(言い訳) 2004年冬コミか2005年大阪 発売予定だった…
が、間に合わなかったので、ココに掲載〜
『心の花 魂の色』
『マジック フラワー』
そう呼ばれるものが、今、世界中で流行っている。
それは元々森の中で偶然発見されたもので、大戦の後、商品化され、
ほぼ口コミで、各地に広がっていったのだ。
それは ぶっちゃけ、『とある植物の種』である。
『マジック フラワー』と言うネーミングから、マジックアイテムのようにも思えるが、
そういった方面では、なんの役にも立たない。
しかし、ただの種がそんなに流行るわけが無い、流行る訳はその特性にある。
まず、その種は、魔法力を込めなければ、発芽しない。
発芽したところで、それだけでは終わらない。
芽が出て、花を咲かせるまで、手も気も抜くことが出来ない。
何せ魔法力を込めた水を与えつづけなければ、すぐに枯れてしまうのだ。
流行の理由は、それだけ手間隙かけた結果にある。
その植物の最大の特徴は、与えられる魔法力によって、葉や花の形状や色、
香りなども変化するのだ。
つまり、それを育てた人の魔法力によって、その人だけの花を咲かせるのである。
同じモノは、まず、一つとしてない。
自分を忠実に表現してくれる花として、女性を中心に広まっていった。
最近では、男性も丹精こめて育てた、自分だけの花を、想う女性へのプレゼントや
プロポーズの決め手として贈ることが定番となり、育てている者も多い。
より美しい花を咲かせるために、女性たちは競って花を育て、楽しんでいる。
果ては、「マジックフラワー入門編」から「完全攻略本」、「マジックフラワーコーディネーター」まで出てくるほど、
世界が平和になったことも手伝って、ちょっとしたガーデニングブームである。
そして、ここ、パプニカも例外でなく、女性を中心にガーデニングが大流行である。
マジックフラワーを育てるのに、大きな魔法力は必要ない。
ほんのちょこっと込めればよいので、魔法を実際発動させることが出来ないものでも育てることができる。
国民は無論、レオナや三賢者のマリンやエイミも育てていたし、今はロモスに帰っているマァム、
テランのメルルも、自分の育てた花を持ち寄って、お互いに見せっこしていた。
今日もレオナは、自分の自慢の花畑に水遣りに来ていた。
本来なら、一国の姫様が花の水遣りなど考えられないが、その花の特徴故、自分でやらなくては意味が無い。
側近や大臣たちはとやかく言うが、元々そんなことを気にするレオナではないし、何より
自分が大切に育てた花が、綺麗に咲くのは嬉しいし、こういった時間は、良い息抜きになる。
自然と上機嫌になり、レオナは鼻歌交じりに水をやっている。
「どうしたの、レオナ? すごく楽しそうだね」
不意に、声をかけられて、そちらを向いた。
その声の主を見ても、レオナは上機嫌だ。
「あら ダイ君。 お勉強は終わった?」
「うん、今日のは終わったよ」
少しゲンナリとした表情で答える。
これも彼のご愛嬌だ。
レオナはクスリと笑って、
「そう、お疲れ様。 コレが終わったらお茶にしようと思っていたの。 もうすこしだから、待っててくれる?」
「うん」
ダイがひょっこり帰ってきてから、もう半年になる。
ダイがいなかった間は、こんな、花を育てる余裕なんて、ちっとも無かった。
レオナにとって平和は、ダイが帰ってきてから訪れた。
彼女にとって、この花は平和の証でもあるかもしれない。
「そういえばダイ君、 ポップ君も呼んできてくれる?」
「!」
「ポップ君も一息つく頃じゃないかしら? 一緒にお茶にしましょ」
「それがさ… さっきポップのトコ行ったんだけど… いなかったんだ」
「え? 何処行ったのかしら? 何も聞いてないけど」
「俺もだよ、でもポップ… 最近、…よく居なくなるんだよ。 すぐ帰ってくるけど」
「ふぅ〜ん 今度聞いてみようかしら、それとなく」
ダイは、失敗した、と苦笑した。
レオナの言う『それとなく』は言葉の意味のままでないコトは、よく解っている。
今度ポップは、きっとレオナに問い詰められることだろう。
自分から聞いた、とはレオナが言わないことを祈るばかりだ。
ポップからの仕返しも、それはもう、恐ろしいものだから。
ダイとレオナが中庭から戻ってくると、先客が居た。
「ダイ! レオナ!」
「「マァム!」」
マァムはテラスに用意されたオープンチェア―で、先にくつろいでいたようだ。
2人の姿が見えると、手を振って、駆け寄ってきた。
「うふふ、 レオナ、この間の、花を咲かせたの! 嬉しくって、すぐに持って来ちゃった」
「ええ!本当!? 見せて見せて!」
「今回のは自信があるわよ〜」
このような会話は、ココのところ女性の間では良く交わせられる会話となっていた。
マァムが持ってきた自慢の『新作』を披露する。
「わぁ…」
「まぁ、素敵じゃない!」
花のコトはよくわからないダイも、素直に感嘆の声をあげる。
マァムの花は、小ぶりながらも美しい赤い花だった。
幾重にも重なった薄い花弁は、それ一枚一枚が光を放っているかのように瑞々しい。
赤い花だが派手でもなく、かといっても地味でもない。
育てたマァムの人柄が溢れるような、暖かな花だ。
一通りマァムの花の鑑賞すると、今度はレオナの花畑を見に行き、
お互いの花の育て方談議を繰り広げている。
ダイは少し後ろで 2人を見ていたが、その会話にはあまり参加できそうになかった。
「そういえば ダイは育てないの?」
「えっ!?」
急に話を振られて、うろたえる。
「ダイは育ててレオナにプレゼントとかしないの?」
「ええっ?!」
「あ、でも 男の子はあんまりお花に興味ないかな…」
マァムの言葉に、レオナはプッと思い出し笑いを堪えた。
マァムは 首を傾げる。
「…実はね、ダイ君にも育てて欲しくて、…前に種をあげたことがあるの」
「そうなの? で、どうだったの?」
「…… 種に魔法力込めたら… ………焦げて、燃え尽きちゃった…」
ダイが エヘヘ… と照れ笑いをしながら答えた。
マァムは 唖然となった。
ダイには、発芽する程度の微弱な魔法力を調整して込める、というものが不可能だった。
育てるどころか、魔法力が強すぎて、発芽する前の種を、ローストしてしまうのだ。
不意に、レオナが思い出すように話し出した。
「そう言えば、あの時、ポップ君にも種をあげたわ。 『男が花なんて育てるかよ』って返されたけど…」
それでも 首をひねり、記憶をたどるように話を続ける。
「でも 返された袋… あげたときよりも軽かったような…。もしかしてポップ君、少し袋から取り出したのかも…!」
レオナは、納得したように頷き、両手拳を握って言い切った。
「間違いないわ!ポップ君も隠れて育てているのよ! 最近よく居なくなるのはそのせいだわ!」
何処に確証があるか、は目の前の2人には非常に疑問だが、レオナはすこぶる嬉しそうだった。
(つづく)