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人魚とミノタウロス/氷川 透

2002年発表 講談社ノベルス(講談社)

 「読者へ」における“フィクション宣言”の直前には、“鋭敏な読者は第一章の冒頭でたちまちお気づきになったと思うが”と書かれています。これは、冒頭の“――二十世紀最後の夏。(中略)氷川は、いまだに小説家になれてはいなかった”という記述が、作者・氷川透が2000年5月にデビューしたという現実と矛盾することを指しているのでしょうか。

 さて内容の方はといえば、犯人を特定するロジックには特に穴も見当たらず、よくできていると思います。特に、第二のエタノール容器の所在は秀逸です。しかし、印象に残ったのはむしろ、“バールストン・ギャンビット”の可能性が最後の最後になってようやく排除されるという展開で、それが済むまでは厳密には犯人が特定できないというところが非常に面白く感じられます。

 ただし、最初の死体が生田瞬のものではないことを証明する手順には、一つだけがあるように思います。
 氷川は、犯人らしき人物がまっすぐ第三面接室に入っていったこと、そして生田が外部に連絡を取っていないことを根拠としていますが、これでは“犯人らしき人物は生田瞬が外部から呼び寄せたものではない”ことが証明されたにすぎません。したがって、生田以外の人物(例えば氷川が第一の犯人と指摘した人物)が密かに外部と連絡を取り、実行犯となるべき人物に面接室の変更を伝え、第三面接室を訪れたその人物が生田に返り討ちにされた、という可能性が残っているのではないでしょうか。
 この場合、いわばアクシデントによる殺人となるので、生田が相手を焼き殺すまでするとは考えにくいのは確かですが、それはあくまでも蓋然性の問題であって、論理的に不可能とはいえないでしょう。生田はもともと第四面接室にいたのですから、そこに準備されていたエタノールの容器に気づいていた可能性もあり、手段・機会ともに論理的には否定できません。

2006.01.20読了

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