黄昏のベルリン/連城三紀彦
1988年発表 文春文庫 れ1-16(文藝春秋)
本書の中心となる秘密――ヒトラーの息子――については、早い段階で予想できた方も多いのではないでしょうか。ナチス絡みの物語であることは序盤から明らかですし、青木をヨーロッパへと誘い出したマイクらの企みも、青木から何かを手に入れるというよりも青木自身を掌中に収めることを狙っている気配が漂っています。そして青木が混血であることを考えれば、答は自ずと明らかだと思います。
しかし“ヒトラーの息子”のみならず、“ヒトラーの孫”までも手に入れようとする二段構えの企みにはやられました。ベルリンへ誘い出すために青木を籠絡するだけでなく、青木の子を身籠るという、エルザが帯びた二重の任務がよく考えられています。そしてそれが成功したがゆえに、結末で青木を逃がすことができたというプロットがまた見事です。
“第三のベルリン”のトリックは、仕掛け自体は古典的なもので、多くの前例もあります。しかし、それら前例の多くが罪体や事件の“消失”という効果を狙っているのに対して、本書では純粋に場所を誤認させることを目的としているところがユニークです。それを支えているのはもちろん、(当時の)東西ベルリンの置かれた状況の違いで、舞台やテーマと密接に結びついた見事なトリックの使い方といえるのではないでしょうか。
2007.12.06読了