Home, Sweet Home

〜「愛のあかし」サイドストーリー〜 ……なのになぜか悟チチ(笑)


「ん? どしたんだチチ? 腹でも下したんか」
 まばたきするほどの間に寸分違わぬ元の位置へ戻ってきた悟空が、大穴の開いた寝室の壁をさすりながらげんなりしているチチの顔を見て言った。
 はあ、とチチは小さくため息をついて口だけで笑みを作った。
「いや、別に何でもねえだ。ちゃんと送り届けてきただか?」
「おう――ところでブルマのやつは、いってえ何の用だったんだ?」
「ダンナと喧嘩して憂さ晴らしに愚痴りに来ただけだよ。毎度のことながら世話の焼ける人たちだべ。どっちも素直じゃねえから、なんでもねえことで一悶着起こるだよ」と、チチはぼやきながら夕食の支度のために台所へ足を向けた。
 その左手を後ろから悟空がつかみ、ぐいとこちらへ引っ張る。チチは小さな叫びをあげ、フォークダンスのようにくるりと一回転して悟空の腕の中におさまった。
「いきなり何するだ」
 背後からチチを抱きすくめたまま悟空が耳元で囁いた。「オラたちも作るか、三人目」
 チチは目をぱちぱちさせて、いたずらっぽく笑っている夫を肩越しに見上げた。
「冗談もたいがいにするだ」
 どすっとチチのヒジテツが悟空の腹に決まった。ぐっと息を詰まらせて悟空が腹を押さえている隙に、チチは夫の腕の中から逃れてさっさと台所に行き、エプロンをつけた。
「これ以上大食らいのサイヤ人が増えたら、うちは破産しちまうだよ。今だっておとうの財産とビーデルさの持参金でやっと暮らしてるだのに」
 言外に働かない自分への非難をちくちくと感じて、悟空は片手で頭をかきながら苦笑した。
「それに、食費のことがなくたって、おらはもう子どもはいらねえんだ」
 思いがけず温かな声でチチは玉ねぎの皮をむきながら続けた。
「だっておら、あのとき――悟空さが一日だけこの世に帰って来た時――神様に願ったんだべ。悟空さをこのまま返してくれるなら、もう他に何もいらねえって」
「チチ……」
 チチは悟空を振り向いて照れくさそうに笑った。「だから、これ以上子どもはいらねえだ。第一、悟空さが一番でっけえ子どもみてえなもんだからな」
 悟空はにこっと笑ってチチのそばに行き、「一緒に作ろう、チチ」と言った。
「だから言っただべ。子どもは――」
「晩メシ」と、悟空はチチの手から玉ねぎを取り上げて片目をつむってみせた。
 あ、と言ってからチチは吹きだした。「やだな」
 だんだんと暮れゆくパオズ山の小さな家に、温かな笑い声が満ちていった。


(おしまい)

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