「うん・・・うん。そう・・・でもね、葵ちゃんの《力》は悪い力じゃないよ。それは、保証する。それにあたしもついてるでしょ?心配しないで」
龍麻は携帯電話越しに葵に言葉を渡し、いつもよりやや優しげな笑みを浮かべた。今日はジーンズにTシャツ、その上に羽織った薄手の春コートという格好である。
「あはは、そうだね。うん、どういたしまして。じゃあまた、学校でね」
日曜の午後、渋谷区の片隅でガードレールに腰掛けていた龍麻はそう締めくくって電話を切った。
「さて、と。おまたせ、雷人くん」
「・・・ああ」
その傍らに立っていた雨紋雷人はやや所在無さげに頷いた。
唐栖との戦いの後、真神メンバーとは何度も会って話をしたり旧校舎に潜ってみたりはしているものの、今日は二人きりだ。勝手が違う。こころなしか龍麻の表情が常より女らしい気すらする。
「オレ様だけに用ってのは・・・なんか、穏やかじゃねぇな」
「ん・・・京一と小蒔ちゃんは直情型だし葵ちゃんと醍醐くんは真面目すぎるからね。結局、君が一番バランス取れてるのよ」
龍麻はひょいっと立ち上がり、やや長身の雨紋を見上げた。
「それに・・・やっぱり彼のことはまず君に話すべきでしょ?」
「!?・・・唐栖のことか!」
思わず叫んだ雨紋の唇にぴっと人差し指をあてて龍麻はウィンクを投げる。
「あんま大声出さない。ただでさえ雷人くんの声はよく通るんだからね」
「あ、ああ・・・すまねぇ、センパイ」
口に触れる柔らかな指先にどぎまぎしながら雨紋は謝った。
「ん。いい子。とりあえずついてきてね」
龍麻は先に立って歩きながら空を見上げた。朱と黒の眼差しの先には抜けるように澄んだ空が広がっている。
今日は、天気が良い。
「・・・唐栖亮一が発見されたわ。とりあえず命に別状はないそうよ。あれからの1週間ちょっとをろくに飲み食いせず過ごしてたらしいから元気というわけではないでしょうかど」
淡々と言ってくる龍麻の背を雨紋は不審げな顔で追った。
「発見されたって・・・誰が見つけたんだよ。警察か?」
「あたしの仲間よ。いろいろあって、それだけしか言えないの。ちょっとした組織と繋がりが有る・・・それだけ、認識しといて」
「・・・了解」
それで納得したわけじゃないと言外ににじませながらもそう答えてきた雨紋にありがとうと答えて龍麻は喋り続ける。
「警察の話が出たところで確認しなくちゃいけないんだけど・・・能力者犯罪を警察は裁けない。警察は人間の理の中でのみ動くものだから、人間という枠組みを外れたあたし達が犯した罪には対応できない」
「・・・鴉を操って人を殺したなんてのは・・・確かに信じては貰えないだろうな・・・」
「そう。だから能力者の罪に対する罰を決めるのは難しい。あたしと君が最初に会った時言ったでしょ?彼の『天罰』に対してあたしは『人罰』を下すってね。結局能力者犯罪への罰は本人の自戒か他の能力者による私刑しかないわけよ」
それきり口を開かず歩く事、十数分。
「さて・・・唐栖亮一は9人の人間を殺した。その稚拙な思想のもとに、彼の能力で。その罪を知っているのはあたし達だけ」
たどり着いたのは、今は使われていない教会であった。ところどころに穴の開いた建物はむしろ廃墟と呼んだ方が相応しい佇まいである。
龍麻は言いながらその扉を押し開けた。ギシギシと軋む音を立てながら、四角く切り取られた室内の風景が雨紋の目に映る。
「君は、どう裁く?雨紋雷人」
「っ・・・」
そこに、友は居た。そして、その眷属たちも。
外装と同じく朽ちた室内のそこかしこで羽を休めるカラスたち。そしてその中心で座り込む少年。
「唐栖・・・!」
思わず駆け寄った雨紋にカラス達は一瞬だけ羽根を広げ、数秒して再度静まる。
「おい・・・から・・・す・・・」
揺さぶられるままに首を前後に振る唐栖に雨紋は呆然と呟いた。為すがままに上を向いた黒衣の少年の目に、光は無い。
「た、龍麻サン!これは・・・!」
「唐栖は自らを裁いた。発見された時には既にこの状態だったそうよ。連れ出そうとすると周りのカラス達が襲ってくるので仕方なくこのままに」
そう語る龍麻は教会に足を踏み入れていない。彼女の侵入に対してもカラス達は反応してしまうのだ。
「道は3つあるわ。このまま放置し、彼の自罰に任せるのがひとつ。彼にここで確実なトドメを刺し人罰を完了するのがひとつ。そして・・・助けるのもひとつの道」
「助ける・・・?」
雨紋は戸惑いの声をあげた。見つけられないかもとは思った。場合によっては殺すことも決意してはいた。
だが。
「全ては覚悟一つ。決断はあなたがしなさい。その後のことは・・・あたし『達』でしましょう?」
「・・・オレは」
見下ろせば、やはり動かぬ、抜け殻のような唐栖の姿。
「オレは・・・もう、あンな思いは・・・したくない」
「・・・・・・」
黙って聞いていてくれる龍麻に、雨紋はポツリポツリと喋り続けた。
「もうあンなのはたくさんだ・・・今ここに助けられるヤツがいるなら・・・助けたい」
かつて自分を慕ってくれた幼い想いに応えられなかった、それは記憶。
「唐栖はやっぱり、オレの、ダチだと・・・思う。死なせたくない。オレは、そう思う」
龍麻は左目を細めた。まぶたの上を軽く撫で、それから小さく微笑む。
「わかったわ。助けましょう・・・あなたのお友達を・・・」
そして、ゆっくりと教会へと足を踏み入れた。カラス達はその気配を感じ取り一斉に飛び立ち龍麻に襲い掛かる。
「龍麻サン!」
「・・・大丈夫」
駆け寄ろうとした雨紋を制し、龍麻はカラスの群れへすっと手を伸ばした。
「クゥ・・・?」
微笑みに、カラス達は戸惑いの鳴き声を漏らし。
「おいで。わかってるでしょ?」
「・・・・・・」
穏やかな呼びかけに、そのうちの一羽がすっと龍麻の腕に舞い降りた。他のカラス達も鳴き声一つ立てずに元の場所へと戻っていく。
「おい龍麻サン・・・どういうことだよ。唐栖がこんな状態なのにそいつら、操られてンのか?」
その問いに龍麻は首を横に振った。座り込んだままの唐栖の前にしゃがみ、その顔を覗き込む。
「こっちは、抜け殻よ。生きてるだけ。唐栖亮一の意識はまどろみながら拡散している。この子達の・・・カラス達の中に」
「な・・・なんでそンなことわかるンだよ」
「あの時見た唐栖の氣がこの子たちから感じられるし・・・何より、あなただけが・・・彼の唯一の『友達』であるあなただけがここへ迎え入れられたことがその証拠」
ね?と視線を向けられたカラスは無言のまま首をかしげる。
「だから・・・目を覚ましなさい。唐栖亮一。わたくしが、命じます」
「?・・・龍麻サン?」
その声は、付き合いの浅い雨紋にさえわかるほど異質だった。
凛と伸ばした背筋、静かな声。それは断じて常の彼女ではなかった。
『緋勇龍麻』ではない誰かが、そこに居る。
「ふふふ・・・成る程。なかなかに奥が深い女性なんだね・・・代行者」
「唐栖!?」
そして、唐栖亮一はゆらりと立ち上がった。
「お、おまえ・・・」
「しかし、演技過剰じゃないかな代行者?それほど雷人に自分を印象付けたいのかな?」
含み笑いと共にそう言って軽くよろめいた唐栖を雨紋は慌てて支える。
「大丈夫なのかよ!?おまえさっきまで・・・!」
「僕としてはあのままカラス達と共に空へ還ろうと思っていたんだけどね・・・どうやら彼女はそれを阻むつもりのようだよ」
「・・・あなたに、精神的な自殺などされるわけにはいきません。雨紋雷人の意を、違えるわけには、いかないが故にです」
応える龍麻の静かな声に雨紋はますます混乱を深くする。
「龍麻サン・・・あんたどうしちまったンだ?呼びかけただけで唐栖が元に戻るなんて・・・」
困惑の声に唐栖は苦笑に近い笑みを浮かべた。
「種明かしは簡単だよ雷人。今、この教会は強力な結界で包まれている。さっきの代行者の台詞と同時にね。能力の行使を妨げる結界・・・弱りきった僕では、《力》が維持できなかっただけだで・・・代行者自身の《力》ではないのさ」
区切り、視線を龍麻へと向ける。
「今の君はさしずめ龍の巫女といったところかな・・・?」
「ええ。禽の王と相対するには、こうあるべきと判断しました」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ龍麻サン!何がナンなのかオレにもわかるように・・・」
心理的な置いてけぼりを食らって怒鳴る雨紋に龍麻は自分の頬に手を当ててすっと小首をかしげてみせた。その優雅な仕草に少しどぎまぎする
「そうですね・・・わたくしとしては、わかりやすい奇跡で済ませたかったのですが・・・彼がそこまで知っているのならば、あなたにもご説明さし上げたほうがいいでしょうね」
龍麻はそこまで言って微笑んだ。その笑顔の奥に何があるのか。それはどうにも読み取れない。
「彼ら・・・真神の4人には公言無用に願いますが・・・わたくしには自分というものがございません。普段真神の緋勇龍麻であるものは戦闘指揮官であり格闘士であるわたくし。それが嘘というわけではございませんが、全てでもないのです。そして今、ここに居るわたくしは龍の意を代行する者としての側面が強い・・・それだけのことです。別段騙すつもりではありませんよ」
「龍の意・・・?この前言っていた・・・龍麻サンの、いや・・・あンたのバックにあるっていう組織の事か?」
雨紋は混乱する頭をとりあえずわかることだけに振り分けて情報を整理する。この辺りの冷静さが龍麻が彼を高く評価する所以だ。
「そう取っていただいて結構です。色々と事情がありますので曖昧な表現が多くなり申し訳ございませんが、わたくしは今、この東京を護ろうとする意思の一端としてここにいます」
唐栖の顔を覗き込むようにして龍麻は続ける。
「故に、わたくしの判断はわたくしどもの総意とおとりください。唐栖亮一・・・死ぬ事を封じられて、あなたはこれより先、どう生きるつもりですか?」
「・・・僕は今、どうなっているのかな?」
唐栖は雨紋の手を離れ、やや危なげな足取りで歩き出した。教会の奥に掲げられた十字架のもとへと向かう。
「皮肉な話ですが、あなたの公式な扱いはカラスに襲われて死亡、死体は残っていないということになっています。家族の方により、葬儀も行われました」
「ふ・・・その状況、君の差し金でないとどう証明するんだい?」
「逆ならば出来ますが?そもそも死体が見つかっていないのに死亡認定がおりるというのがおかしいのですから、今からでもなんとか元の生活には戻して差し上げられます」
龍麻の言葉に唐栖は十字架をバックに振り返った。
「ありえない選択肢をあげても二択にはならないとおもうのだけれどね・・・代行者。君が思っているとおり、僕はまだ、人間を嫌悪している。僕自身を含めて、人間はどうしようもない生き物だ。自然から奪うだけ奪ってなにも返そうとはしない・・・自然の連鎖に全く貢献しない無駄な存在だとしか思えない。今更、人の間でなど暮らせるはずないだろう?僕は既に役目を終えた存在だ。もう、終わっているんだよ」
「・・・唐栖。それは違うンじゃねぇか?」
不意に、雨紋は口を開く。
「どう違うというんだい?雷人。人間は自然に・・・世界に何かしてやれているというのかい?」
「そンなのはわからねぇよ。でもな、唐栖。だからってそれで終わりってンじゃねぇだろ。そこで諦めてないから、おまえだってこんなこと始めたンじゃねぇのか?」
それは唐栖亮一という魔人の矛盾。人を嫌悪しながら人が償う為の道を作ろうとした者の。
「オレは思うンだがな、唐栖。手段を選らばねぇで人を救おうなンてのはただ楽してるだけだじゃねぇのか?」
真っ直ぐな目で自分を見すえる雨紋を黒衣の禽使いは見つめ返す。
「汚れて堕ちて生きていくのは簡単だ。だがな、心まで堕ちなきゃ、希望ってヤツに飛んで行ける翼を持っているんだよ・・・人間ってのはな。オレは、そうやって生きてきたつもりだ」
浮かぶのは、ベッドに伏せる少女の記憶。
「昔・・・オレがまだガキだった頃。オレに懐いてた子が居た。そいつは生まれつき体が弱くてよ、家より病院に居る時間の方が長いくらいだった。幼馴染だったあいつは・・・オレのこと、好きだって言ってくれた初めてのヤツだった」
それは、今まで誰にも明かした事のない過去だった。悔いしか残らない、だがそれ故に今の雨紋雷人の中心にある想い出。
「オレはその頃からギター弾いててな。アイツの想いにオレは答えとしての歌を作って・・・病院から戻ってきてたアイツをライブに誘った」
「彼女は、それを聞いてなんと?」
横から尋ねたのは龍麻だ。目を伏せ気味に、雨紋の傍らに立つ。
「・・・アイツは俺の歌を聴けなかった。ライブ当日、急な発作であっさり逝っちまった。玄関で、オレが渡したチケットを握ったまま、とっておきの服でよ」
涙は出ない。安っぽい感情は、自分勝手な感傷はもう捨てた。
「あいつの最後の言葉は二つ、『ありがとう』と『ごめんなさい』だったらしい。何に対してかはもう予想しか出来ねぇけどな・・・それでも、死ぬ間際にそんな事言えるヤツがいる。それを知っているから・・・」
視線の強さに唐栖は思わず目をそらした。人間的な感情から逸脱したつもりの自分にそんな弱さがあることに改めて苦い笑みを浮かべる。
「あいつがオレの中に居る限り・・・唐栖!オレは人間を見限ったりはしない!あいつが見せてくれた優しさが全ての人間の中に眠っているのを・・・信じてるからな!」
禽を従えた少年と龍の意志を纏う少女はそれぞれが失った命を胸に俯いた。
「わたくしは、彼の意思は尊いと思います。緋勇龍麻は彼と仲間になれたことを、こころから喜んでいます・・・」
シャウトにも似た力強い叫びの余韻に身を任せ、龍麻は静かに言葉を紡ぐ。
「あなたは、どうします?唐栖亮一」
ゆっくりと、穏やかに問う。
「わたくしには、あなたを迎え入れる準備があります。その卓抜した情報収集力を、わたくしたちの戦いに貸してはくれませんか?」
唐栖もまた、穏やかに笑う。
「人殺しを仲間に入れようって言うのかい?雷人はともかく、真神の仲間達が黙っていないと想うけどね」
「ええ。ですが、あなたを欲しいのはわたくしです。ふふ・・・雨紋君も、でしょうか?馬には、蹴られたくないものですけどね」
「ちょ、待て龍麻サン!なんかその言い方妙な含みが・・・」
慌てて割り込む雨紋に龍麻と唐栖は同時にニッコリと笑って見せた。
「大丈夫ですよ、雨紋君。わたくし、趣味嗜好には寛容ですから。お手伝いも得意ですし」
「ふふふ・・・雷人。僕と逝こうか・・・あの・・・空へ・・・」
「だあぁあああっ!変なゆとりを見せるンじゃねぇよ龍麻サン!って唐栖!おまえも不気味な笑みを・・・やめろ!よってくンな!いや、だからって龍麻サンも何をさり気無く距離詰めてきてンだよ!」
じりじりと近づく唐栖と龍麻に、若い悲鳴が教会を満たし・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
硬直した雨紋を挟み唐栖と龍麻は視線を交わす。
「・・・あたしは、無意味に人を殺したあんたを許さない」
「・・・ああ。許されようとも思ってはいないさ」
「逃がさないわよ?」
「逃げはしないよ。人間という生き物がどうなっていくのかを見極めるまで・・・」
死を背負った男女が三人。壊れかけの教会で契約を結ぶ。
「その代わり、もしも人間が・・・その代表の君達が何も変えられなければ、そのときは僕が君達を殺す。僕自身の命と引き換えに、この国の全ての眷属を目覚めさせてね」
「ンなことはさせねぇ。する必要もねぇ。オレ様達で、変えていくンだからな」
友に戻った少年達のじゃれ合いとも呼べる牽制の仕合に龍麻は・・・多くのものが知る『緋勇龍麻』に立ち戻った龍麻はくすりと笑う。
手段を選ぶ気がないのは事実だ。だが、それ以前に彼女は唐栖を死なせたくなかったのも事実。
「よしよし、仲良くするんだぞー」
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ龍麻サン!俺はこンなヤツと・・・」
「ふふふ、照れなくてもいいじゃないか雷人。僕はいつでもOKだよ・・・」
「刺すぞ唐栖っ!何がOKなんだ一体ィ!」
「あらあら、女の子にそんな事いわせちゃ、だ・め・よ?」
「コイツは男だぁっ!」
「違うよ」
「そうか、違ったのか・・・違うかぁぁぁぁっ!」
「をを、雷人くん、ナイスのりツッコミ」
教会の周囲に配置してあった術者達が去って行く気配を感じながら龍麻は笑う。今日も、いつものように笑う。
否、いつもより少しだけ晴れやかに。
雨紋雷人が。緋勇龍麻の仲間たる宿星を持つものが、こんなにも楽しそうに笑っているのだから。
「では、僕は代行者の提供するねぐらに待機しているよ。君たちの周りにはこの子達をつけているから用があったら呼ぶといい」
「大人しくしてろよ唐栖。あんま出歩いていたりするンじゃねぇぞ」
ぶっきらぼうを装って言ってきた雨紋の台詞に唐栖は重々しく頷いてみせる。
「大丈夫だよ雷人。単身赴任の夫の帰りを待つ若妻のように大人しく待っているからね。ふふふ・・・」
「待つんじゃねぇ!」
「妻の部分、否定しないんだ・・・」
龍麻のツッコミに笑いながら唐栖は肩に乗ったカラスを撫でる。
「では、また会おう」
そして、龍麻の呼んだ車の後部座席に乗り込んだ。ドアが自動で閉じ、静かなエンジン音と共に去って行く。
「・・・あいつ、ほんとに大丈夫なのかな・・・」
静かに呟く雨紋に龍麻は首を振った。
「彼次第としかいいようが無いわね。あたしと組織はこれ以上人間を狩ろうとしなければ手出しする気はないしちゃんと働いてる限り生活も保障する。でも根本的に、あたし達の側も人殺しなわけよ。人の世を脅かそうとするなら・・・二回目は無いわ。次は、殺す」
「・・・・・・」
容赦の無い台詞に神妙な表情をした雨紋の肩を龍麻はぽんっと叩く。
「そんな顔しない。そうしない為に雷人くんが頑張んないとね。今、唐栖にとっての人間世界はキミしか接点が無いんだから。たまに会いにいってね〜」
ヒラヒラと手を動かして歩き始めた龍麻の後を雨紋は半歩遅れて追いかけた。
「・・・なぁ龍麻サン。俺の勘違いじゃなきゃ、あンた・・・唐栖のヤツを最初から仲間に入れるつもりだったように見えるンだけどな?」
問いに、苦笑ひとつ。
「根拠は薄いんだよね。あいつが人の命を軽視した馬鹿外道だってのは間違いないし・・・でも、襲われたのはあいつを探ろうとしたジャーナリストとか、キミの忠告を護らなかったヤツとか・・・ギリギリ自衛かなって範囲だったしね。人を殺したからって理由で人を殺すのも嫌だったし」
死なれるのも、死なせるのも、既に経験しているけど。
「直せるものは直せばいい。既にやりなおしであるこの世界に於いては、どれだけの手を講じても十分って事は無いの。獣と禽の暗示・・・二人、魔人が現れると聞いた瞬間から考えていた事なのよ。よっぽどの腐れ外道じゃなければ、あたし達の側に引っ張り込もうってね」
「で、オレ様と唐栖が捕まったってわけか・・・」
なんとなく雨紋が呟いた台詞に龍麻はピョンっと振り向いた。
「てへへ・・・げっちゅー」
「いや、げっちゅーじゃなく・・・腕に抱きつくンでもなく・・・」
悪戯な笑みで密着してくる龍麻の誤魔化しを感じながら雨紋は息をつく。
「いいさ、オレ様も見極めさせてもらうからな・・・あンたらの事」
「ぃやん。えっち」
「そういうのじゃねぇっ!」
「とか言っちゃっててもこっちはアソパソマンくらい勇気リンリンなのでした。まる」
「変なモノローグ入れるんじゃねぇ!お、押し付けるな!擦りつけるな!おわ、う、うぉおおおおおっ!?」
それが、語られざる後日談。
第四話 追の幕 「蒼の空」 閉幕
第五話 序の幕 「ユメノトガビト」 開幕