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あいにくの雨で/麻耶雄嵩

1996年発表 講談社ノベルス(講談社)

 冒頭の「13章」では、いきなり密室トリックが解明されています。初読の場合にはそれがダミーの解決ではないかという疑問を抱く向きもあったかもしれませんが、いずれにしても犯行の不可能性という“壁”は取り除かれているわけで、仮にそれが正解でなかったとしてもハウダニットとしての興味は無きに等しい状態といえます。曲がりなりにも密室ものでこんなことをしてしまうのが作者らしいといえばらしいのですが、それは当然ながら単に奇をてらっただけではありません。

 獅子丸が「13章」で密室を解いた動機については、烏兎が最終章で“カモフラージュ故に、彼は自分で創った密室を、自分で解いた。だが理由はもう一つある。それは、密室を解く過程で、矢的を犯人に仕立て上げることだ。”(244頁)と看破していますが、これが同行者である烏兎の目を意識したものであることはもちろんです。そして作者は、その「13章」をあえて冒頭に持ってくることで、獅子丸のトリックが読者に及ぼす効果を補強しているのです。

 結果的に、密室を解いた獅子丸が本書の探偵役だと強く印象づけられるのはいうまでもないとして、さらに重要な手がかりとして“木に引っかかった糸くず”が示された上で“ちょうど腰の高さ辺りが裂けた同じ色の同じ生地の服”(12頁)を着た人物が暗示されることで、どうしても読者の興味の焦点は漠然とした“犯人は誰か?”から具体的に絞り込まれた“問題の服を着ていたのは誰か?”へと移ることになるでしょう。つまり、早い段階で読者の頭にダミーの真相(の一歩手前)がしっかりと植え付けられ、まんまとミスリードされてしまうことになるのではないでしょうか。

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 最終章で明らかになる真犯人・獅子丸の心理、すなわち(他の理由もあったにせよ)密かに憎んでいた祐今の身近な人物を殺し、殺人犯である父親を越えるために密室を構成し、さらに自分の信頼を裏切った矢的に罪をかぶせたという真相は、圧倒的な力をもって烏兎を打ちのめします。そのあまりにも辛い真相を自らの手で明らかにしなければならなかった上に、最後には獅子丸に取り残されて雨に閉ざされた廃墟の中で一人座り込む烏兎の姿が、強く印象に残ります。

2007.08.28再読了

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