「俺の声、好きなんだろ?」
低い声が自分の名前を呼ぶのも、喉の奥で笑う声も、舌打ちしそうなほど不機嫌な声も――全部、好き。
けれど、そんなこと……本人を目の前にして言えるわけがなくて。
少しだけ男性恐怖症の自分が、過去を思い出し震えているときも、貴方の声を聞くだけで落ち着くなんてこと、私には言う勇気がない。
手を取られ引き寄せられて、大きな両腕に囲まれて。
緩く囲われた体に触れるのは、少し低い彼の体温。
「俺の声、好きなんだろ?」
再度言われて、私はこくりと頷く。
「声、聞かせろよ。と同じように、俺も好きだ」
背中から伝わる声に、火照った体がぴくりと震えてしまって恥ずかしい。
「す……好き」
「声だけ?」
「意地悪!」
きっとその問いかけと同じような意地悪い笑みを浮かべているに違いない彼の声は、とても楽しそうで。
「今はそれで許してやるよ」
彼独特の、喉の奥で笑う声が、熱い息と共に首筋にかかって、体の奥がざわりとする。
「今度、遠出でもするか。その方が――」
彼の耳元に囁く声が、私の体を熱くする。
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