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昆虫探偵/鳥飼否宇

2002年発表 (世界文化社/光文社文庫 と16-1)
「蝶々殺蛾事件」
 ムクゲコノハの墜落が擬死だということは予想できましたが、その原因がコウモリだというのは、ヤガ類の特性をうまく生かした解決だと思います。また、不機嫌なオオクワガタという伏線もまずまずです。

「哲学虫の密室」
 地震という伏線がうまく使われています。ラストも印象的です。

「昼のセミ」
 この作品では、ペリプラ葉古だけが真相を見抜いていることからもわかるように、人間の知識によって謎が解明されています。これでは、登場人物(?)たちが昆虫である意味があまりないわけで、せっかくの設定がうまく生かされていないのではないでしょうか。

「吸血の池」
 フチトリゲンゴロウの死因については、体液を吸い取られていたという事実が巧妙なミスディレクションになっています。また、体液が吸い取られた場所は、見事に盲点を突いています。
 なお、二階堂黎人『吸血の家』をお読みになった方はおわかりかと思いますが、(以下伏せ字)犯人の所在(ここまで)が共通しています。

「生けるアカハネの死」
 被害虫の上翅が残されていたことが、犯人がシジュウカラではないことを示す手がかりとなっています。他にも、シロコパκ氏の“偽の解決”が合理的に否定されていく過程が面白いと思います。

「ジョロウグモの拘」
 注意:文庫版にのみ収録されたエピソードなので、ネタバレ感想全体を伏せ字にしておきます。
 (以下伏せ字) 振動に気づかないことから犯虫がクモだと断定するところもよくできていますが、ジョロウグモの雄の生存戦略から真相が導き出されているところが非常に秀逸です。まさに昆虫ミステリならではといえるのではないでしょうか。(ここまで)

「ハチの悲劇」
 シロコパκ氏が以前はクロオオアリだったという真相はあまりにもとんでもないものですが、人間の葉古小吉がゴキブリに変身してしまったという冒頭のエピソードが伏線になっているともいえます。つまり、この世界では必ずしもアンフェアとはいえないのではないでしょうか。
 なお、文庫版解説351頁の“トゲアリ”はもちろん、“クロオオアリ”の誤りでしょう。

2002.10.20読了
2005.05.27文庫版読了

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