3.耳元で言ってやろうか?





 
 くくく、と楽しそうに笑うのは彼の癖。
 
 私が彼の低い声に顔を真っ赤にするのもいつものことだけれど、それが毎回、彼にとっては楽しいものみたい。

 なかなか慣れない私に、ローさんは嫌な顔ひとつせず付き合ってくれる。

「ありがとう」と「ごめんなさい」が私の中にあって、どちらも表現できないのがもどかしい。

 強引に閉じ込めて自分しか見れないように……なんて、きっと腹黒のお兄ちゃんと仲のいいローさんなら出来そうだけれども、そうしないのは私のことを考えてくれているからだと思う。

 ローさんへの気持ちが、10分の1でもいいから伝えることができればいいのに。

 勇気のたりない私に、いつも手を差し伸べてくれるローさん。



 名前を呼ぶ、その声が好き。

 私を撫でてくれる、その指が好き。

 何も言わず、静かに見守ってくれる、その瞳が好き。

「……………」

 自分の思考に捕らわれた私は、ローさんの言葉を聞き逃してしまった。

「こっちを向け、

 言われてローさんのほうを向くと、ローさんは意地悪な笑みを浮かべていて。

「ずっとそばにいろよ」

 真正面から言われて、私は思わず顔を真っ赤にして両手で顔を隠してしまう。

 2人きりのときは、そうやって言葉にしてくれる。

 意地悪な表情をするのは照れ隠し……なのかな?

「見てて飽きねぇ」

 喉の奥で楽しそうに笑ったローさんは、私を引き寄せて。



「もう一度、耳元で言ってやろうか?」



 そう低い声で私の耳へ言葉を流して、楽しそうに笑った。






          <わざとやってんだよ> 




       確かに恋だった様 (お題配布サイト)