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大密室/ボアロー/ナルスジャック

Repos de Bacchus/P.Boileau
La mort est du Voyage/T.Narcejac

1938/1948年発表 松村喜雄訳 幻の探偵小説コレクション(晶文社)
『三つの消失』 ピエール・ボアロー
 まず、名画の消失トリック自体はつまらないものです。私自身、まず頭に浮かんだのですが、ダ・ビンチの名画を燃やすという傲慢な行為はいくら何でもやらないのではないかと思いましたし、そもそもこれでは消失ではなく“消滅”ですから。

 ところが、第二の消失事件がこれを救っています。城館に忍び込んだ賊が絵のような包みを持ち出したことが見事なミスディレクションとなり、燃やしたという真相がうまく隠されると同時に、盗難という見せかけにリアリティが与えられているのです。

 第三の消失事件はおまけのようなもので、大したものではありません。結局、第一の消失と第二の消失の組み合わせが最大のポイントです。

『死者は旅行中』 トーマ・ナルスジャック
 解説で触れられているように、A.クリスティ『オリエント急行の殺人』のバリエーションですが、そちらが列車を舞台にしているのに対してこの作品では海上の貨物船が舞台となっているため、より限定された状況となっています。すなわち、犯人たちの当初の予定では、証人として予定されたジル以外の部外者は、事件が表面上の決着を迎えるまで介入する機会がまったくなかったはずでした。このことによって、“(ほぼ)全員が犯人”というトリックが自然に使える状況となっているのです。地上を走る列車では、なかなかこうはいきません。

 さらに、実際にその場で殺人を行うのではなく、“消失”させていくというアイデアはよくできていると思います。犯人たちの危険性は少なくなりますし、ジルの疑惑を消えたアメリカ人に向けることも可能です。そうなると、犯人たちとしてはますます仕事がやりやすくなるのです。
2001.07.25読了

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