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殺人者は21番地に住む/S=A・ステーマン

L'assassin habite au 21/S-A. Steeman

1939年発表 三輪秀彦訳 創元推理文庫212-1(東京創元社)

 一人だと思われた犯人が複数であり、その錯誤を利用してアリバイを確保していたというのは、古典としても陳腐な“双子トリック”に通じるところがあり、そこだけ取り出してみるといささか拍子抜けの感がないでもありません。しかしながら、犯行の手口を共通させるとともに、〈スミス〉と記された名刺を現場に残し続けることで、〈スミス氏〉という架空の単独犯を強く印象づけているのが、本書のトリックの最大のポイントといえます*1

 そしてまた、三人の“犯人たち”による相互保証を利用することで、全員が一度は容疑者となった後に罪を免れるという計画は、存在が隠されることによって成立する“双子トリック”とは一線を画しているといえるでしょう。そして、一見すると単にコリンズ氏と同様の“僥倖”を期待していただけのような、“わたしは待っているのだ。(中略)〈スミス氏〉が十件目の犯罪を犯すのをね”(163頁)というハイド医師の言葉が、真相を踏まえるとだいぶ意味を変えてくるのもうまいところです。

 さらに、三人の“犯人たち”それぞれに当てはまる解釈が可能な、“il b”という“ダイイングメッセージ”も周到。そしてそれを残すために、すなわちフランス語を話すという理由でジュリー氏が殺されたという前代未聞の動機*2が何ともいえません。

 真相に気づいて〈スミス氏〉に命を狙われることになったクラブトリ氏の、“三人を逮捕してください!……〈スミス氏〉は一人じゃありません……三人の男なのです!”(248頁)というただ一言で、ほぼすべての真相が明らかにされる鮮やかな演出が実に見事。しかも、〈スミス氏〉の手を逃れようとしたクラブトリ氏の目論見がたびたび妨げられたのが、残る二人の〈スミス氏〉の仕業だったというところも非常によくできています。

*1: しかし、どういう経緯で三人が組んで犯行に及ぶようになったのか、といったあたりが解決場面でもすっかり置き去りにされているのが、何ともフランス・ミステリらしいといえるかもしれません(これも殊能将之氏の2001年9月25日の日記を参照)。
*2: 本書でロンドンが舞台とされている理由の一つに、非フランス語圏とすることで動機を際立たせる狙いもあったのではないかと考えられます。

2000.06.11読了
2010.05.03再読了 (2010.06.07改稿)

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