「あぁ・・・この風景、思い出したわ。――行き先は黄金の島・・・・・・そうでしょう?」
「考古学者にはわかると思っていた」
それにしても、と彼女はを見る。
「あなたの能力は何?」
単刀直入に聞かれたは目を見開き、それから可笑しそうに笑った。
「これは生まれつきなんだ。別に悪魔の実を食べたわけじゃない」
故意に入れられた遺伝子のせいなのだとは続ける。
「故意に入れられた遺伝子?」
「遺伝子って、親から受け継ぐ――あの、遺伝子?」
サンジの問いかけには頷き、それから前方を指差した。
「あそこに見える島――あれに船を着けてもらえる? あれが私のアジト」
黄金の眠る・・・ね。
は言葉に出さずに呟く。
「スゲェなぁー」
ルフィは叫びながら船を下りた。それにつられるように、ウソップとチョッパーが下船する。
「私は譲り受けた場所で、巨大な都市を見た。真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)に書いてあったとおり、地下都市はそのまま状態で保存されていたんだ」
ロビンの左手にナミ、右手に。この3人以外のメンバーたちは、各々に近くを探検している。
は船をおりずに彼女たちに語り、彼女たちと一緒にはじめの一歩を踏み出す。
「この島に来たものたちを時には殺してきた。私は、地下都市を守りたいんだ」
は目の前に広がる光景を見やった。両手を組みながら見たそれは、一人でいたころでは考えられない。
「私の家は森の奥。迷子になるからしっかりついてきて」
が言えば、ロビンとナミはウロウロする他のメンバーたちにため息をつく。
「みんな、集まって!」
大声をあげれば、真っ先にサンジがやってくる。
「はぁ~い、何ですか、ナミさん」
目をハートにしてやってきたサンジの口元には煙草。煙は勿論ハート型だ。続いてチョッパーとゾロ。ウソップはルフィのお守りで右往左往している。
「ルフィ、ウソップ! 何やってるの!?」
なかなかやってこない二人に、怒り心頭のナミ。それを楽しそうに見やったロビンは、ハナハナの実の能力を発揮しルフィの体を絡めとり、自分たちのところへ強制送還した。
「まったくアンタたちはいい加減にしてよね!」
ナミは呆れたように言い、皆に告げた。
「ここから先はの指示に従うのよ。この森を無事に抜け出したかったらね!」
「はぁ~い、ナミさん」
「わかった」
「――・・・・・・」
サンジは軽く返事してにっこり笑顔。チョッパーは生真面目に頷き、その二人の後ろで立つゾロは無言。
「もし迷子になっちまったらどうするんだ?」
「もし、なんて言葉はない。ここはそういう森。『生』か『死』か。あるのはこの二つだけ。死にたくなかったら私から離れないこと」
それにサンジの笑顔が消え、ゾロの表情がいっそう硬くなる。チョッパーは怯えたようにを見上げている。質問したウソップは顔面蒼白で「持病の森の中に入ってはいけない病が・・・」などと呟いている。
「シシシシシッ」
そんな重い空気の中、ルフィだけが嬉しそうに笑う。
「楽しみだなっ! よぉーし、行くぞー!」
走り出しそうな勢いのルフィに、ナミの拳骨が炸裂する。
「さっきの話を聞いてなかったの、アンタは!」
「彼女の言うとおりにしておいた方がいいわ。この『黄金の島』の別名は『死する島』。この森を抜けるには、それなりの地理が必要なの」
「さすがロビン、よく知ってるわね」
「一度だけ来たことがあるわ。けれど、探索に行った人たちは・・・誰一人として帰ってこなかった」
だから気づいたのよ。ここは人を寄せ付けない、まさしく『死する島』だって。
ロビンはそう言ってを見やった。は自力でこの森を抜け、屋敷へたどり着いた。彼女以外にもそこへたどり着いた人物は幾人もいただろうが、その下に眠るモノまでは見つけられずにいた。それは、彼女の指にある能力と関係があるのだろうか。
「私の家へ案内する前に、注意しておく。森の中にあるものには手を出さないこと。植物にも動物にも。手を出せば、自分の命はないと思ってくれて良い。――それほどここは危険なところなんだ」
メンバーの顔を見渡して返答を待つ。全員の了承を受け取ったは「行こう」と皆を促した。
その森は、が言うとはかけ離れたところだった。怖い雰囲気は一つもなく、穏やかだ。吹く風は心地よく、日向で寝転がれば熟睡できそうだ。
見たことのない動物たちもいたが、襲ってくる気配はない。
果実もたくさん実っていて、それに手を出しても良いというならば、間違いなく贅沢な食事が出来ただろう。サンジは見たこともない果実に目を輝かせている。
「なぁ、。あれはいったい何?」
一番前を歩いていたのところまで早足で歩き、サンジは真横に並んで目前に見えてきた木になっている果実を指差す。
「あぁ、あれは林檎。だけど、食用じゃない。あれには多大な毒が含まれていてね、一口でも食べれば死ぬよ」
「見た目があれじゃあ、間違えて食べる人間もでるだろうな」
サンジの後ろにゾロがのっそりやってきて、二人の会話の間に入る。その意図に気づいたサンジが「ちっ」と小さく舌打ちし、それでもその場所を動くことはせずにいる。
「まあね、良く見ると、そのヘンにゴロゴロと骨が転がってるから注意して。ここで疲れたなんて座り込めば最後、襲われるからね」
「へぇ、そりゃまた見た目とは違う難儀な場所だなァ」
顔は前方へ向けたまま、視線だけを左右へ動かせば、白いものがところどころに落ちているのが見えた。それがの言うところの『食用にされた骨』なのだろう。
彼女は立ち止まらずに背後を振り返る。ウソップもルフィも、今のところ着いてきている。迷えば最後、あの世行きだ。
「あぁ、出口が見えてきた」
「やっと出口か!」
「あぁぁぁぁっっ長かった・・・!」
「はぁ、もぉ・・・・・・あんたってヤツは!」
ルフィが叫びながら前へ駆け出そうとするのを、寸でのところで踏みとどませたナミのため息と、ウソップの感激した声が重なり、それにつられるようにチョッパーが顔をほころばせた。
も小さく微笑む。前を向いているから後ろを歩いているメンバーには見えていない。
「うぉぉっ!」
ルフィの大声。
「凄いわね」
ナミの、目を輝かせての感嘆。
「こりゃあ、すげぇ」
ようやく解禁になった煙草を懐から取り出しフィルターを銜えて、マッチを靴底で吸って火をつけながらのサンジの呟き。
「へーぇ」
首を回しながらのゾロの声。
「――こんなに凄いものだとは思わなかったわ・・・」
黄金の島の噂を知っている唯一の人物も、建物を見上げる。
「ここに一人で住んでるのか?」
チョッパーはこの島や建物の凄さよりも、この大きな敷地に一人でいることの方を心配している。
「この下に埋まってるんだよな・・・」
ウソップは驚きに身体を固まらせ、呟きも少々堅い。
建物は一階しかないが、敷地が広い。が言うには、この広さは地下都市の半分だという。距離は測ったことがないからわからないなと苦笑しながらが言えば、距離なんかわからなくても凄いってことはわかると、ルフィは満足そうに笑う。
その笑顔を見つめ、は眩しそうに瞳を細めた。
まさか『名無し』の自分を『拾ってくれる』人ができるとは思っていなかった。何処の誰ともわからぬ自分を、だ。
「中に入ろう。夕方になると少し冷えてくるんだ、ここは」
扉を開き中へと皆を促し、最後の一人が入ったのを確認して扉を閉めた。そして、指先をドアノブに触れさせ目を閉じた。
中では何も変化はないが、外には変化があった。ドアが見えなくなったのだ。それは、ログポースを自在に操ることのできるだからこそ出来ることだ。地軸に干渉し、そこだけに磁力を集中させて皆に錯覚を起こさせるのだ。実際、ドアは目の前にあるのに、だ。
はふぅと息を吐き、中へと入っていく皆の後姿を眺めやった。 |