AM10:00ジャスト。それは一般社会にとってはもう活動を始めている時間だが、朝に弱い大学生・・・つまりは山名春彦にとってはまだまだまどろみの中に浸かっていたい時間である。
眠りの縁にどっぷりと浸かっている彼をよそに部屋のドアがゆっくりと開いた。細く開いたドアから滑るように入ってきた人影は音も立てずにゆっくりとベッドへと迫る。
人影は腰を落としゆっくりと拳を引いた。そして・・・
「瓦割りぃぃぃぃぃぃぃっ!」
高い叫び声と共に人影はその拳を勢い良く振り下ろす!
鳩尾を貫通せんばかりに強打した小さな拳に、春彦は声も出せずに悶絶した。
しばらくうめいた後に春彦がむっくりと起きあがると、目の前には、ショートカットの頭を誇らしげに揺らし腰に手をあてた女がニコニコと立っていた。
「おっはよー春彦!爽やかなお目ざめっしょ?」
「日々破壊力が向上しているのは誉めてやるが・・・もうちょっと穏やかな起こし方はないのか友美・・・?」
半眼の視線を受けて人影は腰に手をあててふんぞり返った。
「この三上友美に敗北と後退の文字無し!」
「会話になってないぞ・・・」
呟いて立ち上がると友美はにっこり笑った。
「ま、いーからいーから。どうせ春彦のことだから今日から大学始まるのも覚えてないでしょ?起こしに来てあげたらぶりーな幼なじみちゃんに感謝してね」
言うだけ言ってさっさと出ていってしまう。
「ふぅ・・・」
溜息と共にパジャマを脱ぎ捨てて服を着替える。
廊下に出ると食欲をそそる香りとトントンという音が春彦を捉えた。台所で鼻歌混じりに朝食を作っている友美をちらっと見て少し考え込む。
「どーしたの?」
「いや・・・今日も今日とて朝食を作ってもらっているのはありがたいが・・・」
「今日は焼き鮭に味噌汁、それと破壊力抜群のほかほかご飯だよ」
「うむ。それ、三人分作れるか?」
友美はネギを刻む手を止めて振り返った。
「三人って?」
「それがだな・・・」
言いかけた春彦は客間のふすまがゆっくり開くのに気がついて口を閉じた。
「おはよーございまふ。はやいれふねー」
中から色白で瞳の赤い少女が、しかもぶかぶかのパジャマを着て現れたのを見て友美は手からぽろりと包丁を落とした。日々念入りに研がれた包丁はそのまま床のフローリングに突き立つ。
「・・・危ないぞ」
声をかけるが硬直した友美は動かない。
「あれ・・・どちらさまでしょう?」
目をこすりながら冬花が呟いた瞬間、呪縛を解かれた友美は足下の包丁を空中に蹴り上げそのままキャッチして春彦に駆け寄った。
「だだだだだだだだだ誰よこの娘っ!」
突き出された包丁をサイドステップで難なく避けて春彦は肩を竦めてみせる。
「誰と言われてもな・・・冬花だ」
「冬花です」
「あ、友美です・・・」
深々と頭を下げ合う女性二人。
「ってそう言うことを聞いてるんじゃない!何者かって聞いてるのよ!」
叫ぶ友美に冬花はすまなそうに頭を下げた。
「ごめんなさい・・・そういう記憶はさっぱり」
「は?」
友美は包丁を握ったまま眉をひそめる。
「おい、鍋が吹いてる」
春彦に言われて友美は慌てて台所に戻った。
「取り敢えず着替えてこい」
冬花が頷いて引っ込むのを見届けてから春彦は溜息をついた。覚悟はしていたがややこしいことになった・・・
「何それっ!?それでそのまま雇っちゃったってワケ!?」
箸を振り回しながら友美は叫んだ。
「・・・ご飯粒が飛ぶからよせ。既に13粒飛んだぞ」
「うるさいわねカウントマニア!今はそう言うことにかまってる場合じゃないでしょ!」
「このお味噌汁凄くおいしいです〜」
冬花は幸せそのものといった顔で味噌汁をすすっている。
「幸いにしてこの家は一人暮らしするには広い」
「正気!?女の子を連れ込むなんてそんな・・・!家事だってあたしが・・・」
「友美は料理こそプロ級だが掃除と洗濯が苦手だ。こいつは料理はかき氷しかできないが掃除と洗濯はなかなかのものだ。何の問題がある?」
「問題だらけよ!」
吼える友美の手が不意にひんやりとした感触に包まれる、冬花がテーブル越しに身を乗り出して手を握ったのだ。
「あの、駄目でしょうか?おいといて貰えないでしょうか?私、ここを追い出されると他に行くところも頼る人もなくそこらの犬さんや猫さんと共に路上生活と言うことになっちゃうんです〜」
勢い良く叫ぼうとして冬花を睨み付けた友美は思わず硬直した。
「あ・・・」
言葉にならない声が開いた口から漏れる。
「綺麗・・・」
かすれた声で呟いた瞬間友美の顔は耳たぶまで一気に赤くなった。
「どうした友美?」
横からかけられた声に機械人形のようにぎりぎりと首を回しそこに春彦の顔を見つけた友美は慌てて冬花の手を振り払い椅子を蹴り倒しながら大きく後退した。
「ああ、そんなに嫌わないで下さい〜」
悲しげな冬花の声にぶんぶんと手を振り回す。
「ちがうのよ!?別に冬花さんが嫌いとかそう言うのじゃなくてというよりもむしろ好きあああああああ違う違う違う違う〜!」
頭を抱えて叫んでいる友美をちょっと気味が悪そうに見ながら春彦は漬け物を囓った。
「どうしたんだ?さっきから変だぞおまえ?」
「あたしはノーマルあたしはノーマルあたしはノーマル・・・」
友美は口の中でブツブツと呟いて天井を見つめている。
「あの・・・大丈夫ですか?」
至近距離で聞こえた声に友美はぎくっとして視線を前方に移した。
「顔が赤いですよ?風邪でしょうか・・・」
いいながら冬花はぴとっと友美の額に自分のそれをくっつける。
「う〜ん、ちょっと熱いですね」
「きゅう・・・」
冬花が額を離した途端、友美はその場で卒倒した。
「あらあらあらどうしましょう」
頬に手をあてて冬花は呟く。
「大丈夫だ。まかせろ」
一人でゆっくり朝食を食べ終わった春彦は友美に歩み寄った。倒れている彼女の上半身を起こし背中に膝を当てる。
「覇っ!」
気合いの声と共に活を入れると身震いを一つして友美は目を開いた。
「大丈夫ですか?」
かけられた声に視線を向けそのさきに冬花がいるのを見て友美は勢い良く跳ね起きる。
「あわわわわわわ・・・は、春彦っ!大学ッ!大学行くわよッ!」
「行くのはいいが、結局こいつはどうするんだ?」
冬花を指差して春彦が呟く。
「ほ、保留!じゃ、外で待ってる!」
駆け去る友美を冬花が悲しそうに見送る。
「私、嫌われたみたいですね・・・」
「いや、あれはそうじゃないだろ。大丈夫だ」
春彦の無責任な言葉に冬花はにっこりと微笑んだ。
「そうですか?春彦さんが言うならそうなんでしょうね・・・安心しました」
「まあ、悪い奴ではないからな・・・ともかく俺は大学に行きがてらあいつを説得する。留守は頼むぞ」
「はい!」
頷く冬花を残して春彦は洗面所に向かった。クイック歯磨き、クイック調髪を済ませて自室に戻りコートをはおる。マフラーを首に引っかけて鞄とニットキャップを掴み外へ出ると、廊下で友美が唸りながら待っていた。
「・・・・・・」
無言で歩き出した友美の後ろをこれまた無言で春彦が歩く。今日も天気が良く、風は冷たいが日差しが暖かだ。
「なんなのよ」
10分ほど歩き大学の門をくぐってから友美はぽつりと呟いた。
「なんなのよ!一体どういうこと!?」
「・・・もう一回説明するのか?」
「そうじゃなくて・・・もう!」
早足で歩く友美の横に並び春彦は息をついた。
「冬花のことが気に入らないのか?」
「そうじゃないけど・・・だっていきなり女の子と同居するなんて言うから・・・」
「住み込みの家政婦だ。気にすることもあるまい?」
「あんな綺麗なメイドさん、気にするなって方がおかしいわよ!」
やれやれと溜息をつく春彦を見て友美はムッときて息を吸い込んだ。
「大体あんたがねえっ!」
「待て・・・」
友美の叫びを片手で遮って春彦はくるっと振り向いた。
「浅野・・・何をしている?」
「おや、もう気付いたか」
こっそり後ろに立っていた長身の女がそう言って煙草をくわえる。
「匂いで気付かれないようにわざわざタバコすわないで近づいたんだがな」
「吸って無くても持ってるだけで俺にはわかる」
そうかと頷いて浅野は煙草に火を付ける。黒いジッポーを握る手袋も黒いレザー、おまけにコートもブーツも真っ黒なレザー地で出来ている。本人には告げてないが春彦はこのファッションを『アサッシンスタイル』と呼んでいる。
ちなみに、浅野は二人より一つ年上なのだが浅野にも春彦にもそれによる上下関係は無視されている。
「ん?佐野はどうした?」
「あいつにはオレの成績表を取りに行かせてる。それよりも、だ」
浅野はそう言ってタバコをくわえたままニヤリと笑った。
「何かもめてたみたいじゃないか?」
「ああ。実はな・・・」
「駄目ぇっ!」
しゃべりかけた春彦の口を友美は慌てて塞いだ。
(春彦ッ!この人に言ったら大学中にこの事が知れ渡っちゃうわよ!)
(・・・何か問題でも?)
(大アリよっ!冬花さん身元不明なんでしょうが!)
「何を二人でささやき合っている?」
「べ、別にっ!何もないですよ浅野さん!」
慌てて離れる友美を浅野は半眼で見つめる。
「怪しい」
「あ、怪しく何てないですって!」
「いーや、怪しい。とても怪しい。凄く怪しい」
春彦はそれを見て深い溜息をついた。
「やれやれ・・・別に聞いてもおもしろくはないぞ?」
「それは聞いてから決める。聞かせろよ」
「だ、駄目・・・もがっ」
今度は春彦が友美を抱え込み口を押さえる。
「ただ単にな、あまりにも男に無関心なこいつが実はレズなのではないかという一大考察を展開していたのだ」
「あたしはノーマルなのよぉっ!」
何とか春彦の手から抜け出した友美が悲痛な叫びをあげる。
「なんだ、本当につまらないじゃないか」
「最初にそう言ったはずだが?」
肩をすくめると浅野は同じような仕草を返して歩き出した。
「じゃな。また」
「ああ」
短く挨拶を交わして去っていく浅野の背中を見て友美は胸を撫で下ろす。
「・・・よかった、ごまかせたみたいね」
言ってからジト目で春彦を睨む。
「でも、ああいうネタに人を使うのはよしてくれる?」
春彦は肩をすくめて歩き出した。
「帰ったぞ」
家に戻ってきた春彦が声をかけるとエプロン姿の冬花が出てきた。
「春彦さん、友美ちゃん、おかえりなさいませ」
「たたたたたっった、ただいま・・・」
どもりながら友美はぎこちなく笑う。
「早かったですね」
「今日は成績表を取りに行っただけだからな・・・」
春彦は靴を脱いで自分の部屋に向かう。荷物を置いて部屋を出ると廊下で冬花と友美が待っていた。
「晩御飯はどうなさいます?これから買い出しに行くんですけどオーダーはありますか?」
「・・・かき氷以外なら何でもいい」
春彦の言葉に友美はあきれたように首を振った。
「あのねえ・・・夕御飯にかき氷作る人がどこにいるってのよ」
「だ、駄目なんですか?」
「・・・・・・」
がーんとショックを受けている冬花を見て友美の肩が落ちる。
「はぁ・・・あたしが行ってくるから冬花さん達はここで待ってて」
「うむ。行ってこい」
友美はとぼとぼと家を出た。
すっかり日も落ちたPM7:00。山名邸の食卓には湯気を立てる料理の皿がいくつも並んでいた。
「いただきます」
三人で手を合わせ食べ始める。
「お、おいしいですっ!」
一口食べた冬花が目を潤ませて叫ぶ。
「おいしいです!感動です!最高です!」
「そ、そんな・・・普通よ普通」
顔を赤らめた友美が手をぱたぱた振って照れ笑いを浮かべる。
「・・・過去963食中第4位の出来映えだ。ずいぶんと気合いを入れたものだな」
「う、うるさいわねえ!春彦は黙って食べなさい!」
健康な男女3人が集まれば食も進む。大量に用意された料理は見る見るうちに腹の中へと移動していった。
「はぁ・・・うらやましいです。私もこれくらいおいしいお料理が作れるようになりたいですねえ・・・」
「大丈夫。冬花さん見た感じ手は器用そうだしコツさえ覚えればすぐうまくなるわよ」
食べ終わって談笑する二人の前に春彦が緑茶を置く。
「あ、さんきゅ」
友美はそう言ってお茶を口に当てて硬直した。
「どうした?」
「猫舌ですか?」
友美はどんっと湯飲みをテーブルに置いた。
「何であたしこんな和んでるのよ!」
「知らん」
春彦の素っ気ない返答に友美は頭を抱えた。
「あたしはここに何しに来たと思ってんのよぅ・・・」
「なんだ?まだ反対する気なのか?」
お茶を飲み終わって席を立った冬花の方に視線をやって春彦はそう呟いた。
「あたりまえでしょ!?」
「何がだ?」
「健全な男女が一つ屋根の下で暮らせば間違いの一つや二つ起きかねないじゃない!」
「俺が信用できないのか?」
春彦の言葉に友美は口を閉じて目を伏せた。
「・・・すまん。こういう言い方は卑怯だな」
「ううん、確かに信じなきゃなんないのよね・・・」
沈黙した二人に冬花が声をかけた。
「お風呂沸きましたよー」
「はーい!あたし一番に入るー!」
友美はそう言って元気良く立ち上がりはっと我に返った。
「なんかあたしってば凄くこの環境に馴染んじゃってる!」
「・・・気にするなよ」
「うー」
唸る友美に春彦は軽く笑って肩を叩く。
「まあ、今日はおまえも泊まっていけ。どうせおまえも一人暮らしだし・・・それなら安心だろ?」
「うん・・・」
友美は力無く頷いて風呂場に向かった。
じゃぽんっ・・・
浴槽に浸かって友美は天井を見上げた。
「普通の人相手だったら信じるわよ・・・」
天井の水滴を眺めてぽつりと呟く。
「でも、冬花さんは・・・あんな綺麗だし。あたし自身・・・」
そこまで言ってびくっと友美は身震いする。
「違うわよ?もちろん違うのよ?あたしノーマルだもん!それにあたしはあのときの約束を今も・・・!」
慌てて自分の思考をうち消した友美は脱衣所から聞こえたガタンという音に首を傾げた。
「何?」
眉をひそめた次の瞬間、浴室のドアが一気に開け放たれた。
「友美ちゃん、おじゃまします〜」
「ひぃぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ニコニコしながら入ってきた冬花に友美は思わず悲鳴を上げた。
「お背中流しますよ〜」
友美は口をぱくぱくして冬花を見つめる。筋肉質でスレンダーな友美と比べるとまろやかでメリハリの効いた体つきは女の目から見ても溜息が出るほど綺麗だ。
「と、冬花さん!なんで・・・!」
「あの・・・友美さんと少しでも仲良くなりたくて・・・迷惑でしたか?」
「ううん、嬉しいけど・・・」
ちょっと行動が突飛すぎるのではないだろうか?
「よかった・・・私、嫌われてると思ってました〜」
「き、嫌いなわけないでしょ!?」
「はい。春彦さんにもそう言われました」
微笑みながらタオルを持って立っている冬花を見て友美は覚悟を決めた。浴槽を出て洗い場のイスにちょこんと腰掛ける。
「じゃあ、洗いますねー」
のんびりした声でそう言って冬花はタオルを濡らしそこに石鹸で泡を立てた。
「あの・・・私って失敗ばっかりだし・・・怒ってますか?」
友美の背中をこすりながら冬花は静かに囁く。
「別に、怒ってるわけじゃないわよ」
「私、本当に行くところがないんです。ここだけが私の存在できる世界なんです・・・」
「それは、わかってるよ・・・あたしはただ・・・」
友美はそう呟いたきり、その話題は止めてしまった。
「ふう、いい湯だったわ」
ソファーに座ってダーツを投げていた春彦に風呂を出た友美は声をかけた。
「そうか・・・冬花は?」
「まだ入ってる・・・ねえ春彦?」
髪の毛をタオルでぞんざいに拭って春彦の隣に座る。春彦はちらっと友美を見るがそのまま次のダーツを投げた。
「あの娘の事・・・どう思ってるの?」
「不思議な奴だ」
「・・・不思議?」
「あの肌と目は明らかにアルビノの特徴だ。だが、それにしては陽光に対する抵抗力を持ち合わせてるようだし会ったときだって・・・」
ダーツを構えたまま考え込んだ春彦を見て一瞬だけ首を傾げてから友美は言葉を続ける。
「そうじゃなくてね・・・あんたの印象よ。嫌いじゃないんでしょ?」
「・・・少なくとも、邪魔ではないな」
「・・・そう」
それっきり、ダーツの飛ぶびゅんっという音だけが二人を包む。
「春彦さん、友美ちゃん」
声に振り返るといつの間に作ったのかかき氷を両手に持った冬花が立っていた。湯上がりの髪を友美と同じようにタオルでまとめ、サイズの合わない春彦のパジャマを袖を折り返して着ている。
「特製シロップ試作一号です。食べてくれませんか?」
二人は顔を見合わせてかき氷を受け取った。少なくとも友美は湯上がりで火照っており冷たいかき氷は大歓迎だ。
「特製って・・・冬花が作ったのか?」
「はい!」
元気よく答えて冬花は自分の分を台所から持ってきた。
「何味なの?」
「ふふふ・・・お楽しみです」
笑いながら冬花もソファーに座った。間髪入れずにかき氷にスプーンを刺し口に運ぶ。
「ん〜!うまくいきました〜」
満足そうな微笑みを見て春彦と友美はかき氷を口に運んだ。
「ほう・・・」
「おいしい!」
思わず声が出る。甘さと酸っぱさが同居したそれは絶妙のバランスの上に成り立った一品であった。
「冬花さん!これ凄い!おいしいよっ!」
友美は一気にかき込んで頭を押さえくぅ〜っなどと呻く。
「確かに凄いなこれは・・・しかし、原料は何だ?」
「在り合わせを混ぜて作ったんですよ」
春彦は眉をひそめた。
「この味・・・まさか・・・」
「はれ・・・らんか、きもちよくなってきた・・・」
急にふらふらしだした友美を見て春彦は疑問を確信に変えた。
「冬花・・・そこの戸棚の中の瓶を使っただろ?」
「はい。あ、大事な物だったんですか!?」
「いや、貰い物だしいらないんだが・・・」
そこまで言ったところで友美が春彦の肩にどさっと倒れかかった。
「アレは果実酒でな・・・アルコール度が50%を越えているんだ」
翌日・・・昼過ぎになって友美は目を覚ました。
「あつつつつ」
頭痛をこらえながら身を起こそうとする。
「あれ?」
自宅とは違う和風の天井が目に入り友美は動きを止めた。そういえば、さっきから左手が何か暖かい物に包まれている。
「・・・・・・」
ゆっくりと視線を左に移すと、同じ布団の中でしっかりと友美の左手を抱きかかえて寝ている冬花が目に入った。
「ひ、ひいっ!」
思わずのけぞると冬花はもぞもぞと身動きしてから目を開けた。
「う〜・・・おはりょうございます〜」
「お、おはよう・・・」
挨拶を返すとようやく記憶が戻ってきた。そういえば、昨日はここに泊まったんだっけ。
のろのろと起きあがる冬花を見届けてから自分も立ち上がる。
「朝は苦手なんです〜」
などと呟きながらふらふらしている冬花を無理矢理着替えさせ自分も着替えた上で居間へ移動すると、珍しく起こされる前に起きてきた春彦が新聞を読んでいた。
「おはよ・・・」
「おはよう」
冷静な答えに溜息をつく。この男はいつだって冷静だ。あたしが動揺してるときだっていつもいつも冷静だ。
「冬花の件・・・結論は出たか?」
問われて思い出した友美は春彦をじっと見つめた。
「・・・わかったわよ。冬花さんがここにいることに異存はないわ。行くところもないみたいだし」
ちょっと息を吸ってから友美は一気に残りの台詞を言った。
「ただしっ!あたしもここで暮らすからね!あんた達だけじゃ無茶苦茶な生活しかねないもの!びしっとチェックするからそのつもりでね!」
「ああ・・・冬花もそれでいいな?」
「はい!」
春彦の呼びかけに弾んだ声が変える。
「友美ちゃん、私嬉しいです!仲良くして下さいね!」
「ん・・・こちらこそよろしく・・・」
手を握られた友美は相変わらず赤くなっている顔でそう答えた。
「じゃあ、お祝いに特製シロップ2号でかき氷を・・・!」
「・・・アルコール無しの奴にしてね・・・」
やたらと嬉しそうな冬花に、友美は小さな声で呟いた。