にやってきた。ドアの両側にいるのはタッキーとモッシュ。
「もう中はいいの?」
JIROの質問にはい、と頷く2人。
「さて、じゃあ始めよっか」
JIROのその言葉に合図の鐘が鳴らされる。
「TAKURO、とっていいよ」
TAKUROがアイマスクを取ると、そこはチャペルだった。
自分はいつのまにかバージンロードの先、神父の前に立っていた。
ドアが開けられる。
逆光のなか現れたのは、真っ白なウェディングドレスを着たHISASHIだった。
「HISASHI!?」