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七日間の身代金/岡嶋二人

1986年発表 講談社文庫 お35-21(講談社)

 誘拐事件からすぐに狂言誘拐へシフトする本書ですが、その狂言誘拐が二段構えになっているのがポイントで、本来の標的である鳥羽国彦をダミーの犯人に仕立て上げるという計画が秀逸です。また、国彦自身の奇矯な言動が、ダミーの真相を強力に支えているところも見逃せません。

 狂言誘拐が二段構えになっている関係上、小島の密室トリックが完全に“捨てトリック”になっている(作中では千秋と要之助が“解明”していますが、本来の計画では武中和巳の口から語られることになっていたはず)のもすごいところ。そしてまた、密室トリック自体も二段構えになっているところは確かに盲点です。トリックそのものはさほどでもないと思いますが、この使い方はよくできていると思います。

 もう一つの密室トリックもそれほど面白いトリックではありませんが、非常にシンプルでありながら効果的なのは間違いありません。また、犯人自身を密室の中に閉じ込めるという一風変わった使い方がユニークです。

 しかし本書で最も面白く感じられるのは、次々と襲いかかるアクシデントによって、犯人の計画が完全に狂ってしまうところです。まずウェイターの村山英二、次に劇団「泥人魚」の二人が事件に絡み、そのたびに犯人は余計な犯罪を犯さなければならなくなってしまいます。さらに、ボイラー修理のタイミングのずれが致命的で、犯人自身が瀕死の状態にまで追い込まれてしまいます。とはいえ、それによって(一時的に、ではあるものの)容疑の圏外に置かれるという逆説的な状況も面白いと思います。

 アクシデントのせいとはいえ、いくらなんでも殺しすぎ(しかもさらに犠牲者が増える可能性もあったわけで)だと思いますが、それも犯人の異様な心理の表れでしょうか。限りなく死に近づいた監禁の影響もあってか最後には完全に“壊れて”しまっていますが、殺人はあくまでも監禁以前のこと。最後の犯人の告白の中でも、国彦・須磨子の殺害と村山英二らの殺害との語りの温度差が、何とも空恐ろしいものを感じさせます。

2006.06.25再読了

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