ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.31 > 愛は血を流して横たわる

愛は血を流して横たわる/E.クリスピン

Love Lies Bleeding/E.Crispin

1948年発表 滝口達也訳 世界探偵小説全集5(国書刊行会)

 この作品で最もユニークなのは、やはり被害者の一人であるサマーズ自身によるアリバイ工作でしょう。サマーズが殺されてしまっていることで、この真相が盲点になっているところが実に巧妙です。最終的な状況にとらわれず、“被害者→殺人者”という変換に成功すれば真相を見破ることはさほど困難ではないかもしれませんが、実際には先入観が邪魔をしてしまい、サマーズに疑惑を向けるのは難しいのではないでしょうか。

 アリバイ工作の手段がわかれば化学実験室の盗難事件ともうまくつながってくるのですが、手がかりが電熱器だけではなかなか難しいでしょう。
 なお、念のためにあぶり出しインクについて補足しておきます。希硫酸はほぼ無色透明ですが、熱により水分が蒸発して濃硫酸になると強力な脱水作用を持つことになります。紙は炭水化物、すなわち炭素・水素・酸素からなるものですから、水を奪われて炭素だけが残り、黒く変色するのです(すべては後知恵ですが/苦笑)。

2001.11.26読了

黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.31 > 愛は血を流して横たわる