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螺旋階段のアリス/加納朋子 |
2000年発表 (文藝春秋) |
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夫婦のあり方について
まず「螺旋階段のアリス」に登場する夫婦は、結果的には相互に補い合ったいい夫婦関係だったといえるかもしれません。しかし本来は、この作品のように一方だけが密かに認識するのではなく、夫婦双方がそれを自覚しているべきでしょう。ゲームといえば聞こえはいいかもしれませんが、表面的には一方的に主導権を握っているように見えただけに、夫人にとっては夫の掌の上で踊らされ、知らぬ間にピエロを演じさせられていたようにも思えるのではないでしょうか。 「裏窓のアリス」では、妻に対する夫の見栄が招いた悲劇が描かれています。見栄を張りたくなる気持ちはわかりますが、それにも限度がありますし、妻の方にもまた問題があると思います。知らないことは罪ではありませんが、知ろうとしないことはやはり罪なのではないでしょうか。 「中庭のアリス」で描かれた、マダム・バイオレットの周囲への関心の低さには呆れてしまいます。自分だけの世界、自分だけの幸せ。本人はもちろん何の疑問も持たないのでしょうが、あまりにも薄っぺらいものに思えてなりません。ラストで仁木がとった行動も、決してマダム・バイオレットへの優しさではなく、ことを荒立てないための唯一の選択だったのでしょう。本人に真実を告げたとしても、間違いなく理解してもらえないのですから。そしてそれは、ずっと放置してきた亡夫の責任でもあると思います。 「最上階のアリス」のラストで明らかになった夫人の動機は確かに哀しいものですが、それもまた夫を世間知らずのまま放置してきたツケが回ってきたといえるかもしれません。本人なりに責任を取ろうとしたのは確かかもしれませんが、その責任の取り方が、面倒を見きれなくなったペットを保健所へ送る飼い主、あるいはわが子を巻き込んで無理心中を図る親と同レベルであるということは忘れてはならないでしょう。 “そのままでいてほしい”という気持ちはわからないではないのですが、やはりある種のエゴイズムであるように思えます。その意味で、「アリスのいない部屋」での仁木夫婦の関係に最も好感が持てます。夫は妻の変化を受け入れようとしていますし、妻は夫に“そのままでいてほしい”と願いつつも、それが勝手な願いだと自覚しているのですから。 2002.02.04読了 | 黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト/作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.35 > 螺旋階段のアリス |